第11話 二人の魔人


「これはこれは、この建物に来た時から舞殿の気配を感じていましたが、本当にいらっしゃったのですね。」

 

 青く光る私の事を見て、同じように青い瞳を持ち冷静で冷たい表情に見える魔人が、少しだけ顔を緩めたのだ。


「舞、久しぶりじゃないか。

 会えて嬉しいぞ。

 来てるなら、なんで城に顔を出してくれないのだ?」


 そう言ってもう一人の魔人は、背中に翼を出すと私のすぐ頭上に移動し、私の手を取り一番前まで一緒に連れて行ってくれたのだ。

 見た目は青年の姿にはなっているが、相変わらず少年のような中身は変わりなく、何だかホッとしたのだ。

 そう、魔人の国の幹部であるユークレイスと、ドラゴンの民であるアクアだったのだ。

 

 再会は嬉しかったが、彼らが良いタイミングで現れた事が不思議だった。

 しかし今はそんな事はさておき、この結界の中の女性と黒い影をどうにかしなければならない。

 多分、教室内の生徒が動かなくなったのは、ユークレイスの魔法による精神操作なのだろう。

 

「二人とも、久しぶりね。

 まさか、こんなところで会うとは思わなかったわ。

 詳しい話は後でするとして、これはあの影よね・・・」


 私はそう言い、その結界の中で渦巻く黒い影の集団を見上げた。

 

「実はこの黒い影のことで、こちらの国の王に話をしに来ていたところなのです。

 まあ、とにかく今は彼女から影を離さないと。

 こんな黒い影ごとき消滅させる事は簡単なのですが・・・」


 ユークレイスはその影を見ながら、考えているようだった。


「ねえ、私が薬で彼女の中の黒い影を追い出すわ。

 この結界の中は入れるかしら?」


 私は鞄から薬を取り出し、ユークレイスに向き直った。

 それは以前も使用した

キキョウ、カンゾウ、キジツ、シャクヤク、ショウキョウ、タイソウ

が入っている漢方薬に、光の鉱石の粉末が配合された薬なのだ。

 この漢方は消炎作用や排膿作用を有する薬なのだ。

 ところが以前森が侵食された時、光の鉱石を混ぜる事で異物を分離する働きもある事がわかったのだ。

 

「ええ、私と一緒でしたら。

 しかし・・・大丈夫ですか?」


 ユークレイスは少し心配そうに私を見たのだ。


「任せて。

 ブラックのペンダントや指輪もあるから、守りは完璧よ。」


 私がそう言うとユークレイスは少しだけ微笑んで、掴まるようにと腕を出したのだ。


 私はユークレイスに掴まって結界の中に入った。

 すぐに黒い影の集団はこちらに向かってきたが、私達を侵食できないとわかると、彼女の中に戻ろうとしたのだ。

 私は手に持っていた、異物を外に出させる薬を彼女にぶつけ破裂させたのだ。

 すると、一瞬明るい光に包まれた後、彼女の頭上から全ての黒い影が煙のように出てきて集合体となったのだ。

 そして彼女はその場にゆっくりと座り込み眠っているようであった。

 薬が効いている間は、再度侵食は出来ない上、私が彼女を支えていたので、ブラックのペンダントの力の保護下にあった。

 だから、黒い影は私達に何の影響も及ぼす事が出来なかったのだ。


 しかし結界の外では聞こえなかったが、この黒い影の集団から思念のようなものが今は伝わって来たのだ。


『見つけたぞ・・・この世界なら多くのエネルギーを得ることが出来る。

 邪魔をするな・・・』


 同じようにその意志を聞いたユークレイスとアクアは、この結界内の全ての黒い影を残らず消滅させたのだ。

 以前と違い私にも明確に伝わって来たこの意志が、とても危険なものであると、言われなくてもわかったのだ。

 ユークレイスは結界を解除すると、私に向き直りより深刻な表情で話したのだ。


「詳しくは、隣の城でお話しましょう。

 私達はもう一度この国の王の元に伺います。

 舞殿も、後程来ていただければと。

 ここの生徒達には新たな記憶を入れておきます。

 舞殿は元の席に。

 その彼女も席に座らせましょう。

 そして私が教室の扉を閉めた時、皆さんが動き出しますので。」


 そう言って、彼女を席に座らせたのだ。


「わかりました。

 今日の授業が終わり次第、伺います。」


 私はそう言うと、人を避けながら元の席に戻ったのだ。

 教室の入り口の扉に目をやると、嬉しそうにアクアが手を振っていたのだ。


「舞、また後でな。」


「アクア、またね。」


 そしてユークレイスの青い瞳が明るく光った後、二人は扉をバタンと閉めたのだ。


 その直後、ザワザワと生徒達が動き出し話し始めた。


 ー虫の大群はいなくなった?ー

 ー教室に入ってくるなんて、信じられないー

 ー誰が窓を開けといたんだ?ー


「さあ、授業を再開するぞ。

 みんな、席に戻って。」


 先生が手を叩きながら、生徒達を席に着くように促したのだ。

 どうも生徒達の言っている事から、虫の大群が入ってきて、慌てて席を離れたと言う設定のようなのだ。

 先生も大きな問題は無かったように話し、生徒達が席に戻ると再度黒板に向かったのだ。

 あの金色の髪の彼女も目が覚めたようで、虚な目をしているだけで、さっきまでの嫌な雰囲気はもはや感じられなかった。


 私はあと一コマで本日の授業は終了だったので、終わり次第隣の城に急いだのだ。

 

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