#286 山の仕事

「よ! お疲れさん」

「大貫か」

 大きめの岩に座って休憩をしていると、小さな袋を手にした大貫がやってきた。

「なんだ、もう交代の時間か?」

「バカ言え、俺は今日休みの日だ。ここ最近は暇な時期だからな。辛いだろうと思って話し相手に来てやったぜ」

 大貫の言う通り、ここ最近僕たちの仕事は全然忙しくない。『暇』と誰もがぼやいてしまうほどだ。

「それはありがたいね。僕は今、まさに暇で暇でこの岩と一体化しそうだったよ」

「一体化しちまう前に間に合って良かったぜ。ほら、桟元さんもとの婆さんが作ったおはぎだ」

「ありが──ってなんでおはぎ? 支障出るでしょ」

「繁忙期ならともかく、今の時期は大丈夫だよ。昨日だって全く叫ばなかったんだから」

 昨日は大貫が当番の日。だからこいつの言っていることは、つまり『飲み食いしても仕事に支障は出ない』ということ。通常であれば、飲み食いはこの仕事に支障が出るため禁じられている。しかし、今の暇な時期は許されているのだ。

「登っている人間はいるらしいけどよ、まだ『場所』には到着してねえみたいだ。ひとつくらいならいけるって」

 大貫がそう言うならいいだろう。ひとつ手にとって、口の中へ放り込んだ。

「うん、うまい」

「だろ?」

 それから僕と大貫は他愛のない会話を続けた。

 そして、連絡組から人間が『場所』についたと連絡が入った。

「よかったな、今日は仕事あるみたいじゃねえか」

 大貫の声には答えず、僕は喉に手を当てるながら、意識を耳に集中させる。

 その様子を見て、大貫も静かにしてくれた。

 僕の耳が人間の声を捉えた瞬間、すぐに喉をいじって叫ぶ。


「『やっほー』……『やっほー……』」


 このくらいの距離なら、二、三回で十分だろう。

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