#268 男のルーティン

 男は決まって朝6時に起きる。

 二度寝することはない。まるでロボットのようにパチリと瞳が開き、すぐに洗面台へ向かう。歯を磨き、髪を整え、朝食のパンをトースターにセットする。粉末スープの素をカップに入れ、沸かしたお湯を注ぐ。

 焼き上がったパンにクリームチーズを乗せ、食べる。スープを飲む、パンを食べる、スープを飲む。

 食後のコーヒーを嗜むと、スーツに着替えて出勤の準備をする。

 出勤時刻になると、男は一度仏壇に向かう。線香を立てて、手を合わせる。


「イッテ、キマス」


 仏壇の写真には男と全く同じ顔の男が写っていた。


「アナタノブンモ、ガンバリマス」


 男は立ち上がる。

 ──男は人間ではない。写真に写っている人間の分身。ロボットだ。

 元の男は仕事のストレスで自殺した。しかし、男は小心者だった。自分がいなくなれば、仕事場の仲間に迷惑がかかる、親に迷惑がかかる、事故物件だと大家に迷惑をかける、そもそも怖くて自分で自分を殺せない。

 そこで男は「ロボットサービス」を利用した。自分と瓜二つのAIロボットを作成して、ロボットに自分の代わりとして今後の人生を生きてもらう。

 本物はもうここで終わる。看取りもロボットに任せた。人間の彼は半年前に人生を終えた。

 半年間、いまだに男がロボットと入れ替わったことに、誰も気づいていない。

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