Birds Island

空木葉

序文

  フィアルカを愛でる民草よ

  明日は野に種を蒔くだろう

  空の雨と風とかがやきを

  望むなら祈り平伏そう

  やがて土に還り巡るまで 



 ほんの気まぐれだった。

混沌を司る竜が眠りから覚めた時、大地は乾ききっていた。木々は枯れ、泉は干上がり、風は縦横無尽に山を裂く。竜が空気を吸いあげると、小石が次々と鼻腔に取り込まれて粘膜を傷つける、それは最悪の目覚めだった。あまりのむずがゆさにくしゃみを放つ、竜の嚔は戦いの咆哮、たちまち振動となって大地を揺らした。


 数百年前、木々は生い茂り、泉は満ちあふれていた、川のせせらぎで喉を潤してから午睡しただけ、目覚めて枯れ果てた大地に様変わりしてるなど、竜は予期しなかった。

 混沌を司る竜は、木々を愛し、作物を愛し、苔を愛し、泥を愛し、それらに思いを馳せる。その権能で辺り一帯雨で洗い流そう、太陽で湿った土を照らそう、混沌の力を行使する時は来た、己が不快を消すため。


 それは長らく日照りで枯れた北の大陸ノースデウスに奇跡の雨をもたらした。やがて人々の間で混沌の竜は五穀豊穣の化身として崇められ、それは伝承となり信仰へと形を変えていった。

 聖竜歴653年、人間たちは今日も獣を狩り、野を耕し、街を繁栄させ、竜に祈りを捧げている。

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