第10話 2人の女性のこと
中学生の時、登校時に、駅前の商店街の一軒の写真館の窓辺に、たまに女の人が座っていることがあった。
その方は、いつもキレイな浴衣を着ていて、端麗な顔立ちをしていたが、子供の目にも明らかに普通じゃないというのが分かる表情をしていて、一体なにがあったのだろう、あんなステキな人なのに、もったいないな、などと私は考えていた。
その方がいるのは数日に1度で,それ以外はいつも窓は固く閉ざされていた。
時々、窓辺に悲しく放心したように座るその方を見ると、私は遠い親戚の、ある女性のことを思い出した。
その女性は、私が小学校3年生の頃、九段坂の病院に小児喘息で入院した時、時々会いに来てくれた。
実は、その病院の別の病棟で看護婦をしていたのだ。
入院中は両親にも姉にもたまにしか会えなかったので、その看護婦さんの来訪はとても楽しみだった。
プラモデルや本を買ってきてくれたこともあるし、2人で病院の庭で、アイスクリームを食べたのは、今でも懐かしく心に残っている。
私が退院すると、それっきりその看護婦さんに会うことはなかった。
そして母から、ある日その看護婦さんが男に騙されて、心を病んだと聞かされたのだ。
私はまだ小学生だったから、会いに行こうとか、見舞いに行こうなどとは考えなかった。
あの看護婦さんは、今どうしているのだろう。
駅前の、浴衣の女性を見かけるたび、私はそんなことを思った。
結局、その看護婦さんとはそれっきり会ってないし、どうしたかも分からなくなってしまった。
どこかで、回復して元気にされているだろうか。
写真屋さんの女性も、それから間もなくとんと見かけなくなった。
何となく気にしてみると、窓はいつも固く閉ざされている。
今は駅前もすっかり変わり、その店ももうない。
その女性たちがどうなったのか、それからあまり気にかけなくなったが、それはそれでそんなものなのかもしれない。
駅前には、すっかり様変わりした賑やかな光景が広がっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます