銀河SAISOKU物語

戸川 八雲

第1話 最速に至る道

 ◇◇◇


 前書き

 この作品は作者の作品である

「銀河ネットで仮想空間に潜ったら宇宙船の艦長に成りました」

 の外伝的な短編となりますので、そちらを読んでいないと理解できない部分が多々ある事をご了承下さい。


 作中のエアバイクやなんかは健康器具では無く、空中を浮かんで移動出来る機能もあるバイクだと思って下さい。


 ◇◇◇







「クソッ! 何が退役が確定しただ! ……散々俺をこき使いやがったくせに!」


 俺は憤りと共に今出て来た軍の事務所の壁に拳を叩きつける。


 狼獣人であり尚且つ身体強化された俺の正拳突きで壁は……びくともせず、ただ俺の拳が痛いだけだった……いてぇ……。


『さすが皇国軍施設の壁ですね、丈夫さだけなら逸品です』


 俺の後をついて歩いてきている、機械な体のメカメカしいアンドロイドであるサイが、施設の壁を褒めている。


「俺の相棒なら俺の心配をしやがれ!」


『無駄に頑丈なガオ様なら問題ないかと思いまして』


 くそ、相変わらず口が減らないなこいつは……口なんてこいつには無いけどよ。


 サイは人型で見た目はシルバーの機械で出来たアンドロイド義体だ、目の部分はサングラスの様にも見えるワイド型センサーで、口があるべき部分には何もない。



「俺が手に入れた各種勲章には年金がついているんだとよ……『一生食べていけるから幸せですね』とか言いやがった……クソッ!」


『ガオ様の戦果ならそうでしょうね』


「お前の船も爆散しちまった……すまねぇなサイ、俺はもう飛べないみたいだ……なんならもう俺の事は放って置いて自由にしていいぜ」


 ガキの頃に銀河ネットで出会ったサイとはもう長い付き合いだ。


 浮遊二輪車エアバイクの速さでは満足出来なくなっていた俺には、サイとその翼は最高の相棒だった……だが今はもう相棒の翼は無くなってしまった……。


「あの時に最初から艦隊と一緒に戦っておけばよかったのか?」



 俺は後悔と共に言葉を漏らす。



『何を言ってるんですか、ガオ様はあの時から一人で戦うと決めたでは無いですか、今更ですよ』


「……ああ……そうだったな、俺は足手まといなんて置いて一人で戦う事を選んだんだった」


 そうだな……あの人類を脅かす適応体との初めての戦闘で、味方に被害が出た時から……俺は一人で全部倒すと決めたんだった。


 足手まといは後ろで安全に命の危機も無く、物資拾いでもしてりゃぁいいんだ……。


『ガオ様、貴方には普通の人間なら使えきれない程の資産があります、まだお若いですしエアバイクの大会等に出るなども出来るのですよ? 道は無限に存在します』


「俺はな、速く成りたかったんだよサイ、誰よりも速く、何よりも速く……お前とお前の翼は最高の相棒だったさ、俺とお前に勝てる船なんて居なかった……もうちょこまかとエアバイクで走る事には熱が湧かないんだよ……」


 俺は空を見上げならそう答えた、あの空の向こうをサイと共に駆け抜ける事は……もう出来ないんだよな……。



『……飛びたいなら飛べばいいじゃないですか、何をぐちぐちといじけているのですか』


「ああん? もう一度飛べるなら俺だって飛びてぇよ! だけどお前も俺達の船が適応体と共に爆散するのを見ただろうが!」


『それが? 貴方には豊富な資産があります、一人で適応体や海賊と戦って戦って戦って戦って戦って! そうして命を賭けて得た報奨金が溜まりに溜まっているじゃないですか!? 翼が折れたなら買えばいいのでは?』


「あほか! そこらの宇宙船ならそりゃ買えるだろうが、お前と俺の愛機は……金でどうにかなるもんじゃ……ないだろうが……」


 なんだこいつは、どうしてこんなに現実を思い知らせる様な事を言ってくるんだ!


 皇国製の船なんかじゃ満足できねーんだよ!


 お前と一緒に……お前の愛機と共に飛ぶのが最高だったんじゃないか!



 どうしてそれを判らないんだこいつは!



『……買えますよ』


「だから!」


『私の船は修理されて10隻程軍に納入されています』


「……? はぁ? ……いや……修理? 仮に修理されていたとして10隻? すまん意味が判らない、サイ……お前もしかして自分の巡洋艦が壊れた悲しみで壊れたのか? 安心しろサイ、多少壊れても俺が一生養ってやるからな……」


 まさか遺産であるサイが壊れるとはな……やはり巡洋艦の工作室で作った義体では無理があったのだろうか?


『失敬な! というかガオ様は世間に流れるニュースとかをちゃんと見て下さい』


「ああ? 内乱鎮圧がどうたらでニンニンってやつか? 政治とかめんどくせーし、興味ねーよあんなの」


『違います……まぁガオ様は自分の船を失ったショックで、ずっとお屋敷に籠っていましたからしょうがないですかね』


「俺とお前の船が無くなった途端に永続自宅待機命令が出たし仕方ねーじゃねーか、まぁそんな事になった瞬間に取り巻きがほとんど居なくなったのは笑えたけどな、はは」


 俺が落ち目に成った瞬間に手の平を返して皆居なくなったからな……いや一人以外みんなと言い直すか。


『だから前から言っていたんですよ、貴方は良い様に操られているから、あいつらと手を切りなさいと』


「ああん? でも旧銀河帝国の遺産である、お前の巡洋艦の装備品だった内火艇を売っただけですっげーお屋敷を買えたんだぜ? 親切な奴等だったと思うが?」


『はぁ……ガオ様に人を見る目を期待するのが間違いでした』


「んだよそりゃ……」


『取り合えず、お屋敷に戻りましょうか、お乗り下さいガオ様』


 俺達の前に無人の浮遊四輪車エアカーが到着していた。


 サイが呼んだタクシーに一緒に乗り込み、郊外にある無駄にでかい俺の屋敷へと帰る事にする。



 ……。



 ……。



 屋敷の入口近くでエアカーから降りると、無人のそれは来た道を帰っていった。


 今このお屋敷には人気ひとけがほぼない。

 俺の取り巻き達やその従者はすべて何処かへ去って行ったからな。


 屋敷の管理そのものは、サイがロボットに命令してやらせているからどうとでもなるのだが。

 人の気配のない大きいお屋敷は寒々しいものだ。


 俺達がお屋敷の中に入り、いつものリビングとして使っている一階の応接間に入ると。



「あ、ガー様とサイさんおかえりー」


 中央にあるソファーに座り、空間投影モニターで何か作業をしていた女性の狼獣人が、俺達に気付いて顔を上げて挨拶をして来る。


 こいつの髪や尻尾って白いんだよな、目も赤いし、俺は普通の狼獣人によく居るような濁った青茶というか見ようによっては黒いというかそんな髪や目なのに。


「ああ」

『ただいまですリリー』


 取り巻きで唯一残ったのは、このリリーという名の白っぽい女性狼獣人だけだった。


「まだ屋敷に居るんだなお前は」


 ドカッっと、リリーの対面のソファーに座りながら俺はそう言った。


 そろそろ屋敷を出ていってるんじゃないかと思っていたんだが。


「うわひっどい! ガー様を一人ぼっちにしたら可哀想じゃないですか、それにここに居ればお肉食べ放題だし」


 そう言いつつ空間投影モニターで何かの操作をしながら、リリーはジャーキーを食べている。


 他の取り巻き達が、俺の金を使って高い牧畜高級肉とかを勝手に注文している中で。

 こいつはそこらの店で売っている培養肉のジャーキーとかをいつも食ってたっけ……変な奴だとは思っていたが、ここに残っている時点でやっぱり変な奴だよなぁ……。



「まぁ好きにしろよ」


「あーい、好きにしまーす、んでサイさん、連絡つきましたよ」


 俺は給仕ロボットに飲み物を注文をしつつ、リリーとサイの会話を何気に聞いている。


『そうですか……実はまだガオ様には説明をしていなくてですね』


「ありゃ、んーもうーサイさんはガー様には甘いんだから! こういうのは早く言った方がいいと思うんですけど」


『そうなのですが……ガオ様にはお辛い事が続きましたから……もう少し後でもいいかなと……』


「ほんとサイさんはガー様の事が大好きで甘々ですよね……いいです私が言います」


 給仕ロボからアイスコーヒーを貰った俺は、それを飲みながらボーっと何も考えずにいる。


「ガー様!」


「なんだリリー」


 いつ飲んでもこのアイスコーヒーは同じ味だな……俺とサイの船の戦闘指揮室で飲むアイスコーヒーだけは別格の味なんだよな……同じ味のはずなのによ……。


「ガー様の愛機で旧銀河帝国の遺産である巡洋艦を購入できる段取りがつきました、いかがなさいますか? 買いにいきますか? それとも私やサイさんと一緒に、自堕落でエロエロな毎日をこのお屋敷で過ごしますか?」



 ぶっー! リリーの言った言葉を理解した瞬間に、アイスコーヒーを吹き出してしまった。



「はぁ? 俺とサイの相棒であったあの船が買える? そんな訳……あるのか?」


 俺はリリーのあまりに非現実的な話を聞いて、横に立って居るアンドロイドのサイに確認をしてみた。


 サイは俺に対して揶揄う事はあっても、絶対に嘘はつかないからな。


『……可能です』



 ま……じか……。



 俺はソファーの上で姿勢を正すと、リリーに向けて。


「話を続けてくれリリー」


「はぅ! ……悪ぶってない真面目なガー様はやっぱり素敵です! ……コホンッ、ガー様の愛機である巡洋艦はあの宙域で爆散をしましたが、飛び散った部品から修理をされたのです」


「まじか……でもそれならなんで俺は退役に?」


『修理とは言っても、私とはパスの繋がっていない船なんですよガオ様』


「サイさんの言う通りで、まぁ、なぜ修理と言われているのかは私もよく判らないのですが、複製をしたと言った方が正しい気がします、すでに皇国軍には10隻程納入されているみたいですので」



 複製? あ、もしかしてあの時後ろに来ていた補給艦の?



「あの遺産である補給艦とその適合者がやったのか?」


「そうですけど……えっとガー様って銀河ニュースとかは見てなさげ?」


『世間の情報はゼロだと思って対応してあげて下さい』


 何故二人揃って俺を駄目な子みたいな目で見てくるんだよ。


 サイは明確に目と言う物は無く、平たいサングラスっぽい見た目のセンサーなんだが……なんとなくそんな目で見ている気がした。


「あの方は皇国の救世主として英雄と呼ばれています、まぁその事は置いておくとして、問題は『シマ型巡洋艦』と呼ばれているあの船を、複製する事が出来るのがあの方だけという事です」


「それは……」


 あいつには後ろで引っ込んでろとか色々言った記憶がある……これは駄目か……。


『そんな何かを諦めた目をしたガオ様は嫌です……』


 サイがボソッっと何かをつぶや……小さな音声を出した。


「何か言ったか?」



『……諦めるのですか? ガオ様の速さへの想いはその程度で? いいじゃないですか、まずは服従ポーズをしましょう、勿論私達も一緒にやります、そして最大限の金銭も渡しましょう、あのクラスの巡洋艦だとお金は足りないでしょうが、開き直って借金をあの方にすればよろしい、恥も外聞も気にする程度の想いでは無いのでしょう?』


 サイは俺にそう発破をかけてくる。


 ったくこいつは一々俺の琴線に触れる言葉を吐いてきやがる……さすが俺の相棒だぜ!

 リリーの『え、私も服従ポーズやるんですか?』とかいう呟きは無視だ。


 もう一度あの船が手に入るなら自分の腹を相手に見せて寝転ぶ、獣人族にとっての服従のポーズくらいやってやるさ! 金? そんなのまた稼げばいい!



「おう! 上等じゃねーかサイソク! 俺の速さへの想いをお前にも見せてやらぁ! そのエイユウとやらに連絡しやがれ!」


『はい……さすがガオ様です! リリーさんお願いしますね』


「了解でーす」


 そうかまた俺は飛べるのか……来るべき未来に思いを馳せているとリリーとサイの会話が聞こえてくる。


「連絡中です少々お待ち下さい、たぶんガー様は英雄を名前だと勘違いしてますよね」


『少しお馬鹿な所が可愛いのですよリリーさん』



 失敬な……そっか名前じゃなかったのか、なんて名前だっけあのひょろっこい人間は……。



「しかもサイさんの正式な名前が『サイソク』って……確か何処かの辺境の言葉でしたっけ?」


『はい、最速を意味するそうですよ』


 そうなんだよ、まだタイヤをメインに使っているバイク漫画ってのを銀河ネットで見つけてなぁ……。

 峠を走るあいつらの速さへの熱い想いに感化されて夢中で読んだもんだよ。


 中に出て来るセリフをつい名前に使っちまうくらいにはな、はは。



「でもサイさんって女性型人工知能ですよね? 女の子につける名前じゃないと思うんですよねぇ」


『ガオ様に頂いた名前ですから私は『サイソク』で良いのですよリリーさん』



 ……ん?



 いやいやいや……まてまてまて。


「え? サイって女性型だったの? だってショートカットで切れ長の目でイケメンな……あれ?」


 義体を作る前の巡洋艦で空間投影モニターに映る姿は上半身だったし、初めて銀河ネットで会った時は……綺麗でイケメンな男なんだと思ってた……やべぇ……。



「うわ……相棒の性別を知らないとか……ないわぁ……ガー様それは無いわぁ……」


『……』


 やばいサイが一言も話さない。


「えっとすまんサイ! でもお前が俺の最高の相棒である事には変わりは無いから!」


 サイに対して全力で謝っていく俺。



『一ついう事を聞いてくれたら許します』


「よしきた、なんでも言ってくれ!」


 俺は胸をドンッっと叩いて、まかせろとばかりにサイを促す。


『では、巡洋艦を買う為に恐らく借金をする必要がありますが、その借金の中に私の義体制作の依頼料も込みでお願いする事に同意して下さい』



 義体? ああ! もっと強い義体が欲しいのか!



「いいぞ! サイの望む物を追加するといい、もっと強くなって俺と一緒に戦ってくれサイソク!」


 今よりも強くなりたいだなんてさすが俺の相棒だな。


「たぶんガー様はすごい勘違いをしている気がしてなりません、サイさんそれって、あの英雄殿の隣にいるエルフの様な――」

『シーー、リリー、まだ先の話なので』


 リリーとサイが小さな声でこそこそと会話をしているが、俺はサイソクの新しい義体改造案を考えていく、やっぱドリルとかミサイル追加か?



「判りました、乙女の嗜みとして秘密は守ります、それならその時が来るまでは、私もガー様とは我慢しますね」


『それは! ……さすがにそこまでは……気持ちは嬉しいですけど』


「いいんですよ、元々取り巻きの中では下っ端で何も無かったですし、肉欲の日々はいつか来る借金返済後のご褒美って事で」


『……有難うございますリリーさん』



 いやいや目からビームも捨てがたいよな? 足に出し入れ出来るジェットを仕込むのも……夢が広がるな、サイの最強物語ってか、ふへへへ。



「あ、連絡きましたよガー様! サイさん! えーと向こうの都合の付く時間が書いてありますね」


 そう言って空間投影モニターを見せてくれるリリーに釣られて、サイの改造構想を一旦中止する。


 そして空間投影モニターを見てみるが……ふむ、なんかすごい忙しいんだなこいつ……ほとんど空きがねぇ。


「じゃぁこの日に」


 俺が空いている時間を指さすと。


「了解です、では返事を出しておきますね、皆で最高の服従ポーズを見せてやりましょう!」


『ええ、どうせならおへその見える服も買っておきましょうか』


 え? それはさすがにやりすぎじゃね? てーかそれだと求愛のポーズに思われちまう事もあるんだが……。



 ……。



 ……。



 ――



 ――



「よぉ、また会えたな俺の翼」


 見た目は随分と変わっちまったが、俺とサイの愛機である巡洋艦にもう一度会う事が出来た。


 今は諸々の手続きをリリーがしてくれている所で、この宇宙ステーションで各種検査を受けたらいよいよ俺の物になる船を見る。


『そろそろ名前を決めて下さいガオ様』


 いつもの様にメカメカしいアンドロイドのサイが俺に語りかけてくる。


「そうは言ってもなぁ……」


 急に船の名前と言われてもな……軍隊に居た頃は番号が正式な物だったが、今の俺は民間人だからな、通称である名前が必要らしいんだ。



 むーん……よし!



「決めた! こいつは『テッペン』だ! サイにつけようとした名前のもう一つの候補だった名前だ!」


『……了解しました、リリー』


「はい、『テッペン』号で登録します……サイソクでよかったですねサイさん……もしかしたらテツさんと呼んでいた未来もあったかも……」


『止めて下さいリリー! ……その場合はペンさんだったと思います、これならセーフ?』


「アウトですよサイさん」



 むむ? なんだろうか、こいつらの会話がまるで俺の命名センスが……。



「しっかし検査にすっごい時間かかりますね」


 リリーが話を変えてそんな事を言う。


『随分と改造して貰いましたからね……』


 軍船そのままを売る訳にいかないというて事で、色々と改造する事になったからな……。


 まぁその改造提案の話の中で、あのシマってガキんちょと結構気があっちまったから、ちょいとやり過ぎた気がしないでもない。


「主砲が無くなりミサイルの貯蔵庫も削ったし、新たな物は設計出来ないと言われたから既存の物でどうにかこうにか可能な限り速さと強さを求めたからな!」


「だからって巡洋艦の推進装置を倍にするとか馬鹿でしょう……船員居住区も可能な限り削ったせいで食堂すら無いんですよ?」


 元々の船の時だって食堂なんて使った事ねーよ俺は、取り巻き達が使ってただけじゃんかよ。


『なんとかあの攻撃1速さ8防御1のアホな提案から、攻撃3速さ4防御3にまで変えさせましたからね……』


「んだよ、戦艦の推進装置を巡洋艦に乗せるのは諦めたんだからもういいじゃねーか、あーあ、あれだったら宇宙最速も夢じゃなかったのによぉ……」


「早すぎて船体が何もせずとも崩壊する可能性のある設計は、正気とは思えなかったです……」


『英雄殿とガオ様は混ぜたら危険です、覚えておきましょう』


 勝手にあんなのと混ぜるなよ気持ち悪い……まぁ……ちゃんと話してみたらおもしれ―奴だったけどよ。



「んでリリー、会社の登録は済んだのか?」


「あ、はいっ業務内容は賞金稼ぎと運送屋の両方で登録しておきました、キャッチコピーは『銀河一速くて銀河一強い船が何でも運びます何でも倒します』って感じで宣伝を出しておきました……でも本当に【銀河SAISOKU商会】でいいんですか?」


「勿論だ! カッケーだろ?」


 キャッチコピーもいいな! リリーはセンスいいじゃねーか! そんなカッケー宣伝なら仕事もバンバン来るよな。


『小さな子供が書くお絵描きみたいな内容ですね……しかも私の名前を会社に入れるとか……もうもう……可愛い人なんだから』


「……ガー様はそんな事考えて無さそうですけどねぇ……」



 サイの名前? ……うぉ! ほんとだ!



 辺境の言葉の『最速』を入れたつもりなんだが……俺の野生の勘がこれは黙っておけと言っている……よし話を変えよう。


「宣伝文句も最高だなリリー、超燃える内容だ、早く稼いで借金返さないとなー」


 俺が借金の話を出すと。


「そうですねぇ、借金返し終わるまでは私はただの従業員でいますね、万が一ガー様に先立たれても逃げられる様に」


 リリーは遠くを見る様な目でそんな事を言い。


『あの遺産であるエルフが逃がしてくれると思っているんですかリリー?』


 サイは何かに恐怖した様な雰囲気を醸し出している。


「いいじゃねーか、借金がある間はあいつらも俺達を支援せざるを得ないだろ? メンテとか気軽に頼もうぜ」


「ガー様のその能天気さはたまに見習いたく……なりませんね」


『少しお馬鹿な所がガオ様の可愛い所なのですリリー』



 失礼な。



「しかしなんだな、借金額が多すぎてサイの義体の件が後回しにされたのは……済まなかったな、お前ももっと強い義体にしたかっただろうによ……今回の巡洋艦の設計では工作室が小さくなっちまったからメンテはともかく新規製造も難しいしよ……」


 せめて初めて義体を作った時に、腕にブレードを仕込んだり腹にビーム砲を仕込んでおけば。


 それか最低でも肩にミサイルくらいは装備させておけば良かったか……気が利かない主人ですまんなサイソク……。


『なんでしょうか、ガオ様はきっと下らない事を考えているんだろうなぁ、という事が判ってしまう私が居ます』


「私も判ります、たぶん方向性がまったく違うんですよね、ガー様は人生の方向音痴ですから」


「なんだそりゃ? 俺が――」


 ピーッと何か警告音の様な物が響き渡る。


「あ、検査終わったみたいですね、サイさん巡洋艦とパス繋いでいいみたいですよ」


『はい……ああ……私はまた……飛べるのですね……』


 目の前でサイが……震えても居ないし涙を流しても居ない、メカメカしいアンドロイドだしな。


 だがこいつの魂が喜びで震えて涙を流している事が俺には理解出来る……良かったなサイ……。



「いくぞ二人共」


『はいガオ様』

「了解ですガー様」


 巡洋艦に乗り込むべく控室から外に出てタラップを歩いていく、入口はもうすぐそこだ。



 ……。



 ……。



 ――



 ――



 懐かしい……改造のせいか通路や途中の構造はかなり変わってしまっていたが、戦闘指揮室は昔のままだ……。


 俺は震える手で指揮官席を撫でると……。


「よし! まずは船体各部のチェックだ、サイ!」

『各種チェックプログラムを走らせています、リリー!』

「はいはい、お客用スペースや倉庫のチェック行ってきまーす!」


 リリーが戦闘指揮室を出ていった。


 あいつが会社の事務処理資格や、宇宙船の上級船員資格なんかを持っているのには驚いたっけか。

 てーか、リリーの奴ってば、すげぇ優秀じゃね?


 俺はサイが側に居る事を前提とした条件で、なんとか中級船員資格を取れたってのに……。


 狭い戦闘指揮室だ、今は俺とサイだけでなくリリーの椅子も増えたが、この狭い部屋が何故だが非常に懐かしくて涙が出そうになる。


 俺は指揮官席に座る、そして俺の隣にサイが座り、空間投影モニターが乱舞するいつもの光景が展開される……すごく懐かしい気がしてしまう。



 その空間投影モニターには、リリーが手際よく各所をチェックしていっている姿が映しだされている。


 昔は手を抜いてたのか……いや、他の取り巻き達から苛めに合わない様に目立たない行動をしてたのかもな。


 俺はなんであんな最低な取り巻きを連れていたんだろうな……最近になってそういう事をすごく考える様になった……。



『ガオ様、チェックプログラム終了しました、異常ありません』


「そうか、ではまず、銀河最速記録を出しにいこうか!」


『は?』


「最速でぶっちぎって銀河を横断して、そのタイムを世界に刻むんだよ!」


『えーと、まず最初の仕事なのですが、この星系に行きこれを運んで貰います、その次はここあたりの星系で海賊を潰す仕事になります、そしてその後ですが』


 サイが俺を無視して仕事の話を始める。


「おいまてなんで無視するんだ? というか仕事多すぎね? まだ広告出したばっかりだろ? やっぱあのカッッケーキャッチフレーズのおかげか?」


『借金に利息を付けない代わりに、銀河中の生の情報を報告する事等を求められています、しばらくは英雄殿の下請け仕事になりますね、頑張りましょうガオ様』



 はぁ?



「え? 下請け? なんだよそれ……俺の銀河最速伝説はいつ始めたら……」


『借金を返し終わったら少しは自由に出来ますよ』


「借金って俺の預金全額に年金付き勲章全部渡して、尚且つ本星に持ってたお屋敷を渡しても、尚9割以上残ってたあれだよな……?」


『元軍艦の、しかも特注で改造をした物ですからね、あれでも他に売るよりは、かなりお安くしてくれたと思いますよ』


「まじか……まさかこの俺が下請け仕事から……宇宙海賊や適応体一杯倒したら返せるか?」


『戦闘に使うビームの触媒カートリッジやら燃料やらバリア装置のメンテやらで、お金がかかる事を理解していますか? 軍に居た頃は経費なんて全て支給されていましたが……これからは全部自腹になるんですから……経費削減です! 必要の無い時は一番リーズナブルな速度で航行しますのでよろしくお願いします』



 あうち……まじかよ……。



「世知辛ぇ……ちょっぱやで現実から逃げ出したくなってきたぜ……」


「ただいま戻りましたー、あれ? ガー様どうしたんですか椅子の背もたれ倒して……眠いんです?」


『現実に打ちのめされたお馬鹿な子供が居るだけです、まぁ……そこが可愛いんですけど』


「へ? ……よく判んないですけど、そろそろ行きましょうか、宇宙ステーションの逗留費も馬鹿になりませんしねー」



 リリーの何気ない一言が俺の胸に刺さる。



「ぐぁ……そんな事にも金がかかるのか……」


『当たり前です、まぁお金の事は私とリリーが管理しますから、ガオ様はいつもの様に偉そうに指示を出してくれればいいんですよ、はい、出発しましょう、リリー?』


「はいなサイさん、……管制室こちらシマ型巡洋艦改『テッペン』号です、出港許可を願います、はい、はい、ありがとうございます、ガー様いけますよー」


 リリーの呼び声に、むくりと背もたれを起こした俺、今はまず動かないといけないだろう。



 ならは俺は前に進むのみだ!



「巡洋艦テッペン号、発進せよ!」


『了解、出力2%、微速前進、進路クリア』

「管制室からも特に問題は無いそうです」



 ゆっくりと宇宙ステーションから出て行く俺の船、またこの宇宙を飛べるのならば細かい事はどうでもいいな。



 サイ! リリー! 俺について来い! 銀河最速を見せてやるからな!













『だから無駄なスピードは今は出しませんと言いましたよね?』

「この船の最高速にするだけで経費が20倍以上になりますもんねぇ……」


「世知辛いな! くそ!」


 早くお金を一杯稼ごうと思った俺だった。













 ◇◇◇


 後書き

 お読みいただき、ありがとうございます。


 実は狼獣人のガオガオは公爵の関係者に催眠暗示を受けていました。


 あまりに酷い暗示内容だとサイソクさんに気付かれるので、口調が悪くなる様な暗示と、取り巻き達の事をおかしく思わずその言動を信用する、という暗示でした。


 内火艇の買取も公爵一派の暗示によります、操り人形という程では無いですが思考を誘導されていたのですね


 残っていたリリーさんだけは公爵と関係の無い人だったりします


 それとガオガオの身体強化はアリアード皇国の上級技術な方の処置なので常識的な強さに収まります


 シマ? あれはほら……サヨさんが心配性で色々はっちゃけたので……皇国軍施設の壁くらいなら腕が壁を突き抜けます。


 空中を自由に飛び回れるエアバイクもエアカーも、補助や保険や燃料の節約時の為にと、まだタイヤが残っています。


 ◇◇◇

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る