第17話 そのメイド、叱られる。
「ねぇ、ハイドラさん。ちょっとお尋ねしたんだけれど」
「……なに? 役立たずな私を笑いにでも来たの?」
「うっ、相当根に持ってるわね!? そんな似合わない自虐はやめてよ……」
さっきまで凄い自信に満ち溢れてたのに、どうしてこうなっちゃったのかしら。目元なんて涙で潤んでいるし、余計に私が悪者みたいに思えてくる。
「さっきは私が言い過ぎたわ、ごめんなさい」
「良いのよ、本当にただ私が無能なだけなんだから……」
「もう、違うって言ってるのに……分かったわ。その代わりとは言っちゃなんだけど、ハイドラさんの水魔法の有効な使い方をひとつ教えてあげる」
「ホントにっ!? どうすればいいの!? 何をしたら私は……!!」
赤子のようにポロポロと泣きだしてしまった彼女は、必死の形相を浮かべて私にしがみ付いてきた。
魔法の実習をしていた周りの子も手を止めてこっちを見ている。
「や、やめてよ! これじゃ今度は私が貴女を虐めているみたいじゃない!」
「お願い!! 私を捨てないでよっ!! 何でもするからぁ~!!」
「だから誤解を招くようなことを言うなっ!!」
「あいたっ!?」
懐から出したメモ帳で頭をチョップする。
これは暴力じゃない。思考のリセットボタンを押しただけだ。
「……ふぅ。落ち着いたかしら?」
「ご、ごめんなさい。つい我を忘れて……」
まぁ自分に価値が無いと錯覚したら、アタフタしちゃうのは分かるけど。ハイドラさんの水魔法は私のメモ魔法よりよっぽど応用が効くんだから、もっと誇りを持ってほしいわね。
正気を取り戻したとはいえ、ハイドラさんは期待を込めた眼差しで私を見つめている。
うーん。なるべくなら、自分で気付いてほしいんだけどなぁ。
「アカーシャさん……」
「わ、分かったわよ……」
仕方ない。自信が付くようになるまで、ちょっとしたヒントをあげてみようかしら。
「ハイドラさん。貴女のその水魔法って、どんな形でも出せるのかしら?」
「えっ? えぇ、あまり大きなものは出せませんけれど。ある程度は自由に出せますわよ。……こんな風に」
手慣れたように魔法陣を展開させる。するとビー玉程の水球から浮輪みたいなドーナッツ状の水まで、多種多様な形の水を出してくれた。
あまり細かい造形まではできないみたいだけれど、出した水を自由に形を変えることも出来るみたい。なんだ、応用し放題じゃないの。
「その水を出来る限り小さく、ぎゅぎゅ~っと押し込めることはできる?」
「私の水を? 出来ると思いますけど……どうしてですの?」
「いいから、ちょっとやってみてよ」
私の言葉の意図が分からず、不思議そうな顔をしながら首を傾けた。
まぁ普通はそんなことをする必要が無いものね。でも上手くいけば、彼女の魔法はただの水魔法ではなくなる。
「分かったわ。やってみる……水魔法、発動!」
ハイドラさんの手のひらの上に魔法陣が展開され、グルグルと動き始めた。
空中に丸い水が現れ、それが渦を巻くように回転しながら徐々に小さくなっていく。
「……何も起こらないわよ?」
「いいから、そのままもっとよ!」
「まぁ、いいけど……なんだか気持ち悪いわよ、コレ?」
空中で押し込められた水が圧力でグニャグニャと形を変えていく。周囲で見守っていた他の子たちがざわざわとし始めた。
うーん、これぐらいでいいかしら?
「それを針ぐらいの太さにして解放してみて。あぁ、その先はこの花瓶にしてもらおうかしら」
「えぇ……? こ、こうかしら?……キャアッ!?」
ブシャア、という音と共に、勢いよく放たれた水流は花瓶に向かって飛び出していく。
「すごい、汚れが一気に落ちていくわ……」
「でしょう? ただ雑巾で水拭きするだけじゃ落ちないヨゴレも、これなら簡単に落とせるのよ」
得意気に言っているけれど、原理は私にも分からない。だって、お母さんから貰った手帳に書いてあっただけだから。
高圧にした水をぶつけるだけ、っていういたってシンプルな魔法。だけど、掃除をする時に重宝すると思うのよね。しかも屋敷の外でも中でも、場所を選ばずにお掃除ができる。
……うん、私がその魔法欲しいぐらいだわ。
「すごいわ、アカーシャさん! これなら水汲み以外にも私が出来ることが増えるわ!」
「だから言ったでしょう? 魔法は使い方次第なのよ。他にもきっとやり方があると思うから、あとは自分で考えて試してみて?」
「うんっ、ありがとう~!!」
ハイドラさんは大喜びで私に抱き着いてくる。
くっ、この子も中々立派なお胸様を持っているな!?
水風船みたいにポヨンポヨンとさせちゃって……くやしい!!
そしてそんな私たちを、何故かルーシーは悔しそうな目で見ている。水魔法がそんなに羨ましかったのかしら……?
「あっ、そうだ。ちなみに水を押し込める力が強過ぎると危ないって注意書きが――」
――ガキンッ!!
「えっ」
「あっ」
目の前にあった花瓶が嫌な音を立てて割れた。ハイドラさんのウォータージェットが花瓶を貫通させたようだ。
今さら誤魔化すなんてことも出来ず、こめかみに青筋を立てた先生がニコニコと私たちを見つめていた。
「……貴方たち、後で反省文を提出してもらいますからね?」
そ、そんなぁ……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます