私の薬華異堂薬局は異世界につくるのだ
柚木 潤
第1章 薬師大学校編
第1話 プロローグ
私は自分が生きている世界が全てではないという事を、最近知ったのだ。
そう、異世界は存在する・・・
そして、私が進むべき未来は異世界にあると信じて、私は決断したのだ。
私は
病院で薬剤師をしていたが、祖父の死をきっかけに実家の薬局を手伝う為、田舎に戻ってきたのだ。
ある時、祖父から託された鍵を使い秘密の扉を開け、古びた書物を見つけたのだ。
そして秘密の扉の中に異世界からの手紙が届き、私はそこに転移することが出来たのだ。
そこは人間だけでなく、魔人、精霊、翼人など色々な人達が存在する世界であった。
そして私は古い書物に書かれていた不思議な薬を作る事で、彼らと思いがけない冒険をしたのだ。
そして彼らは私の生きていく上で、欠かせない存在となったのだ。
中でも魔人の王であるブラック・・・私は彼に見合う女性になる為に、もっともっと成長したかった。
だから決断したのだ。
この異世界で生きていく事を・・・
○
○
○
舞は自分の部屋を整頓しながら、先日見つけた母や祖父の写真を眺めていた。
「舞、下から持って行く物はもうないかい?」
父が一階から声をかけてくれた。
私はアルバムをパタンと閉じて段ボールの中に大事にしまったのだ。
「大丈夫よ、全部まとめたから。
後は移動するだけだし。」
今日は私の引っ越しの日。
と言っても、引っ越し業者にお願いする訳では無いのだ。
自分で準備をして、二階の私の部屋にある転移の魔法陣から出発するのだ。
そう、異世界に向けて・・・
布のような物に縫い込まれている魔法陣が異世界にも存在し、そこに転移する事が可能なのだ。
ただ、魔法陣の大きさがそれほど大きくないため、どうすれば一度に沢山の荷物を運べるか考えた。
それに転移に必要な光の鉱石は貴重なので、何回も使うわけにはいかないのだ。
これから行く異世界には不思議な力を持つ鉱石が存在するのだ。
中でも光の鉱石は素晴らしい力を持っていた。
この魔法陣を動かすためにも必要な物であったのだ。
何とか自分を含めて二回の転移で終わらせようと思い、私は荷物を倒れないように上へ上へと重ねていった。
自分よりも荷物の山の方が高くなったので、光の鉱石を上から振り撒くのも脚立に乗らないと無理になったのだ。
「ははは、すごい量だね。
また取りに来ればいいだろうに。」
階段を上がって部屋に来た父が、その荷物を見て笑ったのだ。
「お父さん、この光の鉱石は貴重なのよ。
引っ越しごときで、沢山使うわけにはいかないのよ。」
私は脚立に乗った後、小さな袋に手を入れて光る粉末を握りしめた。
そして荷物の一番上にそれを振り撒いたのだ。
一瞬その光る粉末が、部屋中に広がったかと思うと、その霧状になった粉は魔法陣の中心に引き寄せられ、そこに置かれた物と一緒にあっという間に消え去ったのだ。
「何度見てもすごいな・・・」
父はそう呟きながら、残された魔法陣を見つめたのだ。
「お父さん、じゃあ行ってくるわね。
秘密の扉の事は覚えてる?
そこで手紙のやり取りは出来るからね。
連絡は取れるから心配しないで。
ただ、時間の流れが違うから・・・」
私は早口でそう言いながら残りの荷物を魔法陣の上に置き、その山によじ登った。
「ああ、何度も聞いたからわかっているよ。
毎日ポストを見るのと同じように確認するから大丈夫だよ。
でも、少し生活が落ち着いたら、顔を見せに来ておくれ。」
父はそう言って優しく肩を叩いたのだ。
秘密の扉に入れた物は、異世界にある同じ様な扉の中に届ける事が出来るのだ。
ただ、移動させる為には相手が扉を開けなければならない。
だから、父には自宅のポストと同じように毎日見るように説明したのだ。
父は今回、私が異世界で生活したいと言う申し出を反対する事は無かった。
ただ時間の流れの違いを話したときだけ、少し顔が曇ったのだ。
これから行く世界は、今いる世界より時間の流れが三倍早いのだ。
つまり、どんどん私は父の年齢に近づくという事。
娘が自分の年齢に近づく父の気持ちを考えると複雑なのだ。
しかし父はすぐにいつもの表情になり、こう言ってくれたのだ。
『もう舞は大人だし舞の人生だから、私は反対するつもりは無いよ。
きっとどこでもやっていける強い子だって知っているからね。
ただ、疲れたらいつでも戻っておいで。
ここはいつまでも、舞の家なんだから。
私と歳が近くなっても、娘である事は変わらないからね。』
そう温かい言葉をかけてくれたのだ。
どんな姿でも娘であると言ってくれた父の言葉が、私は嬉しかった。
父を一人にさせるのが少し心配ではあった。
しかし戻って来れないわけでは無いのだから、気にしなく大丈夫だと言ってくれたのだ。
「・・・じゃあ、行ってくるね。
着いたら手紙を書くわ。」
「ああ、いってらっしゃい。
舞、気をつけて。」
父はいつもの旅行に行く時と同じように、そう言ってくれたのだ。
私は魔法陣の中に置いた荷物の上に腰掛けて、光の鉱石の粉末を手に取り自分の頭上に振り撒いた。
すぐに荷物と共に光の霧に包まれると、父の顔が見えなくなった。
そして光の霧が消えると、あの大好きな匂いで満たされたケイシ家の薬草庫の中に転移したのだ。
目の前には二人の人物が私を待っていた。
私と同年代のイケメン青年、そして厳格そうに見えるその祖父。
しかし、実は少し頼りないがとても優しいカクと、色々なものに興味があり話がわかるヨクであり、この世界における私の家族の様な存在なのだ。
二人は人間の国であるサイレイ国の王室に仕える薬師をしているのだ。
彼らがいなかったら、私はここに住もうとは思わなかっただろう。
「お帰り、舞。
もっと早く来てくれると思ったのに、案外時間がかかったね。」
カクはそう言い、私の手を取り荷物の山から抱きかかえてくれたのだ。
カクが意外に力がある事に、初めて気付いた。
頼りないイメージがあったので、私の体重で倒れるかと思ったが、そんな心配は無かったのだ。
だがいつものようにどさくさに紛れて、中々私から離れようとしなかったので、それを見たヨクが笑いながらカクを窘めた。
「これ、舞が困っているではないか。
もう降ろしてあげなさい。」
「ああ、ごめん舞。
これから一緒に住む事を考えたら嬉しくてついね。」
そう言って、やっと私を降ろしてくれたのだ。
でも、相変わらずの二人で私はとても安心した。
その夜は私の引っ越し祝いと言って、いつものように飲んで食べて話して楽しい夜を過ごしたのだ。
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