第二話 シーン二 【フェルナ王国とイマイ家の目的】

第二話 シーン二 【フェルナ王国とイマイ家の目的】





 レアンたちが現在いる中央大陸は、フェイルナールを首都とするフェルナ王国が半分以上の領土を占める。


 この王国に属さない国は、北方連合、南方のダッカサン共和国、東方、台国、エルフやドワーフの国などがあり、現在は表向きには友好的な関係を築いている。


 二〇年前の『神竜戦争』の最中に亡くなった先代フェルナ王の後を継いで、土の神竜を伝説の槍で封じた英雄エリックが平和の時代を築き『賢王』と称され、現在まで平和な時代を築いた。


 だが半年前のある日から、国王は突然ありえないような凶行に走りはじめる。


 国王直属の『宮廷鑑定財団』という軍団を新設、使役して各地の土地を接収しはじめたのだ。


 宮廷鑑定財団は独自の基準で物にも、土地にも、人でさえも値段を設定して買収していく。


 横暴ともいえる行動に反抗した領主や有力者は、反逆者の扱いを受け捕らえられて牢屋に放り込まれ、中には家族を売られて現在行方がわからない人も多数いるという。


 やがて国王は病に倒れて、現在は民衆の前に姿を現さなくなって久しい。






「……と、これがエリック王を含めた現在の中央大陸の状況、です」


 ハヅキが宿の部屋で地方都市イグスで情報収集した内容説明をした。


 なぜこのような話をすることになったのかというと、レアンが八英雄を聞く人々の反応に違和感を覚えたのがきっかけだ。


 それならばと、キョーコが娘たちに現在の状況をあらためて調べさせてまとめさせたのだ。


「そんなことが……」


 レアンは聞いたあとに青ざめた顔をしてしまう。


「……レアン、大丈夫?」


 サツキは向かい側でずっとこちらを気にかけていたが、心配をかけまいとレアンは無理にでも笑う。


「ボクが知らない間にこんなことになっていたなんて……。もう少し自分でも調べるべきでした」


 自分を責めるレアンを見てサツキが立ち上がると、席の後ろに来てギュッと抱きしめる。


「んー、だから今は『狂王』っていわれているんだね。あ、今の内緒ね!もしかしてレアンは……ううん、なんでも無い」


 サツキはレアンがここにいる理由を察したみたいだが、それ以上いわずに居てくれる。


「……私も正確な情報は知りませんでした、です。このあたりはカタルス含めて辺境ですから、情報も遅くて。……道理で八英雄の歌も最近聞かないはずです」


 ハヅキが付け加えると、キョーコをじっと見る。


 キョーコは黙ってじっと見返していたが、全員の視線が集まってきたので両手を上げて降参のポーズをした。


「分かった……分かったわ。うん、私は全部知っていたわ。でもあえて情報収集をしてもらったの。勉強になるでしょ?それに加えて王様が『ご乱心』した理由の一つを知っている……教えたほうがいい?」


 もったいぶるキョーコにハピルは足をジタバタさせた。


「ケチケチすんな!おっぱい魔神!早く……あいたっ!こら足ふむな!」


「あらごめんなさい、ハピルちゃん♪……レアンくん、話していいかしら?」


 ハピルを鋭く踏みつけた後に、キョーコは真面目な顔をして確認してきた。


 こういう大事なところで必ず意思を尊重してくれるのに感謝したが、レアンはなるべく多くのことを知る必要がある。


「はい、大丈夫です。話してください、キョーコさん」


「……うん。えっと、エリック王の一人娘が誘拐されたみたい。清楚で美しいお姫様だったらしいわね。それで王が騎士団を率いて王女がいるとされるダンジョンに向かったけど、上級悪魔の襲撃や罠で返り討ちにあって相当な被害が出たそうよ」


「え……?」


 レアンは状況を理解できずに、もう一度言葉を頭の中で繰り返した。


 確かエリック王は妻を一年前に亡くしていて、唯一の身内が一人娘の王女だけなので心中は計り知れない。


「そのことで王が心を乱されたという話らしいわ。私が知っているのはこんなところよ」


「そうですか……ありがとうございます」


 レアンが動揺を隠せないでいると、サツキが何もいわずに抱きしめる力を強くした。


「それでさ、王女の行方は分かったの?」


 当然の疑問がサツキから出たが、キョーコは横に首を振る。


「それが最初のダンジョン以外、半年間一度も有力な情報が出て無いらしいわ。恐らくは色んな場所に移動させられてるんじゃないかって。ちなみに冒険者ギルドには捜索の依頼も来ていないみたい」


「……冒険者ギルドは当てにされてない。国の威信がかかっているから当然かも、です」

 キョーコの話をハヅキが引き継いで、レアンは複雑な関係なんだなと思うしかない。


「わかんない!しかたない!ワタシたちはやること、できることする!」


 ハピルの声が場の重い空気を変え、レアンはハッとしてキョーコに聞いた。


「それで今回の目的はなんですか?キョーコさん」


「えっと『セイヒツのダンジョン』という所にあるという『身体再生装置』の探索よ。噂によるとこの装置には不治の病や事故で失った体の一部を治してくれる効果があるらしくて、これでサツキやハヅキの持病を治すきっかけになればと思っているわ。レアンくんもお金が貯まるまででいいから、付き合ってくれると嬉しいわ」


 キョーコの説明に、お世話になった恩返しができればと思い「もちろんです」と返事する。


 サツキの腹痛の症状はいまだ見ていないが、ハヅキの脇腹の治らない傷は見ていて痛々しい。


 以前は秘薬で症状を緩和させていたみたいだが、最近はレアンの神の奇跡をプラスしてよりよい治療が出来ている。


「ごめんね!もうちょっと付き合ってよね!あと道中は私がいるから安心して!」


 サツキが腕の筋肉をパンパンと叩いてアピールしていたが、キョーコは笑いながら釘を差した。


「サツキちゃんも頑張っているんだけど、今回は念の為に他の冒険者を雇おうと思うわ。他人とのパーティーはもっと経験しておかないとね♪」





 翌日レアンたち一行は連れていけと騒ぐハピルをまた置いて冒険者ギルドに向かった。


 まずマスターに頼んでおいたダンジョンの情報を聞くと、冒険者が挑んだことはあるが強い魔物に出会ったこともあって、一番奥まで行った人はいないみたいだ。


「なにせここイグスは大陸の辺境の地だから冒険者のレベルも高くない。ちなみにダンジョンにはマンティコアも出たという噂もあるくらいだから、注意しないとな。もちろんキョーコさんの前でいうことでもないが」


「あら、中々強そうな敵さんね♪ほら、ね?昨日相談しておいて正解だったでしょ?」


 マスターとキョーコの会話を聞いて、サツキの顔色が変わった。


「ままま、マ、マンティコア⁉あれってお話に出てくるような強そうな魔物じゃなかと⁉」


「……マンティコア。ライオンとコウモリの羽、サソリのしっぽをもち。魔法も操り、サソリの毒で石化されるかも。……だけど、本来森が生息地のはずですが」


 サツキが怯えている所をハヅキが魔物図鑑を使い説明すると、余計に怖さが増す。


「まあ、敵を見て逃げ帰ったやつの情報だからねぇ。もしかするとヘルハウンドとかケルベロスとかの間違いかもしれねえな!わはははは!」


「いやいやいやいやいや!ヘルハウンドだって犬の悪魔でケルベロスは上位種じゃなか⁉ちかっぱ強か敵やけん!」


 マスターがフォローを入れたがサツキには逆効果だった。


 レアンも名前を聞いたことのある魔物にドキドキしたが、キョーコを見ると普段と変わらないのできっと大丈夫なのだろう。


「……では予定通り募集、です」


 マスターに断りを入れて、ハヅキがダンジョン同行者募集の張り紙を貼る。


 内容はこう書いてある。


『地下迷宮の同行者募集☆セイヒツのダンジョンに一緒に行ってくれる人を探しています☆戦士様一名☆僧侶様一名☆報酬は一人あたり金貨二枚+目的の治療装置以外の財宝は山分け☆強敵が出ることも考えられますので、強い人だと嬉しいかも☆詳しくは受付まで』


 可愛らしく装飾されていてサツキの力作らしい。


「これで人が来てくれますかね?」


 レアンは不安になってギルドを見渡すと、冒険者たちの数は少なかった。


 昼間から酒をあおって騒いでいる中年の男二人組や、初心者らしき三人組。


 あとは一番奥の方で小さな酒瓶からカップに注ぎながら、片手に本を読んでいる人がいるくらいだ。


「まあ、待つしか無いんじゃないかしら?急いてはことを仕損じると東方ではいうわよ♪」


 キョーコが隣りに座って余裕の笑顔を見せられると、少し落ち着ける気がした。


 ハヅキが軽食と飲み物を頼んだので、それを食べながらしばらく待つことにする。


 結局最初のひとりが来たのは夕方になってからだった。





(続)

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