救世主

「な・・・なにあれ~?」


現れたのは、全身毛にまみれた生き物達だった。大きさは、約百十cmほどで、人間の子供と同じくらいの大きさだ。


その異様な姿に目を奪われていると、毛が猛スピードで伸びて色人達に向かってきた。

「うわっ・・・」

「バカ!あぶナイ!」

逃げ遅れかけたキイロをミドリが力ずくで引っ張り、攻撃をよけた。


「な・・なにあれっ?」

「・・・とりあえず逃げよう・・・クロ!」

そう叫んでシロはクロの手を引っ張ろうとしたが、クロの体に毛が巻きつき、捕らえられた。


「クロ!」

シロは塗料を変形させ、クロに巻きつく毛を切断した。

「シロっ」

「クロ、ほら立って」


しかし、後ろを見ると、すぐにまた別の毛が二人を追っていた。

「再生するのか・・・・・」


毛を切断してもすぐに再生し、追ってくる。そして、抵抗むなしく四人はその謎の生き物の毛に捕らわれた。


「何、この生き物~・・・!」

「人間だよ。一応」


捕らわれた四人を横目に、物陰に隠れて無傷の安藤は冷静に答えた。


「一応・・・?あなた達、彼らに何したんデスカ?」

「人間の全身の体毛を最大限に活性化させた」

「ハア?何でそんなコト・・・」

「兵器にするためさ」

「兵器!?人間を~!?」

「キイロ!後ろ!」

ミドリの声に、キイロが振り向くと、尖った毛が猛スピードで自分に向かってきていた。


「・・・・・・・!」


今のキイロは身動きがとれない。


殺される。


そう感じたキイロは思わず目を閉じた。


しかし、次の瞬間、自身の体は軽くなった。


「・・・・・・?」


キイロが目を開けると、青いマントに身を包んだ人物がキイロの前に立っていた。彼がキイロに向かう毛を切断し、キイロを助けた、と理解できた。


「あ・・・あなたは~・・・」


キイロが呼びかけると、その人物は無言で振り返り、キイロを見つめた。


顔もマントで覆われていた為、目元しか見えなかった。


「・・・・・・その目、は」


その瞳は、青と赤の・・・・オッドアイだった。


「・・・・アオ?」

キイロの問いに答える前に、その人物は猛スピードで毛を切断し、色人達を解放させた。


「・・・あそこの部屋へ逃げこめ!」


毛にまみれた被験者達は出口を背にしていた。その人物の指示に従い、色人達はさされた部屋へ避難した。


色人たちを見失った毛の生き物は、物陰からはみ出ていた安藤に反応し、安藤に毛を向けた。


「くっ・・・・!!」


抵抗できない安藤の前に青いマントの人物が立ちはだかり、安藤に向かっていた毛を切断した。


「あんたも来い・・・!」


彼は逃げ遅れた安藤も部屋へ引きずり込み、ドアを閉めた。扉の向こうでは、被験者が暴走している音が響いていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「・・・もう、わかってると思うが、」


そう切り出し、その彼はマントを脱いだ。


「・・・・アオ!」


マントの人物はアオだった。しかし、瞳はオッドアイで、髪は青色だった。


「何でそんな姿二」

「・・・起きたらこうなってた。おそらく、〝アイツ〟の心臓を移植したから・・・」

「あ・・・あかりちゃん・・・」


キイロはうなだれた。


アオがこうして生きて助けにきてくれたことは、大変喜ばしいが、それは、あかりは助からなかったということだ。


「あかりん・・・死んじゃったのっ・・・」

「・・・上野さんは何て?」

「いや、上野とは話してない。病室で倒れて、起きたら病室でこの姿になってた。病室のテレビ点けたら、ここの研究施設で白の発光体が現れてるってニュースでやってて・・病院にお前らの姿はないし・・・多分ここだと思って、そのまますぐに駆けつけてきた」


「か、悲しいけど、アオがいてくれて良かった~」

「じゃあ、あなたの心臓は治ったんデスネ?」

「おそらくだが・・・ここにずっとこもってるわけには行かない。アイツらについて、手短に話せ。弱点はあるのか?」

アオは安藤に問いかけた。


「・・・ない」

「大体、何であんなものを作ったんデスカ」

「・・・さっきも言った通り、人間兵器さ」

「人間兵器!?」


「・・・もう察してるとは思うが、ここは普通の製薬会社じゃない。ある国からの依頼で、人間兵器の研究をすすめてる」

「・・・・・・人間、兵器・・」


「要人の暗殺など、武器を持ってると迂闊に近づくことはできない。戦争に使うにしても、輸送や原料費・・・様々なコストがかかる。だから人間自体を武器にしてしまおうって発想だよ。・・・狂ってるだろ?」

「・・・じゃあ、俺たちもその為に」

「そうだ。藤吉に盗まれたがな」


次の瞬間、大きな衝撃音が響いた。


「あ、暴れてる~」

「とりあえずここから脱出する。あんた、脱出ルートはわかるよな?」

「・・・わかるが、全て塞がれてる」


「え?」

「あいつらの暴走で防火シャッターが降りた。解除コードを押さなければならないが、その機械室はアイツらに占領されている」


「ど、どいて~て言えばよくない~?」

「無理だ。アイツらは話が通じない。それに・・・」

警報音とともに、アナウンスが流れた。


『緊急事態発生。これより、十五分後に、この施設は爆破されます。施設内にいるスタッフは、直ちに避難してください』


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