第2話

第二話 異世界転移

俺はなんとか走って光が灯る家々にたどり着く。

「へぇ、へぇ。疲れた。死にそう、、、水がほしい。」


村の入口に差し掛かって、人が倒れているのを見つける。


「だっ!大丈夫ですか?」


俺は咄嗟にそう聞くが反応がない。


「一体どうなっているんだ?」


すると突然人の声がして、振り返る。

だがそこには、


知らないおじさんがさっきの馬の群れを操っていた連中に襲われているところだった。その周りには血を流した死体らしきものも散見される。


俺は咄嗟に「おいおいおいおい!何やってんだ !!」

と詰め寄るが


「はっ?邪魔してんじゃねぇよ!」


と勢いよく弾き飛ばされる。

そしてそのままの勢いで剣を振り上げ、


「死ね!ガキが!」


と剣を勢いよく振り下ろす。


「えぇまた俺死ぬのぉ、、、剣は痛そうだなぁ。」


そう思いながら受身の姿勢をとると、

「なんじゃこりゃ。」

と盗賊の声が聞こえる。


閉じた目を恐る恐る開けると、

剣が空中で止まっていた。


「あんた?魔術師か?」


知らないおじさんにそう話しかけられるが、

「え、いや俺はそんなんじゃ、、、」


盗賊は何度も剣を打ちつけるが、剣は空中の見えない壁にぶつかり、俺には一向に当たらなかった。


俺にこんな力があったのか?

ふと俺は研究者の老いぼれのことを思い出す。

そういえばあまり実験のことはよく知らなかったが、脳力、つまり超能力を開発する実験だったはずだ。そして老いぼれは

「ダークエネルギー」と、呟いていた。

今の時代でどのくらいの規模の超能力が生み出せるのか知らないが、中学生の時、受験そっちのけで量子力学を勉強したときにさわりだけは知っている。

ダークエネルギーは重力によって萎んでいく物理的実体を持つ宇宙の空間を拡張し、宇宙の領域を広げていく役割を持っている。それはまるで重力と正反対の性質であることから【反発重力】とも呼ばれる。反発重力と聞くと反重力というSF単語を思い出す人もいるだろうが、それとはまた少し違う。

マイナスの質量を持っている訳でも、グラヴィトン(重力子)という粒子を調整してるわけでもないからだ。

重力とは正反対とは言ったが、4つの既知の力とはまた違う。

それでいて宇宙の大半を占めるエネルギーとも言われている。


「なるほど。さっきの見えない壁は空間の密度が異常に大きくなったから起きた現象だったってわけか。」

それなら納得がいく。空間の密度が大きくなれば時間の流れは遅くなり、当然振りかざした剣も止まってしまうということだろう。


また重力波は空間を伝播していくと言われている。つまり、、、、


俺は盗賊に向けて右手をかざす。


そして手から重力波の渦を発生させた。


「ぐぁああああああああああああ」


重力波は盗賊の体に直撃し、そのたくましい体を吹き飛ばした。


「ダークエネルギーか、えっやばくね?めっちゃつぇえじゃん。遅延防壁に波動攻撃、、、、なにこの攻守万能!! 」

俺は突如として得た力に対して歓喜する。


襲われていた村人達は不思議そうな眼差しでこちらを見る。

それにも関わらず俺は喜びを抑えられなかった。

「ダークエネルギーに対する理解があったのも幸いだったな。」

するとおじさんが話しかけてくる。

「あんた!怪我はないかい。」


俺は平静をなんとか取り戻すと、

「いえいえ、なんとか無事です。そちらこそ大丈夫ですか?」


俺は自分よりも村人の方が怖い思いをしたのだろうと、気遣う。


「こっちは大丈夫だが、すごい魔術だな?あんたは恩人だよ。名前は?」


俺は名前を言おうとするが思い出せない。


あれ、俺の名前って何だっけ?

これじゃぁ ここはどこ?私は誰? 状態だよおお。


それじゃあ

「俺はダークエネルギー。名前はダークエネルギーだ。」


「ダークエネルギー、いやダークエネルギーさんか?ありがとう。助けてくれて。」


こんな厨二病っぽい名前でも通るんだな。そもそもここはどこなんだ?

異世界か?


「なぁ、ここっていせか、、、いやこの世、、、なんですかね?」


「あたぼうよ。この世に決まってらぁ。あんたのお陰で、あの世に行きそうになったのをなんとか助かったんだよ。」


後ろにいた奥さんと娘さんらしき人影が現れ、ペコリとお辞儀をする。


俺もお辞儀をして応えた。


だがっ、「きゃーーーー」

また悲鳴が聞こえる。


「クソッ、まだ盗賊がいやがったか。」


おじさんは斤を持って向かおうとする。

が、俺はそれを制止し、

「そこで待っててください。私が片付けに行きますから。」

と、俺は重力波の渦でできた竜巻のような翼を伸ばし、空へ飛び立つ。


「怪我だけはしないようにな!兄ちゃん!」


俺は手を振って応える。


「あれは伝説の勇者、なのかもしれねぇな。」

そうおやっさんは呟くと、家族を抱きしめて涙を流した。

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