抜け殻の羽衣

物部がたり

抜け殻の羽衣

 あれは三歳のころのこと、「マー、マー」と蛇の皮を初めて見たれいは興味を示した。

「マー、マー」というのはママという意味で、「マー、マー」を翻訳すると「これはなあに」という意味になる。

 他人にはわからないが、母にはわかった。

「これはヘビの抜け殻ね。蛇は古くなった皮を脱いで、大きくなるの」

 れいのお母さんは、まだ言葉を理解していないれいに丁寧に教えてあげた。

「マー!」

 れいが抜け殻を太陽に透かして、覗き込むと万華鏡のような虹色の光彩を見た。

 

 れいが小学生になったとき、人生で二度目のヘビの抜け殻を見た。

 興味はあったが好奇心よりも恐怖心が勝って通り過ぎた。

 れいが高学年になったとき、今まで見たことがないほど大きな蛇の抜け殻を見つけた。れいの前に現れる蛇の皮は年々大きくなっていた。

「大きいな。気持ちわり~」

 れいは友達と一緒に蛇の皮を裂いて遊んだ。玉ねぎの外皮のような裂き心地だった。

 

 あれは小雨の降りしきる、思春期の中頃。蛇を見つけた。脱皮途中の蛇の薄衣が、お風呂に入ってふやけた皮膚のようにぶかぶかしていた。古くなった皮膚が垢になって剥がれるみたいに、古くなった蛇の口から、新たな蛇が円を巻いて生まれる姿は神話の蛇のようだった。

 後日、その場所に行ってみると、蛇の抜け殻だけが後に残されていた。大きさの割にとても軽く、風に吹かれて空高く飛んでいった。

 れいが大人になったとき、とても大きなアオダイショウが道を横切った。幼少のころに見た蛇と似ていた――。

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