#264 詐欺師

 私は独野どくのけい。詐欺師だ。詐欺師の中でも結婚詐欺に部類される。

 結婚詐欺師がなにかは、語るまでもないだろう。たとえ知らなくても“詐欺師”とついている時点で“悪”と認識する人が大半だ。そこに今更具体的な説明など不要。蛇足でしかない。

 もちろん私も自分の行いが“悪”であることを自覚した上でこの仕事をしている。負い目を感じながらも、人生を生きていくには、飯を食べていくにはこの道を進むしかなかった。

 いつか天罰が降ろうだろうとは思っている。

 そしてその天罰は、どうやら今日下されるらしい。


「初めまして、久留美野くるみのと申します」


 待ち合わせ場所に現れた女性。

 名前を見た時に“もしや”と思ったが、当たってしまったようだ。

 彼女は私が中学生時代に初めて恋をした人。当時とは雰囲気も髪型も異なる為、バレないとは思う。

 しかし、


(変わらず、美しいな……)


 初恋の人に対して詐欺を働くのは、いささか心が痛む。むしろこのまま、本当に結婚してしまおうか、そう思うのだった。

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