第9話 カク先生

 カクが教壇に着くと同時に、後ろから舞も空いている席に着いた。

 

 カク先生の授業は意外にも楽しかった。

 もともとイケメンでもあり、優しい雰囲気を持っているので、女子生徒からはなかなか人気のようであった。

 授業自体もわかりやすく、カクの意外な才能を見れた気がしたのだ。

 だが、私がじーっと見ている事に気付くと、少しだけ声を詰まらせていたので、私は邪魔しないように目線を外したのだ。

 隣を見ると、あの金色の綺麗なストレートの髪の女性がいたのだ。

 初めて見かけた時と同じで、やはり人を寄せ付けない雰囲気を持っていた。

 だが・・・あの時の気になる感じは無くなっていたのだ。

 気のせいだったのか・・・


 カクの授業が終わると、今度は魔鉱力学の授業だった。

 教室を移動する為、廊下に出ようとした時である。

 メガネをかけた優等生風の少年と、その少年よりは少し年上に見える赤髪の可愛らしい少女が声をかけてきたのだ。

 どちらも、まだ十代半ばくらいにしか見えなかった。

 なんであれ、自分よりは10歳くらいは年下なのは確かだった。

 

「ねえ、あなたさっきカク先生と一緒に入ってきたわよね。

 どんな関係?

 ちゃんと説明しなさいよね。」


 可愛らしい顔をした少女の意外な発言に私は少し驚いたのだ。

 腕を前に組んで威嚇するような態度をしているが、何となくアクアが小さかった時の事を思い出され、少し面白く感じたのだ。


「ケイト・・・そんな言い方は良くないよ・・・」


 横にいた少年がおどおどした様子で話すのを見ると、二人の力関係がすぐにわかったのだ。


「うるさいわねー、ライトは黙ってて。」


 その少女に言われると、それ以上少年は何も言うことが出来なかったようだ。

 

「私は舞。

 カク先生の親戚なのよ。

 今までは他の国に住んでいたんだけど、今回からこの学校に通うことになったの。

 よろしくね。」


 私はそんな態度の二人であったが、優しく答えてあげたのだ。


「ふーん、親戚ねえ・・・

 あなたの髪の色や瞳、何だか不思議よね。」


 そう言って、少女は私の顔を覗き込んだ。

 何だか少し怪しんではいたが、納得したのか自分達のことを話し始めたのだ。

 その二人は実は双子で家は軍医などをしてきた家系のようなのだ。

 家も裕福のようで、話を聞いている限り家柄の良い子供達らしい。

 もともと薬師の職業はかなりの地位が与えられているという事は、前にヨクから聞いた事があった。

 ここに来ている学生達は、お嬢様やおぼっちゃまが多いに違いない。

 だから、彼女のプライドの高さも何となく理解できるのだ。

 そして、その中でも王室に仕えている者は別格なのだ。

 その為若くして王室に仕えているカクは、学生から見れば憧れの的なのかも知れない。

 この少女がカクのファンでもおかしく無いのだ。

  

「私はケイト、この冴えない子はライト、私の弟。

 カク先生の親戚なら仕方ないわね。

 でも、必要以上に仲良くしないでね。

 ライト、行くわよ。」


 そう言ってライトを家来のように引き連れて教室を出ていったのだ。

 私はめんどうな事にならないように、学校ではカクにはなるべく近づかない事にしようと決めたのだ。


 次の授業は楽しみにしていた魔鉱力学、私は次の教室に急いだのだ。

 ケイト達と話していたので、教室に着くとほとんどの席が埋まっていた。

 そこは広い教室で階段状に席が作られており、前の方が低くなっているため、後ろの席でも黒板や先生が見やすかったのだ。

 まるで大学で講義を受けるような気分だった。


 後ろの方の空いている席に座ると、すぐに授業が始まった。

 基礎学として鉱石の種類や加工道具など、初歩的なことから説明してくれたので、私は安心したのだ。

 この世界に住んでいれば当たり前のことでも、私にはそうでは無いのだ。

 ただ、私もヨクから話を聞いたり、軍で使っていた武器や飛行船のような乗り物は見ていたので、ある程度は知っていたのだ。

 興味深く授業を聞いていた時である。

 急に前の方で、一人の生徒が立ち上がったのだ。

 何か質問があるかと思ったが、そうでは無いようだった。

 よく見るとそれはあの金色の髪の女性だった。

 だが、さっきとは違って初めて見かけた時と同じ、いやそれ以上に嫌な雰囲気を漂わせていたのだ。


 やっぱりあの時感じた気配は気のせいじゃなかった。

 私は全身に寒気が走ったのだ。

 絶対に忘れる事がない・・・

 それは、もう二度と見たくないと思った光景を私に思い出させたのだ。

 

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