【異世界スパイ物語】外套と短剣と魔法使い

大塚 慶

第0話


「―――という訳でティム・ライムは死んだという訳だ。満足かい? えぇ?」

「本当に死んだという事でいいのですか? 記録では遺体が見当たらないという事ですが」

「そのためにわざわざあたしは呼び出されたんだろう? 正直遺体があるなら捜査不要と言うのもどうかと思うけどね」

<筆記音と音声データの削除音>



「……作戦従事中であったと聞いています。その作戦について……」

「おい。あんたらはそんな事も分かっていないで聴取なんて取っているのか」

「そんな事とは……」

「あのな、秘密作戦なんだ。その内容を口頭でも口にできるわけないだろうよ」

「しかし―――」

「しかしも、案山子もねぇんだ。その話を取りたいんだったら、もっと上に」

「いや、準軍事組織の組織長から上の階級って」

「だからさ、Dにでも話を―――」

<筆記音と音声データの削除音>



「改めてですが、事件時のスケジュールをもう一度繰り返してください」

「あんたらはいつもそうだな。繰り返して話をさせる方法以外にいい方法を見つけた方が良いよ。欺瞞でない場合無意味だろ。あんたらは何十年も同じ話を指せてボロを出させる事で、仕事として認められるのかもしれないが、あたしの部下だったらただじゃおかな……」

<筆記音と音声データの削除音>



「では、ティム・ライムについて」

「又かい?」

「すいませんがお願いできますか」

「ティム・ライムって名前がそもそも本名だか何だか知らない。でもね、大した奴だったよ。嘘に敏感だった。あんたらの仕事でもそうだろうが、この仕事に嘘は付き物だからね」

「国家への嘘がありましたか?」

「『国家への嘘』とはなんだろうね。その質問をしたいのだったらその定義が先じゃなくちゃいけない」

「その……」


「いや、いいよ。別にあんたを虐めたいわけじゃ無いのさ。言葉の綾だ。しかしどうだろうね。嘘を付いていたんじゃないかな。武器として欺瞞を使わせたら当時でもあいつは相当だったけどね」

「伝説のスパイマスターという訳ですね」

「あいつがそれを聞いたらどう思うんだろうって良く思うんだ。恥ずかしさのあまり首を吊るんじゃないかと思うよ」

「何故です」

「伝説なんて言われるって事は、表沙汰になっているって事だからさ。仕方のない事とは言えあいつは恥ずかしいと思うんじゃないかな」

「それで、その伝説のスパイマスターは祖国を裏切ったとお思いになりますか? アニー・コルト」


―――元パストン公国準軍事組織長 アニー ・コルトによる口述記録抜粋。パストン公国情報局記録20,045号

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