第3話 主役はかくあるべき2

 結局、俺たちの数十分は完全に無駄となった。それどころか作業員である小人たちがダウンしたために、むしろマイナスとなった。

 仲間たちの怒りを晴らすべく、小人たちが抗議の声を怜司に向かってあげている。いや、別に小人たちは死んだわけじゃなかったのだが。


「まったく。十兵衛もくれはも加減ってものを知らないからなぁ」

「む、何ゆえ拙者まで」


 呆れて溜息をつく怜司に十兵衛が心外だという声をあげる。


「おまえまで爆走するから被害が広がったんだろうが。二人ともちょっとは反省しろ」


 腰に手をあてながら二人を叱る怜司だったが、十兵衛はくれはのせいだと言わんばかりに彼女のほうを向いているし、くれはは気に入らないのかそっぽを向いている。あまり効果はなさそうだ。

 そのことに怜司も気がついたのか二度目の溜息。


「けどまぁ、手伝ってくれようとしたことは感謝するよ。ありがとな、十兵衛、くれは」


 そう言って怜司は二人の頭に手を乗せると、優しく撫ではじめた。

 十兵衛は目元しか見えないせいでよく分からないが、満足げに見える。くれはは少し顔を赤らめているような気がするが……。

 ──そう、俺はこいつの、こういうところも嫌いだった。年下の少女に対しては当然だろう、と思われるかもしれないが、しかしこういった部分からどうにもいけ好かない雰囲気が漂ってくる。

 もちろん、これが主な理由ではない。もっと別の、決定的な要因があった。


「なんだか騒がしいけど、なにしてんの?」


 騒ぎを聞きつけて今度は蒼麻がやってきた。


「お、いいところに来たな。掃除をしてたんだけど、人手が足りないんだ。おまえもやっていけ」

「えー、めんどくさーい」


 そう言いながらも蒼麻は掃除道具を受け取るとせっせと動き始めた。くれはと十兵衛もそれに倣って、今度は慎重に箒で掃き掃除を行う。

 めんどくさがっていたわりには、蒼麻の手際は良い。風呂掃除が主な仕事だから、慣れているのだろう。くれはと十兵衛も身体能力が高いおかげか、動きが良かった。

 そうなってくると一番役立たないのは俺になるわけだが、まぁそれはいい。どうせいつものことだ。

 手を止めて少し休んでいると、黒髪の女がやってきた。無意識に、俺の視線が彼女へと引き寄せられる。

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