#292 その病は……
「あなたは『欲しい欲しい病』です」
「……欲しい、欲しい、びょう?」
真剣な顔でそう告げる先生。
あまりに真面目な顔をしているものだから、もっと難病が告げられると思っていたのに、先生の口から出てきたのは、初めて聞く、そしてどこかおかしな病名だった。
「……なんですか? それ」
「『欲しい欲しい病』とは、人間誰しもがなる病だ。自分が『欲しい』と思ったものを買ってしまう」
「はあ……」
「恐ろしいのは『欲しい』と思ったら買ってしまうところだ。我慢すればするほど、『欲しい』思いは増えていき、歯止めが効かなくなる」
最近買い物癖が酷くなっていたから、病院に来てみたのだが、ようはストレスで爆買いをしてしまっているということだろうか。
「原因は君が考えている通り、ストレスだ。だが、ストレスだけではないとも言える」
「どういうことですか?」
「コレクション性が要因になっているパターンだ。コレクションアイテムなどを全部集めた時の達成感がクセになり、次のシリーズも集め始める。そして、最初は純粋な『欲しい』という理由で買っていたものが、いつしか『コレクション』が目的となっていく。『ここまで買ったんだからこれも買おう』。『アレと同じ世界観だし、並べたいな』、『買わないと後悔するな』など『欲しい』から離れていくんだ。君はここ最近の買い物をどんな理由で買ったか、そしてそれは純粋な『欲しい』という欲から買ったかい?」
「……」
「幸い、借金まではしていない今なら、まだ治せる。いいかい? 今から家に帰るまで、『欲しい』と思ったもの以外は買わないこと」
そう言われたのを最後に僕は病院を出た。
しかし、『欲しい欲しい病』なんておかしな病だ。まだストレスと言われた方が納得できる。それなのにわざわざおかしな病名までつけてくるなんて。
あ、そういえば今日新しいアイテムの予約開始日だったよな。さっそくページ開かないと。
病かなんだか知らないけど、欲しいんだから仕方ないよねぇ……。
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