第10話 黒い影
青紫色の花が広がる草原・・・一見綺麗に見えるのだが、それは全て猛毒の花。
黒い影に侵食された黒翼国の王子が命を落とした場所。
私はあの時、彼を助けることが出来なかった・・・
ずっと心の奥底にしまっていたものを、その女性を見た時に鮮明に思い出したのだ。
立ち上がった女性を見ると、彼と重なり胸がズキンと痛んだ。
彼女はゆっくりと教壇に進み、私達に背を向けて黒板に向かっている先生に歩み寄ったのだ。
周りで見ていた生徒達がザワザワと騒ぎ始めたのだ。
先生がそれに気づき振り向くと、彼女は先生の目の前で止まったのだ。
先生は一瞬驚いた様子だったが、冷静に声をかけた。
「ど、どうしたのですか?
質問ですか?
席について手を挙げてもらえば良いのですよ。」
彼女は無表情のままでその返答はなく、手のひらから黒い霧状の物を出現させたのだ。
そしてあっという間に彼女自身を包み込んだのだ。
それは明らかに、以前見た森や魔獣を侵食した黒い影に他ならなかった。
しかし、なぜこの世界に存在するのか・・・
あれは、魔人の国に数百年に一度襲撃しに来るもの・・・
そんな事を考えながら私は席を立ち、二人の元に急いだ。
しかし、教壇の近くにいた生徒達はその状況を目撃し、口々に叫びながら逃げようと後ろの席に向かって来たのだ。
私は人の波を押し分けて前に進もうとしたが、思うように進めなかった。
そして金色の髪の彼女を包み込んだ黒い影は、大きな集合体となり彼女の頭上に集まっていたのだ。
このままではまずい・・・
この教室中の生徒達が侵食される恐れがあったのだ。
人間は魔人とは違い、自身に結界を作る事が出来ない。
もしあの黒い影に入り込まれたら、強い意志がなければ操られてしまうはず・・・
さらに生命エネルギーを吸い取られてしまうかもしれないのだ。
以前の魔人の森がそうであったように・・・
教壇にいた先生は、彼女を取り巻く黒い影を見た時から、口をポカンと開けて床に座り込み、動く事が出来ないようだった。
こんな状況では助けを呼びに行くことも出来ない。
私は自分の鞄からある薬を取り出したのだ。
学校でも、ある程度の薬はいつも持ち歩く事にしていたのだ。
誰かの助けが必要な時に使えればと・・・
ただ、こんな早くに使う事になるとは思わなかった。
しかし、慌ててこちらに走ってくる生徒達の為に、使いたくても使えないのだ。
「お願い、通して!
前に行かないと!」
私は大きな声で叫んだが、聞こえている者はいなかったのだ。
このままでは・・・どうしたら・・・
そう思った時である。
バタンと大きな音を立てて、教室の扉が勢いよく開いたのだ。
それと同時に金色の髪の女性とその頭上に集まった影の集合体が光る結界に囚われたのだ。
そして、さっきまでパニックを起こし騒いでいた生徒達が一瞬で静かになり、何故か動きを止めたのだった。
私ははじめ何が起きているかわからなかったが、すぐに全てを理解したのだ。
私は胸元が暖かくなったと思ったら、いつの間にか私の身体は青い光で包まれていたのだ。
そしてこの教室で動く事が出来たのは、勢いよく入ってきた二人の魔人と青い光に包まれた私だけだった。
魔人がかけた魔法に反応して、ブラックにもらったペンダントの結界が、私を守るように働いたのだ。
その二人の魔人はそんな私を見てもあまり驚きもせず、何故かやっぱりと言う顔をしたのだ。
私は彼らを見て、大きく深呼吸をしたのだ。
もう、大丈夫ね・・・
そして、彼らに微笑んだのだ。
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