#13 人の運命(2)
キケロは、老いをみじめにさせる四つ目の原因として「死の接近」を挙げている。
多くの人の心で、(エジプトの祝祭の棺のように)終末の影がつねに存在し、人生の光をすべて覆い隠している。しかし、私たちは死をそういうものとして考えるべきだろうか。
シェリーの美しい文章によれば、ライフ(生命・人生)とは、
「色とりどりのガラスでできたドームのようだ
永遠の白い輝きを汚し、
死がそれを踏みにじって粉々にするまで」
この言葉は、少なくとも私には「二つの誤り」を含んでいると思われる。
命・人生とは、永遠の白い輝きを汚すものではない。
死とは、命や人生を踏みにじって粉々にするとは限らない。
コールリッジは「人間は三つの宝物を持っている」と語っている。
「三つの宝物、それは愛と光と、
幼子の呼吸のように穏やかな思考だ。
それから、昼と夜よりも確かな三人の友人がいる。
それは自分自身と、創造主と、死の天使だ」
死とは、「すべての終わりであり、多くの人の救済であり、さまざまな人たちの願いである。その人が召される前に来た誰よりも、ふさわしい人(死)はいない」[3]
二度と帰ってこない「未知の国への旅」は、痛みや苦しみに満ちていると思われがちだ。しかし、そうではない。死はしばしば穏やかで、ほとんど痛みを伴わない。
神学者ベーダは、晩年に『ヨハネによる福音書』をアングロサクソン語に翻訳していた。臨終の日の朝、衰弱したベーダを見た書記がこう言った。
「あと一章ですが、話すのは難しいようですね」
「簡単だ。ペンを取って、できるだけ速く書いてくれ」
最後の章が終わり、書記が「終わりました」と告げると、ベーダは「汝は真理を語った。すべては成し遂げられた(Consummatum est)」と言った。
その後、わずかな財産を兄弟に分けてすべてを済ませると、ベーダはいつも祈っていた場所の向かいに自分を置くように頼み、最後に「父と子と聖霊に栄光あれ」と言い残して、息を引き取った。
(※)ベーダ(Bede):イギリスの神学者。幅広い学識を持ち、資料に基づいた「イギリス教会史」をはじめ多くの著作を残した。
(※)すべては成し遂げられた(Consummatum est):十字架上のキリストの最期の言葉。
ゲーテの場合は、執筆の準備を整えたばかりで、春の訪れを喜びながら、これといった苦しみを見せることなく他界した。
モーツァルトの死については、「未完の『レクイエム』の楽譜をベッドの上に置き、最後の力を振り絞って各楽器の使い方を口伝えしようとしながら、妻と弟子のジュースマイヤーに見守られながら息を引き取った」と伝えられている。
(※)モーツァルトの遺作『レクイエム』:のちに、ジュースマイヤーの補筆で完成するのだが、この時の指示が大きく反映されていると言われる。
プラトンは執筆中に、ルカンは「ファルサルスの戦い」に関する著書の一部を朗読しながら、ブレイクは歌いながら、ワーグナーは妻の肩に頭を乗せて眠りながら、それぞれこの世を去った。
多くの人が、眠るように亡くなっている。
さまざまな高名な医学者たちが、「死にゆく者は落胆や後悔をほとんど見せない」と驚きを表明している。また、例えば戦闘など暴力によって命を落とした者でさえ、ほとんど苦しみを感じない可能性がある。
*
人の運命——、その後はどうなるのだろうか。
今のところ、主要な見解が二つある。
魂の不滅を信じている人がいるが、個人の魂はどうだろう。「私たちの生命が子孫に受け継がれる」ことは、聖パウロの例え話「小麦一粒は翌年の苗に引き継がれる」からしても自然な推論だと思う。
幸福が存在する間、自分の分け前に執着しすぎるのは利己的だ。
魂は不滅だと認めるとしよう。だが、「未来の存在状態」では記憶の連続性が途切れて、人は「現在の人生(現世)」を覚えていないことになる。この観点から見ると、記憶の連続性はアイデンティティの重要性に関わるものではないだろうか。
一般論として、「魂は肉体から切り離されても意識のアイデンティティを保ち、眠りから覚めるのと同じように死から目覚める」状態でなければ、(魂は不滅だと)認められないだろう。
「目覚めていても眠っていても、目に見えない何百万もの霊的な存在が地球を歩いている」
彼らは宇宙のどこか、別の場所に存在している。
星を眺めるとき、私たちの目にはまだ見えなくても、実際にそれを見ているのだ。
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