第25話狂戦士

 酒場を出た僕と愛花ちゃんは、特に行くあてもないため適当に雑談を交えながら街道を歩いた。


「それで彼方。今の話受けるの?」


 愛花ちゃんに聞かれ、僕は首を横に振る。


「まさか。めんどくさいし、僕にメリットもなさそうだから受けるつもりはないよ」


「じゃあさっき断ればよかったじゃん」


 素直に疑問をぶつけてくる愛花ちゃんだが、こう言うところがコミュ障なんだなと思ってしまう。でも別にバカにはしない。僕だって人付き合いは苦手だし、空気を読むのも得意じゃない。だから僕は、優しく何故あの場で断らなかったのか説明する。


「考えもせずにすぐさま断るのは失礼じゃない? 彼とは長い付き合いになりそうだし、ここで好感度を下げるのは得策じゃないなって思ったんだよ」


「ふーん、そんなめんどくさいこと考えてたんだ」


「め、めんどくさいって……」


 聞いてきたくせに興味なさげな愛花ちゃんの態度に少しだけイラっときて、つい意地悪を言ってしまう。


「なら、僕の代わりに愛花ちゃんがギルド長になってよ。そうすればベリトさんの好感度も下がんないし——」


「やだ」


 食い気味に断れて、若干気圧される。


「そんな嫌なの?」


「私は人と関わるのが得意じゃないし、まとめ役なんて絶対無理」


「まあ、愛花ちゃんインキャだもんね」


「は? 殴るよ」


 言いながら僕の二の腕をつねってくる愛花ちゃん。痛い。僧侶だから筋力ステータスは高くないはずなんだけど、腐ってもレベル5なだけはある。


「ごめんごめん」


 悪びれる様子もなくただ謝罪の言葉を告げると、話を切り替えるようにメニューウィンドウを開く。


 それからスキルポイントの振り分け画面を開くと、愛花ちゃんに問いかける。


「ねえ、どれに振った方がいいと思う?」


 無数にあるスキル一覧を見ながら、愛花ちゃんに相談するように聞いてみると、彼女はため息をつきながら。


「自分で決めた方がいい」


 淡白な正論を吐いてくる。確かにその通りだけど、ちょっとぐらい何か案を出して欲しい。


「そんなこと言わずに、なんかないの? ほら、例えば魔法を使って欲しいから、魔法スキルを上げて欲しいとか」


 この世界は始まった瞬間にそれぞれ職業が割り振られるが、どのようなスキルを振るかは自由自在なのだ。つまり戦士職でありながら、魔法も使いこなせる魔法戦士のように育てることも出来るのだ。


 だが愛花ちゃんは、またもため息を吐いて当然のことを言ってくる。


「戦士職は魔法攻撃力のあたいが低いから、魔法職とのシナジーは良くない。もっと他のものに振るべき」


 例としてあげただけなのに、何故かダメ出しされる。別にそんぐらいわかってるよ! 今適当に出しただけじゃん! 全く愛花ちゃんは、そこらへんのところを汲み取って会話をして欲しい。


 僕は悶々とした気持ちのまま、無数のスキルを見る。


「彼方が振りたいやつはないの? ないなら、普通に戦士のスキルを上げればいいじゃん」


「ん~。戦士はなんか守りと攻撃力が上がるだけじゃん。それは面白くないと思わない?」


「面白いか面白くないかでスキルを振ってるのは、彼方ぐらいだと思う」


「そんなことないと思うけどだぁ……。あーそれで、僕の振りたいやつなんだけどね、1番候補として上がってるのはこれなんだよね」


 僕はスキル画面を右にスワイプして、お目当のスキルを愛花ちゃんに見せる。


「この狂戦士ってやつ。見てこれ。上がるステータスが全部攻撃力のみで、守りを全て捨てたストロングスタイル! 僕としてはこれがいいんじゃないかなーって思ってるんだよね」


 僕の第一候補を愛花ちゃんに教えてみると、彼女はドン引きした表情を浮かべる


「彼方。本気で言ってる?」


 どうしてこんな反応をされるのか僕には理解できない。


「うん、何か問題でもあるの?」


 小首をかしげて問い返すと、愛花ちゃんは普段よりも大きな声を出して。


「大問題だよ!」


 大げさに言ってくる。愛花ちゃんがこんなに大きな声を発したのは初めてだ。さっきのクエストを受ける時でさえ、こんな大声は出さなかったというのに。


 でも、こんなに言われてもやっぱりこのスキルを振ることの何が問題なのかわからない。だから素直に聞いてみる。


「愛花ちゃん。どうして狂戦士は振っちゃダメなの?」


 純粋無垢な視線を浴びせてやると、愛花ちゃんはもう何度目か分からないため息を吐いて教えてくれる。


「まず、攻撃力系統のステータスしか上がらないこと。HPも防御も魔法防御も上がらないスキルなんて、これぐらいだよ」


「確かに守り方面は薄くなるかもしれないけど、その分攻撃力が上がるんだから良くない? ほら、攻撃は最大の防御って言うし……」


 あきれ返る愛花ちゃんを説得してみるが、彼女には理解されない。愛花ちゃんは僕の発言を無視すると、続けて狂戦士の悪いところをあげる。


「何よりも一番問題なのが、このスキルポイントを100振ることで得られる『狂戦士の怒り』ってパッシブスキル。何これ!」


「何って、見たまんま常時100%の攻撃バフがもらえる神スキルだけど……」


「違うよ! その後のこれ! 何この全ての防御ステータスー30%て! 馬鹿なの? 死ぬの?」


 興奮気味に罵倒してくる愛花ちゃんだが、やっぱり問題がわからない。


「防御マイナス30%の損害よりも、攻撃力100%の恩恵の方が大きくない?」


「はぁ……。やっぱり彼方は頭がおかしい。攻略サイトにも、狂戦士だけには絶対にスキルポイントを振るなって書いてあるのに」


 愛花ちゃんの何気ない一言が僕の神経を刺激する。なんだその攻略サイトって! さっき酒場で言ってたウェブサイトのことか? 一体誰がまとめてるのか知らないが、流石にそんなエアプサイトには反論せざるおえない。


「そ、それはその攻略サイトを作った人の見る目がおかしいんだよ。そもそも始まって一週間のことなのに、なんでオススメのスキルとかわかるの? 実際に振ってもないだろうし、多分それ作った人僕たちよりも低レベルだよね」


 早口でまくし立てると、愛花ちゃんは「もう、好きにすれば……」と半ば諦めのように僕の説得をやめた。


 なら、もう振ってしまおう。この世界が支配されてからもうすでにレベルが5に到達していたというのに、僕はまだ1ポイントもスキルに振ってない。


 それは単純に、やり直しが効かないだろうから。もしかしたら後々強いスキルが解放されるかもしれないし、ここで振るのはもったいない気がしていたために、スキルポイントをケチっていた。


 だけど今日の戦いでわかった。僕がもしスキルポイントをケチらず振っていれば、もう少し楽に勝てただろう。


 今日は勝てたからよかったけど、次はわからない。死んだ後じゃ、後悔することすらできない。なら、振って後悔した方がマシだ。


 いいきっかけになったんだ。愛花ちゃんの後押しもあり、僕は彼女の目の前で狂戦士にスキルポイントを全部つぎ込む。


 そんな様子を隣で見ていた愛花ちゃんは、額に手を当てまたもため息を漏らしていた。








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スキルポイントやその他の設定なんかは結構雑に決めてます。

もし設定を知りたいって声があれば、まとめたものを出すかも?

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