複雑な思い
「この動画を撮ったのが僕に連絡してきた一日前・・・多分、僕を佐久間さんの代わりにさせようとして、連絡してきたんだな・・・」
上野は自虐気味に笑い出し、あかりは泣き出した。
「叔父さん・・・なんてことを・・・」
「・・・・・」
アオとキイロは何も言わなかった。
「・・・・アオとキイロくんは、腹立たないの?」
「え・・・」
「悪の根源は澤上製薬だけど!でも叔父さんにいいように実験されたんだよ!?勝手に順位とかつけられて!」
「あ、ああ・・・・」
「そ、そうだよね~・・・」
あかりは二人に怒りをぶつけたが、二人の反応は薄かった。
『PIPIPIPIPIPIPi』
あかりのスマホが鳴った。
「・・・・電話か?」
「うん。バイト先から。ちょっと出るね・・・はい、お疲れ様です・・・え、今からですか?・・・はい、はい」
あかりは通話を切り、身支度を始めた。
「ごめん、私これからバイト行くね」
「・・・今日休みじゃないのか?」
「そうなんだけど、今日入る予定だった子が、急に来れなくなっちゃったって。前にチャイロさんに攫われたとき、変わりに入ってくれてた子だったから・・・」
「じゃあ、僕の車で送るよ」
「え、いいですよ」
「大丈夫だよ。急ぎでしょ?アオくん達は・・・ここでゆっくりしてていいから」
「は~い・・・」
「・・・・・・・」
上野はあかりを車に乗せ、バイト先に向かって走り出した。
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「・・・ごめんね」
「・・・え?」
「僕の父さんのこと。関係のないあかりちゃんを巻き込んで・・・何とお詫びすればいいか・・」
「・・・い、いえ。上野さんは悪くないです。確かに・・・動画見て、ショックだったけど、でも、一つ安心したこともあって」
「安心?」
「私のお父さんが昔、澤上に勤めてて、お父さんの絵具をアオ達に見たって言われたとき・・・もしかしてお父さんも何か関わってるんじゃないかって、ずっと不安で・・・もしかして、〝ハカセ〟がお父さんんなんじゃないかって思ったり・・お父さんと叔父さん、顔も声もよく似てたから。でも、おとうさんは何も関わってないってわかって・・・安心しました」
「・・・・そう。それは良かった・・・アオ君達は、どう受け止めてるんだろうな・・」
「でも、アオは、多分叔父さんを恨んでないと思います」
「え?何で?」
「さっきも何も言ってなかったし・・色々ショックだったとは思うけど。あと、叔父さんの血がついたボールペン、ずっと持ち歩いてて・・」
「ボールペン?父の?」
「はい、死ぬ間際に渡されたらしいです。サワガミ薬局のボールペン。きっと、何か特別な想いがあるんじゃないかな・・」
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「・・・ねえ、アオ」
「・・・ん?」
上野の部屋でしばらく放心状態だった二人だが、キイロが先に、口を開いた。
「これから、僕たち、どうしようか~?」
「・・・体を元に戻す方法を考える。上野が他の色人のサンプルも欲しがってたから、とりあえず他の色人集めて説明して・・・」
「・・・あの上野さんは、本当に信用して大丈夫なのかな~?」
「・・・俺だって完全に信用してるわけじゃない。でも、他に頼れる人間もいないだろ。澤上製薬の事も調べてくれるし」
「そうだね~」
「・・・・・・・」
「ね、アオ~」
「ん?」
「・・・あかりちゃん、ああ言ってたけどさ、僕、ハカセの事・・・なんか恨み切れないんだよね~」
「・・・・・・」
「も、もちろん、ハカセがちゃんと助けてくれてたらこんなことにはなってなかったんだけど、でも、ハカセが僕たちを連れ出さなければ、僕たちは死ぬまであの会社で実験台にされたんだよね~・・・自分が誰かもわからないまま」
「・・・・・・・・」
「・・・・そう思うと、すごく・・怖いんだ~・・・」
「・・・・・・・そうだな」
「これから、どうする~?」
「とりあえず他の色人達呼んで、あの動画を見せる」
「え、大丈夫なの~?」
「・・・・アイツらにも知る権利はある」
〝あなたたち、腹立たないの?〟
アオの脳裏に、あかりの言葉がフラッシュバックした。
(確かに・・・俺は何故か怒っていない・・・)
何でだろう・・考えれば考えるほどに、自分の中の、絶対認めたくない感情が湧き出てくるのだ。
アオは、ハカセの最期の時を思い出していた。
崖近くの実習場所に向かう途中で、いきなりハカセが狙撃され、わけもわからず、ハカセを連れて茂みに隠れた。
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『・・・何デスカ?アイツらは』
『・・・お前らを追ってる連中だ。逃げろ、絶対に捕まるな』
『・・・ハカセの仲間の組織じゃないのか?』
『違う・・・そんなものはいない。私の独断で、ずっとお前たちを研究していた・・』
『はあ??』
『と・・とにかく、逃げろ。山を降りて、人間に戻れ。そうすれば、もう追われなくなる』
『人間に戻れって・・・どうやって』
『わ・・私の姪に、お前たちと同じ色人の素を投与した・・・しかし、彼女は色人になっていない・・・あいつの体に、何か秘密がある・・・い、今名前を書く』
ハカセは震える手で、ポケットから紙とペンを取り出し、姪の名前を書き出し、一番近くにいたアオの胸元に押し付けた。
『と・・隣町の朝日高校に通ってる・・・この娘を訊ねて・・』
『ちょ、ちょっと待てよ、いきなりそんな事言われても』
『いたぞ、あの茂みだ!』
『ミツカッタ・・・』
『いいか。俺が囮になって奴らをひきつける。その隙を見て、逃げろ・・・!』
『え、ハカセ』
『今まで、済まなかった・・・私を、恨んでくれ・・・』
そう言ってハカセは立ち上がり、一斉に射撃されて、そのまま崖の下へ転落した。
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次の日。
アオとキイロは、ミドリ、チャイロ、シロ、クロを呼び出し、上野の病院の個室で例の動画を見せた。
「フーン・・・・」
「オレタチ・・・ジッケンダイ・・・・」
「そうだったのか・・・」
「ハカセ・・・懐かしいっ・・・」
リアクションは三者三様であったが、特に取り乱しはしていなかった。
「何だ・・・お前ら、冷静だな」
「まあ大体察しはついてマシタ。ハカセが逃げろと言った理由はおそらく検体だったのではないか・・・ト」
「わかってたんなら言えよ」
「確証はありませんデシタシ、憶測でモノを言っても、あなたたちは余計混乱するだけデショウ」
「・・・・オレハ、ヨク、ワカンナイ・・・」
「そんな事より、もう帰っていいかな?黒色にご飯あげなきゃ」
「えっ!シロ、帰っちゃうのっ?」
(・・・・相変わらずまとまりねえな・・・)
「・・・それで?これからどうするんデスカ?」
「・・・とりあえず、上野が色々調べてくれてるから、協力して欲しい。そこで何かヒントが見つかるかも」
「・・・その上野という男は本当に信用できるんデスカ?」
「・・・他に手はないだろ。俺だって完全に信用してる訳じゃないけど・・・」
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