#12 進化への期待(3)

 繰り返しになるが、実際のについて分かる範囲で、「ある程度の進歩があった」という事実は確かだろう。


 たとえば中世では、宮廷以外に洗練された文化はほとんどなく、宮廷でさえ常に洗練されていたわけではない。イギリス、フランス、ドイツの城での生活は荒っぽく、ほとんど野蛮人と変わらなかった。


 ミスター・ガルトンの意見によると、私たちが「オーストラリアの原住民よりイギリス人の方が優れている」と考えているのと同じくらい、ギリシャ人全体の意見として「自分たち(ギリシャ人)の方が優れている」と考えているそうだが、私はそれを疑うつもりはない。

 しかし、たとえそうであったとしても、現在の文明はかつてのギリシャ文明以上に広く普及しているのだから、一般的なヨーロッパ文明の水準がはるかに高いことは間違いない。


 マコーリーの言葉を借りれば、「わが国のすべての栄光の中で最も明るく、最も純粋で、価値ある真実とフィクションに満ちた不朽の名作。すべての詩人、すべての哲学者の中に君臨する作品。商業よりも広く、武器よりも強力な影響を及ぼした文学」へのアクセスがより容易になったおかげだ。


 自分の心(マインド)を最大限に活用している人はほとんどいない。

 身体は十数年で成長が止まるが、心はその気になれば、命がある限り成長し続けることができる。


 未来への進歩は、単なる物質的な発見だけにとどまらないだろう。

 人類は、より高い精神力(メンタル)への道を歩んでいると感じている。

 現在、人間の思考の範囲を超えていると思われる問題が解決され、さらなる進歩への道が開かれると私は考えている。

 さらにいうと、単に物質的なことや精神的なことにとどまらず、道徳的(モラル)な進歩にも期待したい。


 イギリスの美しさ、都市の大きさ、商業の規模、国の豊かさ、帝国の広大さに誇りを感じるのは自然なことだ。

 しかし、とは、支配権の範囲や土壌の肥沃さ、自然の美しさではなく、むしろ国民のモラルと卓越した知性にある。


 金持ちであれ、貧乏人であれ、ありのままの自分自身をできる限り高めた者がどれほどいるだろうか。もしベストを尽くせば、シェイクスピアが『ハムレット』で語ったように——、


「人間とはなんという傑作だろう! 崇高な理性! 無限とも言える肉体の働き! 形も動きも驚くほど的確でなんと表現力豊かなことか!」


 この高い理想に到達したといえる人は、今のところ本当に少ない。


 ヒンズー教では、動物は死後、別の姿で生まれ変わるという説がある。良い行いをしたものは高い身分で、悪い行いをしたものは低い身分で生きることになる。この教訓を理解すれば、高潔な人生を送るための強力な動機付けになると考えられている。

 この説が、将来の人生(来世)に当てはまるかどうかはともかく、私たちの現在の人生(現世)については確実に当てはまる。

 一日ベストを尽くせば、翌朝には人生の高みへ昇ることができる。衝動や誘惑に負ければ、低俗な本性へ向かって確実に一歩を踏み出すことになる。


 例外もあるにせよ、全体として、とは一般的に、国民が共感して共に働いた時に起こる。これは人間の一体性を示す興味深い例で、天才ではない私たちを勇気づける。

 進歩とは、数人の偉人の努力だけのものではないし、千人の小人の努力でもなければ、一人の天才によるものでもない。国民的な努力によるものだ。


 そうだ、そうだとも、考えてみよう。


「ああ! いつの日か

 すべての人の善が各々のルールとなり、

 大地を横切る一筋の光のように

 海を渡る輝きのように

 黄金の年のすべての光輪の中に

 普遍的な平和が宿るだろう」[6]


 人生は謎に包まれている。世界は無限の宇宙の中の小さな一粒で、個人の生涯どころか全人類の期間でさえ、永遠の中の一瞬に過ぎない。

 私たちは、その起源を想像することも結末を予見することもできない。


 解き明かす糸口となるような研究はまだない。

 とはいえ、人類の知識を増やすことは偉大な啓示に向かう小さな一歩であると考えることもできる。


 進歩は、もっと遅いかもしれないし、もっと速いかもしれない。

 私たちではなく、他の人に来るかもしれない。

 進歩に値する努力をしなければ、私たちのところには来ないだろう。

 しかし、それは必ずやってくる。


「殺してはならないものが一つある。

 火も鉄も脅かすことのできない思考だ」[7]


 人間の未来は希望に満ちている。

 その運命の限界を誰が予見できるだろうか。



【原作の脚注】


[1] Lubbock. Fifty Years of Science.

[2] The Senses of Animals.

[3] Lubbock. Fifty Years of Science.

[4] Ants, Bees, and Wasps.

[5] Lubbock. The Senses of Animals.

[6] Tennyson.

[7] Swinburne.

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