365日のショートショート集
水卵
#01 年
「あー、今年も終わりか」
こたつで暖まり、年末特番を回し見しながら僕はつぶやいた。
もちろん、SNSにも同じ意味合いの、しかし文は少し変えて投稿する。
そのままスクロールすれば、年末の特番感想やらなんやらの投稿が流れていく。
12月31日。
大晦日と呼ばれ、一年が終わりを迎える日。
1月1日から始まった『今年』。そこから365日経過したこの日に『今年』が終わり、明日になれば『来年』になる。
すでに時刻は23時。
あと一時間で元日だ。
『来年』が『今年』になる。
「今年は……まあ、特別なことってないよな」
この時期はよく『今年を振り返って』と目にする。
一年の終わりに、今年一年あったことを振り返る。
僕自身は振り返ってみても、特別なことはない。
普通に365日を過ごした。
去年は……そうだな。今と同じく年末特番を回し見して、SNSを流し見して、よくやっているアプリゲームの年末特番の時間になったらそれを見て、番組内で発表された新しキャラクターに歓喜して、新年を逆立ちして迎えたっけ。
そして、新年になったら早速ガチャを回す。
……うん。驚くほど薄いな。
とはいえ、特別なことなんて何もないし、する気もない。
いつも通り、年末の空気に当てられ、少し緩んだ財布から諭吉がたくさん飛んでいく。スーパーで「それ普段は絶対買わないよな」ってお肉やお寿司やなんやらをカゴに詰めていく家族を見ながら、自分も同じようにカゴへどんどん放っていく。
SNSを見れば、早速締めの挨拶をしているアカウントがある。
「気が早いことで……」
時計を見れば、長身が「11」を超えていた。
「あ、5分切った……」
相変わらず時間が経つのが早すぎる……。
ま、いいか。
そんなものは気にせず、さて、来年をどう迎えようかと思考を切り替える。
今年は……うん、ジャンプでいいか。よく見るけど、今まで一回もやったことなかったしな。
「少し寂しいけど、さようならっと今年」
こたつから抜け出して立ち上がる。
時計を見つめ、秒針の動きを見つめる。
1秒、1秒、進んでいき、
「5、4、3、2、1──」
あ、やばっ。
「つったあぁ!?」
右脹脛に激痛。
間違いないつった。
変に足に力入れたせいでつった。
そのせいで着地に失敗してダウン。
しかもよりによってテーブルに頭ぶつけたし、何これ最悪すぎる……。
「っててて………あー最悪な新年の迎え方……」
最悪だ。
だけど、まあ、一応年は明けたわけだし、この状況も踏まえてSNSにあげるか。
「あれ……?」
違和感に気づいたのは、テレビの音声。
つけっぱなしにしてたから、新年を迎えた番組の声が聞こえてくるはず……それなのに、何もない。
テレビは真っ暗。
不気味なほどに静か。
スマホの画面を点ける。
そこには──
「12月、32日???」
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