#12 進化への期待(2)

 かつて、アルキメデスは「もし、立つ場所があれば地球を動かすことができるだろう」と語った。


 ひとつの真理が別の真理につながり、それぞれの発見が別の発見を可能にし、さらに、より高い発見を可能にする。


 人類は、自然の驚異的な範囲と複雑さに気づき始めたばかりだ。

 私は別の本で、多くの動物が持っているある感覚器官に言及して、特別な注意を促したことがある。[2]


 今後の研究によって、これらの興味深い構造が解明されることを期待できる理由は十分にある。顕微鏡の改良、新しい試薬、機械的な装置の使用で、多くの発見が促されるのは間違いない。


 しかし、物質を構成する「究極の原子」は非常に微小で、これらの問題の最終的な解決を予想するのは難しい。


 ヨハン・ロシュミットの計算によると、物質の「究極の原子」は最大でも直径1/50000000インチだという。後にジョージ・ストーニーやウィリアム・トムソンも確認している。

 これでは、顕微鏡の改良で「原子の知識」が大きく進む可能性は期待できないようだ。

 現在の顕微鏡では、1/90000インチ先にあるガラスの上に線が引かれているのを見ることができるが、光の性質のために、直径1/100000インチよりはるかに小さい物体を見ることは到底できない。

 今後、顕微鏡はさらに改良されるだろう。だが、私たちが「見る」限界は、光学機器の不完全さのせいではなく、が問題なのだ。


(※)1インチ=2.5センチ。


 直径1/80000インチのアルブミン(卵白)の粒子には、1億2500万個以上の分子が含まれていると計算されている。もっと単純な化合物では、その数はさらに多い。たとえば、水は80億個を超える。

 現在よりはるかに強力な顕微鏡を作ったとしても、物質の「究極の組織」をじかに観察して知見を得ることはできない。

 最先端の顕微鏡ではっきりと見ることのできる有機物の最小サイズでさえ、実はさらに複雑で、何百万もの分子で構成されているかもしれない。有機組織は、ほとんど無限の構造的特徴を秘めている可能性があるが、現時点ではどんな方法でも観測することはできない。[3]


 また、動物は人間の可聴域を超えた音を聞いていることが判明しており、人間の目には見えない紫外線を知覚していることもわかっている。[4]


 人間が知覚できるすべての光線は、私たちには「色」として見えている。

 だが、紫外線を知覚できる動物は、赤、黄、緑、紫などの色とは異なる(人間には想像もできない)が見えているはずだ。

 また、これらの動物にとっての白色光は、追加の色を含むという観点から、人間が見ている白色光と異なるかどうかという疑問も生じる。


 これらの考察は、「人間が感じている世界」と「他の動物が感じている世界」がどれほど違っているか、ということを考えさせずにはいられない。


 音とは、空気の振動が耳の鼓膜に当たったときに生じる感覚だ。

 振動数が少ないときは深い重低音で、振動数が増えると音はだんだん小さくなり、毎秒4万回に達すると聞こえなくなる。


 光は、光の波長が目に当たったときに生じる効果だ。

 毎秒4億回のエーテル振動(ether strike)が網膜に当たると赤色になり、その数が増えるにつれて、オレンジ、黄色、緑、青、紫へと色が変化していく。だが、人間は毎秒4万〜4億回の振動の間を知覚できる感覚器官を持っていない。


 人間の限界——知覚外の領域に、未知の感覚が存在するかもしれない。


 私たちは五感を持っていて、それ以外の感覚は存在しないと思い込んでいるが、人間の限界(限られた狭い世界)で無限を測ることができないのは明らかだ。


 この問題を反対側から見てみると、動物には複雑な感覚器官があり、豊かな神経回路を持っているが、その機能を人間に説明することはできない。音を耳ではなく目で見ているかもしれないし、人間の五感とは異なる50感覚を持っているかもしれない。


 また、人間の感覚の範囲内にさえ、聞こえない音や見えない色など、現在の人間には捉えることのできない感覚や概念が無限に存在するかもしれない。


 これらをはじめ、ほかにも多くの謎が残されている。


 私たちを取り巻く身近な世界は、他の動物とはまるで違う場所かもしれない。動物たちの世界は、人間には聞こえない音楽、見えない色……、想像もつかない感覚に満ちているかもしれない。


 鳥や動物の剥製をガラスケースに入れたり、昆虫を標本箱に並べたり、植物を乾燥させて引き出しに仕舞ったりするのは、単に研究のための作業であり補助的なものにすぎない。

 動物たちの習性を観察して、相互関係を理解し、本能と知性を研究し、自然界への適応と力関係を確かめ、動物たちが世界をどう見ているかを理解する。それこそが自然科学の面白さの真髄だと私は思う。現時点では、まったく想像できない感覚や知覚への手がかりを与えてくれるかもしれない。[5]


 この観点から見ると、進歩の可能性はほぼ無限にあるように思える。


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