第15話
******
わたしとマリアは
そして、再びリリウェルと合流してからは、テントを張って、
昨日までと違うことといえば、やはり人数が増えたことだろう。
レーネも現状に不満を抱いているようで、わたしたちに同行していた。
ドラゴンの
「それで、リリの考えをそろそろ聞かせて欲しいんだけど」
マリアがみんなに飲み物を配って一息ついたところで、わたしは切り出した。
わたしとマリアは寄り添って座り、対面には騎士の少女・レーネ。彼女の横にはリリとハーピーが座っている。距離は近いけれど、魔物だからといって襲いかかることはないみたいだ。
そして、謎の女の子は、テント内で安らかな寝息を立てている。
リリウェルはわたしのことを見つめた後に、深く
焚き火の炎に反射するリリの桃色髪は、
彼女のわたしに向ける瞳がどことなく信頼感に満ちているのは、やはり勇者としての実力を見たからだろうか。
「あの女の子の正体はね、きっとドラゴンよ」
「はっ?」
リリウェルが
だって、女の子がドラゴンって、あるわけがないじゃん。体格差、何倍あると思ってるんだ、って話だよ。
「君は何を言い出すんだ! 絵本の読みすぎだぞ!」
わたしが反論をかざす前に、レーネが立ち上がりながらまくし立てた。どうやらレーネは、頭よりも先に行動するタイプのようだ。
対してリリウェルは、レーネを見やると、そっと溜息をつく。
なぜかレーネに親近感を覚えてしまうのは、わたしも、似たような視線をリリに向けられたことがあるからだろうね。
「あんたは黙ってて。もー、お子様が二人に増えちゃって、困りものよねぇ」
やっぱりリリは、わたしもひとまとめに子ども扱いしているようだ。せっかくドラゴンとの戦いで勇姿を見せたっていうのに、意見は変わらないらしい。まあ、多少は実力を買ってもらえてはいるみたいだけどね。
レーネは、ぐぬぬ、と唇を震わせるが、言われた通り腰を落とす。そもそも、レーネにしてみれば、リリウェルが何者なのかもわからないし、口を挟みたくなるのも当然かもしれない。
「エステルは子どもっぽいところが可愛いんですよ。あんまりすぐ大人にならないでくださいね、エステル♡」
マリアは一人だけ、別の空気を吸っているかのように
リリウェルは、わたしたちのイチャイチャには慣れきっており、特に気にした風もないが、レーネだけは気まずそうにしていた。女子同士のイチャイチャを見るのは、初めてなのかもしれない。なら、思う存分見せつけてしまおう。うん。
「そ、それで、リリはどうしてあの子がドラゴンだった、って思ったの?」
わたしはマリアに撫でられながらなので、少し
レーネは話の内容も、わたしたちのイチャイチャも気になるようで、視線に落ち着きがない。
リリウェルは、そわそわしている騎士の少女など
「ドラゴンは人型にもなれる、って話、聞いたことあってね、それを思い出したのよ。まあ、実際に見たことがなかったから、すぐに気づかなかったんだけど」
「人型にも!? そういえばドラゴンって、言葉通じるんだっけか。んー、でも、その割に、いきなり炎吐いてきたじゃんね。人間っぽさはなかった感じだけど……」
わたしも頭が
ドラゴンが人間型になんて。世の中知らないことばかりだ。女神さまについても謎ばかりだしなあ。
わたしが世間知らずで無知な未成年っていうのもあるだろうけれど、それ以上に、世界の
「あの子は見た感じ、ドラゴンとしては幼いみたいね。だから、ドラゴンの形態になっていると理性が効かないんじゃないかしら。しかも、寝込みを襲われたわけだしね。あんたに」
リリウェルは、あんたに、って言葉と同時、レーネのことを横目でじろりと
リリは、もともと、ドラゴンとは話し合いをするつもりだった。その邪魔をしてきたのがレーネなのだから、割と根に持っているようだ。といっても、意地悪したいわけではないだろうから、ちょっと
「しょ、しょうがないじゃないか。
「あんたのどこが英雄なのかしらねぇ。実力は勇者ちゃんとは比べるべくもないし、英雄どころか無鉄砲だし……。ドラゴン、倒せると思ったの?」
リリはなかなかに
確かに、レーネの実力は不明だし、わたしがいなかったらドラゴンに瞬殺されていたのも本当のことである。
「倒さないといけないんだよ。お父さんは、ボクが女の子だからって、英雄と認めようとしないしね。実力には自信があるから、一人でもやれると思ったのさ」
レーネも存外、神経が太いようで、屈した様子は皆無だ。
「レーネは、騎士の家系ってこと? お父さんはお偉いさんなんだ?」
わたしも、レーネの生い立ちが気になったので質問してみると、彼女ははたと口を
先程もそうだったけど、自分のことについてははぐらかす
「ま、まあ……。勇者さまに聞かれたら、黙ってはいけないよね。んっと……ボクは、これでも王家の一族なんだよ。ほら」
そう言って差し出してきたのは、レーネが所持していた剣だ。
にしても王家って。レーネの雰囲気だけではそうと見えないのに、とんでもなく地位の高い人間なんだなあ。
わたしは勇者なわけだけど、正直言って、地位が向上した気はしない。もちろん、ちやほやされたり、
けれど、レーネは姫ってことになるのかよくわかんないけど、わたしのことは
「王家の人間が、護衛もナシでドラゴン退治? あんた本当に王族なの?」
リリだけはレーネの話に半信半疑なようで、目はじとっと
レーネは心外だと言わんばかりに鼻を鳴らし、立ち上がった。
「本当だとも! さっきも言ったけど、お父さんが厳しくって、なかなか認めてもらえないんだよ。だからボクは、こっそり城を抜け出してきたのさ」
「はぁ……。とんだお
達観したように
「ボクはこれでも、王国内では一番の剣の使い手なのにな……」
ふてくされたように
彼女の年齢で剣の腕前が国でトップだというのなら、たいしたものだ。ものすごい努力を重ねて、膨大なる時間を
わたしのように、女神さまから力を
「それで、あのドラゴンの女の子はどうするの?」
わたしは、話についていけているのか
ドラゴンの子が目覚めたときに、また暴れだすかもしれないし、はたまた今度は会話ができるかもしれない。万が一、前者だった場合のことを考えるならば、わたしは見張っていたほうがいいだろう。
「人間の状態ならば安定しているし、
リリは、焦った様子はなく、事件が解決したかのような冷静な分析をしている。
マリアは、わたしとゆっくり休める、と聞いて、手付きがより優しげなものへと
一方でわたしは、煮え切らないままだ。あの女の子がまた、ドラゴンに変身する可能性は残っているしなあ。
が、わたしの
「ぼ、ボクも残る。あの女の子がドラゴンなのかどうか、この目で確かめないといけないからね。それに、もし本当だったとしたら……いきなり襲いかかったことは、謝りたい。ボクだって、無闇
レーネは意外にも、自分の
すると、リリも彼女の答えに満足したのか、頷いてあげていた。
わたしとマリアは、リリたちの好意を素直に受け取って、宿に戻ることにする。
この中では一番普通な、一般の女性であるマリアをゆっくり休ませてあげるほうがいいだろうから。それに、マリアを癒せるのはわたしだけだ。
もしも何かが起こったとしたら、ハーピーに伝言役をしてもらうように頼んで、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます