第20話 別の影
舞はいつの間にかベッドで眠っていた。
気付くと外は明るくなっていて、もう精霊はいなくなっていたのだ。
昨夜、精霊と色々な話をしたのは覚えているのだが、いつの間にか寝てしまったらしい。
不安で眠れなかったが、精霊と話す事で安心して気分が良くなったのだ。
今の精霊は、自分の作る空間でなくても人と同じ姿でいられるのだ。
そして夜中に二人っきりで私の部屋で話している事に、何となくドキドキしたのだ。
特にあの綺麗な顔で見つめられると、小さな姿の精霊と違い、何だかお酒で酔わされたようなフワッとする気分になったのだ。
それに精霊はとってもいい香りがしたのだ。
そして気持ちが良くなり、寝てしまったのだろうか。
今日は学校に行った後、ブラックに会いに行かなくては。
私は急いで支度をしたのだ。
学校に着くと昨日のことを記憶している者は誰もいなかった。
ユークレイスの魔法の凄さに驚くばかりなのだ。
色々考えなくてはいけないこともあるが、今はせっかくの授業なので集中する事にしたのだ。
今日は人間学の授業があるのだ。
この世界の医療の進み具合がわかる授業でもある。
教室に入ると、昨日話したケイトとライトもいたのだ。
「あ、舞、こっちこっち。」
ケイトは大きな声で私を呼んだのだ。
「おはよう。
どうしたの?」
「ねえ、カク先生に渡して欲しいものがあるの。」
そう言って自分で作ったお菓子と手紙を出してきたのだ。
私から渡して欲しいというのだが、自分で渡す方が良いのではと言ったのだ。
「直接渡すと受け取ってくれないのよ。
生徒からのプレゼントとかは受け取り禁止なのよ。
だから、舞からだったら問題ないでしょう?
親戚なんだから、よろしくね。」
そう言って無理やり渡されたのだ。
ちょうど先生が入って来たため返す事も出来ず、仕方なく受け取ったのだ。
まあ、後はカクに任せれば良いかと、深く考えるのをやめたのだ。
授業はとても興味深かった。
今日は体の構造や機能についての話がほとんどで、違和感がある事はそれほどなかった。
ただ、精神と身体についての話の時に、心の病が身体を蝕む事を声を大にして話していたのだ。
もちろん病は気からと言うように、ある部分はそうなのだが、病気の全てが精神論で片付けられるわけでは無いはず。
だが、この世界ではとても関係性があると語られていたのだ。
よく考えれば私がいた世界と違い、魔人や精霊が住む世界であり、魔法道具が存在する世界であるのだから、同じように考えない方が良いのかもしれない。
私はやはりこの世界をもっと知らなければならないと思ったのだ。
午前中の授業が終わると、お昼はこの大学校にある食堂に行ってみる事にしたのだ。
ケイトが一緒に食堂に行こうと誘ってくれたのだ。
まだ他の生徒とは関わる事もなかったので、そんな風に誘われることは無かった。
ケイトはカクの話が目当てなのかもしれないが、私は正直嬉しかったのだ。
食堂に行くと、かなり広いスペースとなっており、フードコートのような作りになっていた。
学生と職員は、無料で食事が提供されていたのだ。
食べたい物をもらうと、自分で好きな席に着いて食べることが出来た。
やはり、この世界での薬師という職業がとても優遇されていることが理解できるのだ。
ケイトと食事をした後も午後の授業まで時間があったので、私達は四階の温室のような場所に一足早く向かう事にした。
実は次はカクの薬草学の時間で、実際に温室で植えられている物を見る事になっていたのだ。
ケイトは早めに行って予習をして、カクに良いところを見せようと思ったらしい。
私達は階段を上がり、四階に着いた時である。
そこには先日、魔鉱力学の授業をしていた先生がいたのだ。
何て名前の先生だったかと考えながら歩いていたが、私は足を止めたのだ。
またあの時の嫌な気配を、そこにいる先生から感じたのだ。
やっぱり、あの時全ての黒い影達は消えてはいなかったのだ。
金髪の女性の中にいた影の一部が、あの時目の前にいた先生に移動していたのだ。
その先生はゆっくりとこちらを振り返ると何かを呟きながら歩いてきたのだ。
そして先生の身体から黒い影が滲み出るように出て来たのだ。
それを見たケイトははじめ不思議な顔をしていたが、彼女もただならぬ雰囲気を感じたようで、顔がこわばっているのがわかった。
私はケイトの前に立ち、後ろに下がるように手で合図したのだ。
今、カバンの中には分離するための薬はある。
だから、先生から黒い影達は離すことは可能なのだ。
だが、出てきた黒い影達をどうにかしなければならない。
ここには魔人達もいないのだ。
考えなくては・・・
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