第13話心配

 高い木々が生い茂る森林内。太陽は沈みかけ、データの世界は綺麗なくれない色を演出する。そんな不気味に赤く薄暗い森の中で、目の前のモンスターは一際まばゆい光を放っていた。


 《Lv4サンダーウルフ》と書かれた敵MOBは「ワオォォン!」と雄たけびを上げると、綺麗な白い毛皮に電気を纏い、僕に突進し噛み付いてくる。


 ウルフというだけあり、動きはかなり素早い。攻撃をかわしてもいいが、もしかしたら回避した隙を突かれる可能性がある。


 なら! 噛み付いてきたウルフの口元にスッポリハマるよう、僕は剣で攻撃をカードする。ガリガリと黒色の剣に噛み付くウルフの口元からは、血が滲みでており、HPも少しづつ減っている。

 

 でも体力が減っているのは僕も同じで、手に持っている剣からウルフの雷が感電して僕の体力を蝕んでいく。体力の減りは僕の方が早く、このままの状態をキープしていたら確実に押し負けてしまう。


 でも、案ずることは何もない。後ろでステッキを構えていた愛花ちゃんは。


「《キュアラ/中回復》 」


 と呪文を唱える。すると僕の減っていた体力が一瞬で全回復し、HPの形勢が逆転した。やっぱり戦闘中に回復魔法を扱えるのは素晴らしい。


 このゲームの仕様上、モンスターが複数体で襲ってくることは今の所ない。敵一体と戦闘に入ると青色のサークルが形成され、その中でパーティーメンバー対敵モンスターが戦う構図となるからだ。


 なので、敵モンスターというのは同じような特技や魔法しか扱ってこないため、1度でも慣れてしまえば対処はしやすいのだ。


 まあその分、敵一体あたりのステータスはかなり高くなっているけど……。僕は剣に噛み付いているサンダーウルフを地面に叩きつけると、すぐに足で抑え込み斬りつける。


 素早いモンスターはHPが低い傾向にあるため、こうやって抑え込んでしまえばこっちのもの。動けなくなったサンダーウルフの腹部をバシュバシュ斬り裂くと、敵のHPバーは完全に消失した。


 倒して経験値やゼニーを得ると、目の前にクエストクリアのウィンドウが表示され達成感を感じる。


 僕が満足気にしていると、後ろにいた愛花ちゃんが近寄ってきて、キュアの呪文を唱え回復をしてくれる。


「ねえ彼方、大丈夫?」


「大丈夫って?」


「HPが3分の1以上減っていたのに、体は大丈夫なのって聞いてるの」


「あぁ、別に平気だよこのぐらい。愛花ちゃんが回復してくれるから、痛みもないしね」


「……そう。じゃあ帰ろ」


 愛花ちゃんに言われ、僕たちはスタートに戻った。彼女が心配してくれるなんて珍しいなと思いつつも、冒険者ギルドにワープして報酬をもらう。


 時刻にして18時23分。これからは夜仕様のモンスターがマップにポップするようになり、危険度はより一層上がる。あまり夜に活動するメリットはないが、僕としてはまだ物足りない感が否めない。


「これからどうする? 愛花ちゃんさえ良ければ、もう少しだけ……」


「今日は疲れたから帰る」


 全て言い終わる前にきっぱり言い切られてしまい、僕はもやもやとした感情のまま帰路に着くことにした。


 僕の家は街の外周部付近にあるボロい木造の家だ。ホコリも多いし、虫も出るし、決して良い物件とは言えない。

 

 だけど、始まって一週間で自分の家を持っているというのは結構すごいことなのだ。こんな家でもそこそこの値段がするため、ほとんどの人間は街のどこかで野宿をして暮らしているのだから。


 僕はドアのロックを解除すると、家の中にいる人物に挨拶をする。


「ただいま、母さん父さん」

 

 挨拶をすませると、ちょうど料理を作っていた母さんと父さんが。


「おかえり彼方」


 と挨拶を返してくれる。


「お疲れ彼方。今日も外に出てたのか」


 父さんは僕の服装が汚れていることに気がつくと、労うように僕が何をしていたのか尋ねてきた。


 だからちょっと自慢気に、今日の成果を報告する。


「うん、ダンジョンに潜ってたんだけど、そこそこいい経験値とゼニーが手に入ったんだよ」


 僕は人差し指を下ろしメニューウィンドウを開くと、1000ゼニーをオブジェクト化させ、母さんに渡す。


「はい母さん。1000ゼニー入ってるから、計画的に使ってね」


 なんて出来る息子なのだろうと思いながら1000ゼニーの入った袋を渡そうとするが、母さんは浮かない顔で僕の差し出したお金を受け取った。


「ねえ彼方。ダンジョンって危ないんじゃない? 怪我とかしてない?」


 心配性の母さんが僕の身を案じてくれるが、それには及ばない。


「別に平気だって。仲間もいるから、いくら怪我をしたところで問題はないし……」


「問題なくないわよ!」


 突然に大きな声を上げる母さんに驚く。一体なんだってんだよと腹をたてると、母さんは泣きそうになりながらも言葉を続ける。


「彼方がモンスターと戦ってる間に、私がどれだけ心配したと思ってるの?」


 母さんは悲痛の叫びをあげるが、僕はその言葉にまたも腹をたてる。


「じゃあ、僕が戦わなかったらどうするの? 母さんが代わりに戦って、稼いでくれるの?」


「か、彼方が戦うぐらいなら、私が……」


「無理だよ。そんな動機でモンスターに勝てるはずがない。このゲームが始まって一週間が経つけど、すでに400万人以上が亡くなってる。このままいけば、母さんも同じ道を辿たどることになるよ」


「で、でも、私は彼方が心配で!」


「じゃあこのまま餓死するのを待つの? 心配する気持ちはわかるけど、正直ありがた迷惑だよ」


「う、うぅ……」


 久しぶり、もしかしたら初めて母さんと口喧嘩をしたかもしれない。しかも泣かせてしまった……。


「今日は外で食べてくる」


 居心地の悪くなった僕は、逃げるようにして我が家を飛び出す。ちょっと言い過ぎたかもしれない。でも、やっぱり母さんの言ってることは間違ってる。


 それに僕はもう17歳なんだ。母さんに甘やかされる年齢ではない。はぁ……これからどうしよう。モンスターでも狩に行くか? でも、さすがに1人で夜マップをうろつくのは危険すぎるしな。

 

 どうしようか考えていると、タイミングよく一通のメッセージが送られてきたので目を通してみる。送り主は愛花ちゃんで、内容は「今から会えないか」というなんとも男心をくすぐる中身だった。


 別に断る理由もないし、タイミングもいい。メニューウィンドウからマップを開くと、愛花ちゃんに指定された場所に赴く。

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