#11 現代ヒーローの悩み

 現代ヒーローの悩みを知ってるか?

 そう、俗に言うスーパーヒーローが抱える悩みだ。

 スーパーヒーローといえば、マッハで空を飛び、鉄骨を割り箸のように折り曲げ、化物と戦う超人のことを示す。

 ヒーローと周りから称賛され、黄色い歓声を受ける。

 芸能人にも負けない超人気者だ。

 そんなヒーローにだって悩みはある。プライベートなことからヒーローとしてのことも。そんな中で、今一番ホットな悩みがある。

 同族を手にかけること?

 正体を隠すこと?

 讃えられるのは『ヒーローの自分』であって『本当の自分』ではないこと?

 そのギャップに苛まれること?

 孤独に戦うこと?

 どれも悩みの一つではあるが、今ホットなのは違う。

 今ホットなのは『変身のタイミング』だ。今の時代、正体を隠して変身する難易度が鬼ムズなのだ。

 原因は明白。時代の進化だ。時代と共にIT技術が進化してきた。今じゃ小学生ですらスマートフォンを持っている。そのスマートフォンには恐るべき精度のカメラが内蔵されており、もはやそれは一人一人が小さな監視カメラを持っているようなものだ。今じゃスマートフォン一つがそこそこのカメラに近い値段をしている。完全なバグだ。

 SNSを調べれば、一体どこで撮ったんだ? と言いたくなるような動画を投稿しているアカウントが数え切れないほどある。

 町の監視カメラだってそう。化物たちによる犯罪防止および迅速な鎮圧を目的として、監視カメラの数が増大している。

 もはや監視社会だ。息苦しいったらありゃしない。

 ほら、仕事で来た取引先のビル。入り口付近にカメラ、受付付近にカメラ、エレベーターにカメラ、カメラ、カメラ、カメラ、どこもかしこもカメラだ。

 あ。


「た、大変です部長!!」


 胸の内側にしまっている端末が化物の出現を知らせたのと同時。血相を変えて取引先の社員が駆け込んできた。


「ば、ばばば、化物です!!」


 はぁ。私が一番憂鬱になる時が来た。

 これから私はスーパーヒーローに変身して化物と戦わなくてはいけない。

 そう、だ。

 まずこの部屋から出て、怪しまれないように人気ひとけのないところに行き、カメラのないところを見つけて変身しなくてはいけない。そもそも化物が出現しているなか、一人行動を取るための口実を考えなくてはいけないし、こんな危険な状況で単独行動はあまりにも目立つ。ようやくそれを回避でき始めた途端、今度はカメラだ。

 この監視社会の中、カメラのないところなんてあるのだろうか。しかもこの会社、他社に比べて監視のためのカメラが多すぎる。そもそもカメラのないとこに行くなんて行為自体があまりにも目立つし怪しい。

 おかしい、私はスーパーヒーローなのに、なぜこんなにも悩まなくてはいけないのか。ヒーローの悩みはこんなものであっていいはずがない。

 まあ、ゴタゴタ言っていても仕方ない。これ以上時間が経ってしまうと、駆けつけるのが遅くなってしまう。

 そのせいで言われもない誹謗中傷を受けるのだ。


「そうですね。避難しましょう」


 そう言って、私は踵を返した。

 なんとか変身する場所を見つけるために。

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