#52 白電話

「ん? おおー、これって白電話じゃね?」

「白電話?」


 学校の放課後。俺と栃馬とちばはとあるアンティークショップにやって来ていた。栃馬の趣味であるアンティークショップ巡り。どうやら通学路で新しいアンティークショップを見つけたようで、昼休みに早速行こうという話になった。

 入店して早速、栃馬が見つけたのは「白電話」だった。


「黒電話じゃねえのか?」

「そ、白電話だよ。実物は初めて見たな」


 キラキラとした瞳で白電話を見つめる栃馬。

 まあ、今の時代、そもそも固定電話が家にあることが珍しい。誰しもがスマートフォンを持っている時代。家に固定電話を置く理由がなくなったのだ。もう固定電話を置いているのは、一定の年齢を超えたじじばば世代だろう。

 俺だって、漫画を見てなければ黒電話なんて知らない。

 ……ん? 黒電話は知っているけど、「白電話」なんて聞いたことないぞ。


「なあ、白電話なんてあったか?」

「あー、普通は知らないよね。『白電話』なんて言われてるけど、世間に出回った事なんてほとんどないし」

「出回ってないのか?」

「うん」

「じゃあ、なんでそれがここにあるんだよ」

「それは……店主さんに聞けばわかるかも。ちょって探してくるね」


 そう言って、栃馬は店の中を探し始めた。

 白電話の前に取り残される俺。

 栃馬は言っていた。白電話は世間に出回っていないと。なぜそんな品物があるのか。

 考えていると、突然白電話が鳴り始める。ジリリリ、とでかい音。


「は?」


 俺は突然のことにパニックになりかけた。なぜ店にある商品が鳴り響いたのか。

 辺りをみまわたすが、他に客の影も、こんなに大きな音を出しているのに店主が来る気配がない。


「…………」


 白電話は鳴り続ける。

 俺の手は自然と動き、白電話の受話器をとる。


「……もしもし?」


 なぜ、電話に出たのか分からない。

 店の商品なのだから勝手に出たらまずいだろう。そうとわかっているのに、頭ではわかっているのに、体が勝手に動いた。

 そして、


『──おお、ゆっくんかい?』

「え?」


 聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 その声は忘れもしない。俺の、


「じいちゃん?」


 一昨年に亡くなった祖父の声だった。


「じいちゃんん……なんで」

『なんでって、ゆっくんに電話をかけたんだよ。ほら、今度遊びに来るって言ってただろ?』


 今度? 今度っていつだ? 確かにじいちゃんが死ぬ前に『今度遊びに行く』と約束した。けど、まさかこれのことを言っているのか?


『どうだ? いまからじいちゃんのトコ来ないか?』

「……え?」

『じいちゃん最近家を変えてな。今から言うところが、じいちゃんの新しい家の場所なんだ。だからそこに来てくれ』

「でも、じいちゃんは一昨年に──」

『何言ってるんだ、ゆっくん。おじいちゃん、ゆっくんに会えるの楽しみにしてるんだから。ほら、早くこっちにおい──』



「ユウマ!!」



 ガチャン! と俺の手から受話器を取った栃馬が手荒に白電話に受話器を叩きつけた。


「びっくりした……なに白電話に出てるんだよ」

「何って」

「白電話は『あの世』と繋がる電話だ。でちゃ駄目だった前に話したろ?」

「……いや、知らねえよ」

「んー、ま、一言言わなかった俺も悪いか。けど間に合ってよかった。あのまま続けてたらお前も『あの世』に行ってたからな」


 呆気らかんと言っている栃馬。

 けど俺の頭はそれどころじゃなかった。だって、それってつまり、じいちゃんが俺を『あの世』に呼ぼうとした……俺を殺そうとした? あんなに優しかったじいちゃんが?

 信じられない……。


「どうした? 顔色悪いぞって、まあ、無理もないか。今日は帰ろう」


 そう言って、俺の手を引く栃馬。俺は栃馬に引っ張られるがまま、店を出た。

 

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