第8話 あの、遠い日

あの、遠い日・・・。

君は縁側に座って、陽を浴びて、Tシャツが少しよれていて、でも僕を見上げて、微笑んでくれたね。


あれは、どこの縁側だったのだろう。

多分、旅行先の民宿か何かだね。思い出せない。


あの君の微笑みがね、今でも忘れられない。

懐かしくて懐かしくて、今でもとてもはっきりと覚えてる。


そうだ、思い出した。伊豆の、小さな料理屋で、君は生まれて初めてうな重を食べた,あの日のことだ。


前日に温泉に泊まったんだか、その日の夜に泊まったんだか、それはもう思い出せないけれど、2人で旅行したんだね、あの時。


君はあんな薄着だったんだから、夏だったんだろう。今思うと、丑の日が近かったんだろうね。


2人でおいしいうなぎをいただいて、君も気持ちよく珍しいうなぎをいただいて、それから君は縁側に座った。

僕が横に行くと、君は微笑んでくれた。


そうだ、あの微笑みだ。

僕たちはあとどのくらい生きるのか分からない。けど、僕はあの微笑みを、きっともう一度見るんだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る