第11話ダンジョン
「はぁ……はぁ……。愛花ちゃん、残りMPはいくつ?」
「あと18だけ」
「じゃあ、切れる前に終わらせちゃおうか」
僕は右手に持っているロングソードを敵に構えると、相手の動きを待つ。目の前にいる身長2メートルほどあるダンジョンボスの《Lv5オークキング》は、僕がジッとして動かないことに我慢できなくなったのか、安直な縦振り攻撃を僕目掛けて振り下ろす。
嘘みたいに太い腕から振り下ろされる、デコボコした形の悪い片手斧。当たれば即死はせずとも、体力が半分以上は持ってかれるだろう。
だが、当たらなければどうということはない。振り下ろした瞬間の隙を突くと、オークキングの胸にめがけて剣をぶっ刺し、そこから思いっきり下に向かって剣を降ろす。
気持ち悪い黄色の皮膚は裂け、赤色の血がブシァァアと吹き出した。血しぶきの雨が全身に降り注ぐと、間髪入れずにもう一振り、今度は腹に向かって剣を振る。
「グオオオォォ!」
醜い容姿から放たれる叫び声を聞くと、思わず気持ちが高ぶってしまう。あともう少しだ。もう少しで、目の前のモンスターに止めを刺すことができる。
オークキングは眼下にいる僕に大層ご立腹なようで「グルル」と獣のような呻き声をあげると、武器を持っていない方の手で僕を叩き潰そうと拳を振り下ろす。
だけど遅い。予備動作がわかりやすく、尚且つ動きの遅いモンスターほど対処のしやすい敵はいない。
瞬時にバックステップで回避すると、準備万端とばかりに愛花ちゃんが敵に向かって魔法を唱えようとしていたので、僕は射線上に入らないよう横に逸れる。
「《ファイアーボール/火球》!」
前に突き出した愛花ちゃんの手の平から、燃え盛る火の玉が射出され、モンスターの傷口を燃やす。
またも絶叫の悲鳴を轟かせるオークキング。敵のHPはもうすでに赤ゲージに突入している。あと少し。ダンジョンボスとはいえ、序盤ならこんなものか。
呆気ないと思いつつも、目の前で苦しそうに悶えているオークに向かって突進すると、ビュンっと勢いよくジャンプをしながら。
「《閃光斬》ッ!」
剣を
ドンと勢いよく地面にぶっ倒れると、血生臭い光景とともに蒸発の煙を巻き上げる。流石にこの光景はまだ慣れない。
ゲームのようにポリゴンが弾けたりしてくれればいいものを、この世界では血を垂れ流しながら、最後は骨とともに煙を出しながら蒸発するのだ。
そのなんともグロテスクで生々しいモンスターの姿からは、思わず目を逸らしてしまう。
だというのに、僕の数歩後ろにいる愛花ちゃんはまぶた1つ動かさず、モンスターが死んでいく様を眺めていた。
「いつも思うけど、愛花ちゃんはよく見れるね。僕はまだ慣れないよ」
「まあ、よくダークウェブとか見てたから……」
女子高生とは思えない発言。ダークウェブでグロ耐性を持ってる女子高生って、一体親はどんな教育をしたんだ。
他人の家庭に口出しをするつもりはないが、僕はこの子がちょっと心配だ。今度何気なく詮索でもしてみるか?
愛花ちゃんの家庭事情が気になりつつも、僕は目の前に表示されたウィンドウを確認する。
経験値1800に、3000ゴールド。ドロップアイテムは先ほど敵モンスターが持っていたであろう片手斧に、オークの毛皮。
1800もの経験値が入ると、ティロロンという効果音が鳴り響き、僕のLvが3から4に上がった。
やっぱりダンジョンボスなだけあって、経験値やゴールドも多いな。だけど本命は、この後に出てくる宝箱だ。
オークキングが完全に蒸発し姿を消すと、そこからピンクの
赤と金色に彩られた美しい宝箱を開けると「
装備すると、腰に携えられていたロングソードが、漆黒に光るカッコいい剣に姿を変えた。
「おお! 見てよ愛花ちゃん、カッコよくない?」
彼女に同意を求めるが、愛花ちゃんは口をへの字に曲げると。
「別にカッコよくない。それより、僧侶の武器はないの?」
僧侶職の武器が出なかったことに不満なのか、僕の剣を侮辱してくる。多分あまりにカッコいい戦士職の武器が出てしまったため、嫉妬し、強がりを言ってしまったのだろう。
「そんな拗ねないでよ。ダンジョンに潜ってれば、そのうち僧侶の武器か防具も出るって」
彼女を宥めると、僕たちは来た道を引き返す。現状確認できる範囲ではあるが、この世界は広大に広がる草原がマップの大半を占めている。
そんな草原だらけの世界にも、ゲームらしく洞窟のような形をしたダンジョンが無数に存在するのだ。
今は街から約10キロほど離れた場所にあったダンジョンを攻略し終えたところで、ここは冒険者ギルドが発行していたクエストを攻略している最中に、たまたま見つけたダンジョンだ。
洞窟内はジメッと湿り気を帯びており、壁の松明が不気味さを演出していてテンションが上がる。
でも流石にこの空間にいるのも飽きたので早く帰りたいんだけど、このゲームは変なところで不親切な設計なのだ。
ダンジョンでマップを開いてもワープすることが出来ず、一度入ったら外に出るまで転移機能を使うことが出来ない。
全く不親切な仕様だ。行きで倒したモンスターも戻る頃には リポップしているし、ダンジョンから帰還するというのはなかなかに手間のかかる行為なのだ。
でもさっき手に入れた黒色の剣を試し斬りするいい機会だし、まあいいか。僕は先ほど倒した半魚人のような体つきをした二足歩行のモンスターを発見すると、鞘から剣を抜き斬りかかる。
この武器は先ほどのロングソードより40も攻撃力が高く、さらに追加効果として攻撃力+5%の恩恵を得ることができるため、実質的には46ほど攻撃力が上がっている計算だ。
ザシュッと不意打ちをかますと、1発で相手のHPを4分の1ほど削り取り感動してしまう。素晴らしい威力だ。モンスターが戦闘態勢に入るのも束の間。円が形成されると同時に3発の斬撃を浴びせ、モンスターを屠る。
「見た愛花ちゃん! 行きじゃまあまあ苦戦してたのに、あっという間に倒せたよ」
自慢げに話すと、彼女はため息を吐いて僕の安直な行動を咎めるように小言を言う。
「彼方はもっと慎重になった方がいい。今は敵があんまり強くないからいいけど、いつかは足元をすくわれる」
「そうかな?」
「そうなの」
愛花ちゃんはズイと顔を近づけてくると、ジト目で僕に釘を刺す。可愛い。彼女の可愛さに免じて反省した振りをすると、僕たちはダンジョンを出て《はじまりの街スタート》にある冒険者ギルドにワープする。
冒険者ギルドの前にワープした僕たちは、決して豪華とはいえないギルド内にあるクエストボードの前に立ち、良いクエストがないか物色する。
ゴブリンの群れ討伐。キラーラビットからドロップするウサギの毛皮の納品。数々のクエストがあるが、もらえる報酬と経験値が多い「サンダーウルフの討伐」ってやつでいいか。
適当に決めると、クエストボードに貼り付けてある用紙を引っぺがそうとするが……。
「おい、これは俺が先に目をつけてたんだよ。離せ」
なんともガタイと態度のでかい男が、僕のクエストを奪い取ろうとしてきた。別にクエストを譲ってやるぐらいはいいけど、なんとなくこの男の態度と口調が気に入らなくて、素直に渡してやる気にはなれなかった。
「先に取ったのは僕です。あなたこそ手を離してください」
反抗的な態度をしてやると、短気なのかグシャとクエスト用紙を握りしめ。
「いいからさっさと離せよクソチビ、殺すぞ」
威圧的な態度でとんでもないことを口にしやがったので、さすがの僕も額に血管が浮き出て。
「は?」
臨戦態勢に突入する。
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