第28話
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第五章 魔族の国
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「うぅっ、すでにもう寒いんだけど。マリア、大丈夫?」
わたしは歯をカチカチと鳴らし、
隣に並ぶマリアも、ファーつきのコートを着込み、フードを
吐く息は白い。
周りには
わたしたちはトリトーネを北上し、山を渡っている最中だった。
山頂あたりから気温が急激に落ち込み、トリトーネとは反対方面の大地へ下っていくと、雪景色に包まれていったのだ。
天候は
右隣にいる聖女さまも気候には
「私はエステルで
マリアは、聖女さまとすっかり仲良し。特に
聖女さまもわたしに関しては
嫁公認だというのなら、わたしだって気負う必要はないし。ニヤニヤとしながら、ハーレム気分を
「おほんっ!」
が、わたしのハッピーを打ち砕くかのような、どす黒い
ついでに、わたしは前につんのめる。
「いったいなぁ、何すんだよ、リリ!」
こんなことするのなんて、魔族少女リリウェルしかいない。
わたしが
黒のコートに身を包んだリリは、彼女もまた両隣に女の子がいて、
右の色白美少女アイシャは白のシャツとかいう、とんでもない薄着で雪山に挑んでいる。が、彼女いわく、全然寒くないそうだ。なんせアイシャはドラゴンの女の子。ある程度の気温差には耐性があるらしい。
左のボーイッシュな女の子は騎士の姫レーネ。彼女は分厚い鎧にマントをはためかせているけれど、それだけでは防寒対策は
「この抜け駆けものめ! 素敵なお姉さんたちを独り占めするなんて、
このやり取り、何度
リリの嫉妬が深すぎて困っちゃうよね。しかも、リリにとっての逆風もあって。聖女さま、リリにそこまで個人的興味がないのか、簡単にあしらっちゃう
が。それが数日も続くと
「わ、わ、わわ、わたしはマリア
トリトーネを出発する際、何人もの女の子に見送られていたのがリリである。手が早すぎる。
しかも、それでも女の子に満足できずに聖女さまを狙っていたというのだから、欲が深すぎるってもんだ。
「勇者ちゃんも、この調子じゃあたしと似た風になるわね。魔族の国なんて、誘惑してくる女の子いっぱいなんだから。意志ヨワヨワ勇者ちゃん、浮気ものになっちゃうよ? どうするマリアちゃん?」
リリってば、わたしを
「そこは、ちょっと不安ですね。エステルってば、可愛い女の子を見ると、すぐ目で追っちゃうし。ほいほい付いていきそうになってますから。でもね、今まで我慢できていたので、きっと大丈夫ですよ。ロゼリアさんも、一緒に見張っててくれますし」
マリアってば、わたしを信用しているのかいないのか、どっちなんだ。
もしもお目付け役がいなかったとしたら、浮気しちゃうとでも思っているのかな。
「勇者さまは奥さまがいるのに、女性には目が無いのですね。あ……だから、あのときも……」
聖女さまが、あのとき、といって目を細める。
わたしは、ドキッとした。
おそらく彼女が言っているのは、大浴場での出来事。わたしが、聖女さまのおっぱいにかぶりつき、関係性が変化したあの日のことだろう。
リリたちどころか、マリアも知らない事実。
「あのとき?」
だから、マリアはすぐに食いついた。
わたしが隠し事をしていると知って、目つきを
「あ、ああっ、いえ……。勇者さま、お風呂のとき、裸をじっくり見ていたな、って思いまして……」
さすがの聖女さまも、おっぱいを吸われちゃいました、とは口が
ううむ。とはいえ、やはり聖女さまも、わたしの視線には気づいていたか。
でもしかたないんだよね。マリアの複製かと思うような爆乳おっぱいなんだもん。ガン見しちゃうってば。顔も美人だし。優しいし。匂いだって最高。
いや、だけど、マリアのほうが全部上回っていると思ってるけどね!
それはほんと!
「そうですよね……。エステル、おっぱいが大好きですもんね……。私のおっぱいだけでは物足りないのかしら……?」
マリアの
「確かに聖女さまもおっぱいは大きいけど。マリアのおっぱいがあれば、わたしはいーよ! 変な心配しないでよね、もう」
おっぱいという単語が飛び交い、聖女さまは顔を染めている。冷気で鼻が赤くなっているのとはわけが違い、湯気をあげそうな
そしてわたしたちのやり取りを聞いて、アイシャはポケットからメモ帳を取り出して何やら書き込んでいる。
女の子同士の関係性に興味津々なアイシャは、たびたびこういった行動に出ることがあった。何をメモしているのかは、見せてもらったことがない。はたして、わたしたちを観察して、何か学べているのだろうか。
おっぱい論を語り終えると、先の様子を覗いてきたハーピーが上空から戻ってきた。
ハーピーは翼があって体毛も人間よりは濃いけれど、それでもセーターのような厚い衣類を
「人間どころか生き物も見つからなかったよ~。魔物もいないし安全にテント張れると思う」
ハーピーの報告に、わたしたちは
トリトーネを出発した際に、次の人里が遠いというのは
が、念の為、それ以外の
わたしが、トリトーネに魔物をおびき寄せてしまった、っていう経緯もあるしね……。
魔族領に近づいているからか、野生の魔物も凶暴度は高いらしいし。警戒するに越したことはない。
といっても、勇者のわたしに加えて、ドラゴンのアイシャと騎士のレーネ、それから聖女さまもいるし、何が出てこようと怖いものはない。
わたしが怖いものといえば、マリアに怒られることくらいなものだ。
当然、浮気をしているわけではないので、マリアに
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それから何日か経過すると、人間領
人類側は魔族の国が現存しているのなんて知らないから、この集落より先は未開の地、ということになっている。
雪に埋もれた街並みは、トリトーネと比べると大幅にひっそりとしていた。人口比でいえば、どれだけ差があるのかもわからない。
日差しはまあまあ強く、雪を反射させて目が痛くなるほどだ。が、建物に積もった雪からもわかる通り、天候が崩れると、吹雪くこともあるらしい。
この集落には宿といった宿泊施設はなかったけれど、そこに住む人々は、よそ者でも歓迎するような振る舞いをしてくれた。
といっても、わたしたちは割と大所帯。長く居座るつもりもないので、集落の入り口にて、住人たちから話を
「西の洞窟に行くのかい? 今はやめたほうがいいよ」
わたしたちが行き先を告げると、村の物知りおばあちゃん的な人が、忠告をくれた。
わたしは、リリに目で疑問を投げかける。
だって、彼女いわく、その洞窟とやらを抜けないことには魔族の国へ行けないらしいのだ。で、洞窟はかつて人間が通ったこともない上に、遺跡レベルの深いモノなんだけど、別に危険はないらしい。
ではどうして、おばあちゃんは警告をくれたのだろうか。
リリも不思議そうな顔でおばあちゃんの続きを待った。
「昨年あたりからね、洞窟に魔女が出るんだよ。村の子たちも、何人かが帰ってこなくてねぇ……。けれど、魔女は洞窟からは出てこないから、近寄らなければいいんだけど……怖いったらないのよねぇ」
住人にとって、魔女とやらはよほどの
話によると、命からがら逃げてきた人間の証言によって、魔女の存在が確立したらしい。追い払おうと向かった人も何人かいたようだが、ことごとく返り討ちにあったとか。騎士団に要請しようにも、最果ての地すぎて、連絡が難しかったようだ。
ひとまず情報を集め終え、食料も入手したわたしたちは、集落の外に出て、テントを張っていたレーネたちと合流をした。
「う~ん。魔女、ねぇ。どう思う、サフラン?」
火を
リリも、洞窟に魔女が住んでいるなんて話は聞いたことがないらしく、ハーピーに
ハーピーも心当たりはないらしくって、無言で首を横に振るっている。
「民が困っているのなら、魔女とやらと話し合う必要はありそうだね!」
そこに、焚き火と同化したかのような熱意を
いきなり魔女を
魔女だって、なんらかの理由で人と敵対しているのかもしれない、と思ったのだろう。
「話ができればいいけどね……」
「ボクはできると思ってるよ。だって、人里にまで降りてこないってことは、
相変わらず熱血じみてるなあ。レーネは握り拳を作って、瞳もギラギラと輝かせている。今すぐ洞窟に突っ走っていきそうだ。
「魔女といえば……
聖女さまが、持ち前の知識を
魔女、か。
本当にいるとして、戦いたくはないなあ。
相手が悪いヤツだったとしても、女の人に暴力は振るいたくないからなあ。
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