#4 恋愛(3)

 モンテーニュは「恋愛結婚して後悔しない者はほとんどいない」と断言している。ジョンソン博士も「一般的に、結婚は大法官に取り決められた方が幸せになれる」と主張しているが、どちらも良い判断材料とは思えない。


 ランスロットが、アストラットの不幸な乙女に言ったように、「私は愛を束縛されることを好まない。愛は心から生じるものであって束縛されるものではない」からだ。[9]


 愛は、距離と要素を無視する。セストスとアビドスは海で分断されているが、「愛はその弓の矢によって両者を結んだ」のである。[10]



(※)セストス(Sestos):トラキアの古代都市。

(※)アビドス(Abydos):エジプトの都市。古王国時代の聖地。



 愛はどこでも幸せになれる。バイロンは次のように願った。


「ああ、砂漠が私の住まいだったら

 ひとつの公正な魂が私のミニスターだったら

 人類の競争をすべて忘れて

 誰も憎まず、彼女だけを愛する」



(※)ミニスター(minister):大臣、閣僚、聖職者



 そして、多くの人がこう感じただろう。


「ああ、愛よ! あなたと何時間過ごしただろう。パームとサザンパインの地で、椰子の木とオレンジの花、オリーブとアロエ、トウモロコシとブドウの地で……」


 空間について言えることは、時間についても同様である。


「平和の時、愛は羊飼いのを調律する

 戦争の時、愛は戦士の馬に乗る

 広間では、華やかな衣装を身にまとい

 村では、緑の中で踊る

 愛が宮廷を、野営地を、茂みを支配する

 人々は下界で、聖人は天界で

 愛は天国であり、天国は愛なのだから」[11]



(※)リード(reed):吹奏楽器のリード、葦(パスカルの考える葦で有名)、転じて葦のように弱々しい人



 時には、いくつかの東方民族で、宗教と哲学が結びついて愛が抑圧されていても、トルコの格言で「すべての女性は完璧である。特にあなたを愛する女性は」と言われるように、真理は民衆の口を通して再びあらわれる。


 あるフランス人女性が、ポーランドの格言を引用して「女は、ハーネスに繋がれた牛のペアよりも、髪一本で多くを描く」とアブド・アルカーディルに言った

ところ、彼は笑顔で「髪は必要ない、女は運命のように強力だ」と答えた。



(※)アブド・アルカーディル:アルジェリア民族運動の父。



 しかし、私たちは「愛」を、支配する力ではなく「幸福の天使」として考えたい。つまり、「心が通い合う」家庭の喜びについてだ。


「それは秘密の共感、

 銀の結び目、絹のネクタイ、

 ハートと心を、精神マインドと精神を、

 肉体ボディの中とソウルの中へ結びつけることができる」[12]


 ベーコンが友人について語った言葉は、妻に言い換えても当てはまる。


「友人に喜びを伝える人はさらに多く喜び、友人に悲しみを伝える人はさらに少なく悲しむ」


 さあ、愛する人のそばへ行ってみよう。すると——


「花や木や地面に、何か新しいことや奇妙なことが起きている気がする。周囲のあらゆるものに、ほんの少しだが理解しがたい変化が起きている」[13]


 ホメロスが運命について述べたことを、愛に適用することができるのではないだろうか。


「彼女の足は柔らかい、その歩みは地面ではなく、人の頭上に置かれるからだ」


 愛と理性は、人間の生命を分割する。

 私たちは、それぞれにふさわしいものを与えなければならない。

 もし、「愛のない理性」で美徳に達することが不可能なら、「理性のない愛」で美徳に達することもできない。


 メラニピデスは愛について、「人間の心にの甘い収穫を蒔き、もっとも甘くてもっとも美しいものを混ぜ合わせる」と語っている。


 プラトンの『饗宴(Symposium)』におけるパイドロスのように、詩人たちの間に愛の崇拝者がいないことに、今さら文句を言う人はいないだろう。

 それどころか、愛は詩人たちに多くの甘いインスピレーションをもたらした。

 ミルトンの『楽園』の描写ほど高貴で美しいものはないだろう。


「あなたと話していると、すべての時間、すべての季節、それらの変化をすべて忘れてしまう。朝の吐息は甘美で、彼女の目覚めは早起きの小鳥の魅力のように甘い。この喜びの地に初めて降り立ったかのような太陽が、草木や果実、朝露に輝く花の上に東から陽光を広げ、柔らかい雨の後に肥沃な大地から香ばしい匂いが立ち上るのは心地よい。穏やかな恵みの夕暮れが到来し、それから、厳かな鳥と美しい月と、天の宝石と、星の列車とともに静かな夜が訪れる。——しかし、それらすべては、あなたがいなくては甘くないのだ」


 さらに、誰であろうと、理想的な結婚に絶望する必要はない。

 人の好みは千差万別だが、愛は愛を生み出すものだから、地味な人だとしても、愛に値する人ならば、幸せな結婚を望むことができる。


 シェイクスピアは、数千人を代弁して次のように語っている。


「彼女は私のものだ。砂は真珠に、水は甘露に、岩は純金になれば、私は20の海のような宝石を所有するのと同じくらい豊かだ」


 真実の愛は、理不尽なものでも厳しいものでもない。


「あなたの素朴な胸と静かな精神の子供部屋から、戦争と武器へと飛び立つ私を、薄情だと言わないでくれ。確かに!私は今、新しい恋人を追いかけ、戦場で最初の敵を、より強い信念で剣と馬と盾を抱きしめる。しかし、この不実は、あなたも愛するようになるだろう。私はあなたを愛し切れなかった、親愛なるものよ、私はさらなる名誉を愛さなかった」[14]


 それなのに、


「残念だ! 愛する心の間の不和は、どれほど軽い原因で動くのだろう! 空しい世界が試した心と、悲しみがより密接に結びついた心は、波が荒れ狂うときは嵐に耐えていたのに、晴れたときに落ちていく、天が静寂に包まれたときに海に沈んだ船のように」[15]


 愛は壊れやすい。

 だから、どんな小さな軋みでも危険にさらしてはいけない。


「リュートの中の小さな裂け目は、やがて音を奏でなくなり、徐々に広がってすべてを沈黙させる」[16]


 愛はデリケートで、「愛は軋み(jar)と苛立ち(fret)で傷つく」と言われる。

 バイオリンを乱暴に扱っても調子を保っているように、「冷やされたり叩かれたりしても愛が生き続ける」ようにと期待したい。

 しかし、愛を生かし続けるためにする行いは、なんと楽しいことだろう。


「小さな、名もなき、記憶に残らない、優しさと愛の行為」[17]



(※)jar:軋み、衝突、振動

(※)fret:苛立ち、心労、弦楽器の指板についている突起



 ボンディは次のように語っている。


「あなたが愛して選んだ女性は、今、あなたの花嫁となった。

 天からのギフトが、あなたの信頼に委ねられた。

 情熱で盲目にならないように、妻を敬うように。

 そして妻の美徳を、あなたが見守り信頼を寄せるように。

 若いうちは妻の安らぎのために、あなたは守護者・導き手となり、

 その経験の中で、妻は安寧を見出すことができる。

 そして、甘いか苦いかが決定される。

 喜びも苦しみも、妻と分かち合うように。

 根拠なく、多すぎるものを与えるべきではない。

 強引すぎるのも良くない、人生の伴侶は犠牲者でも暴君でもない。

 このようにすれば、結婚の幸せを台無しにすることはほとんどないだろう。

 このようにすれば、あなたの妻は、夫の中で恋人を逃すことはないだろう」



 人は誰でも、真実の愛によって高められる。


「愛したせいで失った方が、まったく愛さないよりマシだ」[19]


 エリザベス・ヘイスティングス夫人について「彼女を知ることは教養である」と語ったスティールほど、女性を文章で優雅に称賛した人はいないだろう。

 しかし、女性は誰でも自分を磨くことで「自分自身のために幸福を蓄える」だけでなく、「自分が最も幸福で善良であってほしいと願う人」を育て、祝福していると感じることができる。


 愛とは——、真実の愛は、時間とともに成長し、深まっていくものだ。

 実際、結婚している夫婦はこのように生きている。


「互いに愛し合い、生きるために、一つになる」[20]


 人生に終わりはないのだから。母性愛も限界はない。


「愛は滅びると言う人は間違っている

 他のすべての情熱は、人生とともに飛び去る

 他のすべては虚無に過ぎない


 天国に、野心が宿ることはない

 欲望が、地獄の丸天井に宿ることはない

 地上の情念は地上のものだ


 彼らは生まれた場所で滅びる

 しかし、愛は不滅だ

 その聖なる炎は永遠に燃え続ける


 天からやって来て、天へ帰る

 地上では、しばしば悩める客人であり

 ある時は欺かれ、ある時は抑圧される


 それは地上で試され、清められる

 そして、天で完全な休息が得られる

 それは苦難と心遣いで、地上に種をまく

 しかし、愛の収穫期は天にある


 母親は高みで出会う

 幼い時に失った赤子と

 その時、母親は苦痛と恐れを抱いていない


 災いの日、眠れない夜

 すべての悲しみ、すべての涙のために

 喜びの代償を払わなければならないのか?」[21]



 人生が長引くにつれて、夫と妻、友人や子供への愛情は、年齢を重ねるごとに大きな慰めと喜びとなる。一方は過去を思い出させ、もう一方は未来に関心を持たせる。

 そして、子供たちの中で、私たちは再び生き続けるのだとよく言われている。



【原作の脚注】


[1] Filicaja. Translated by Leigh Hunt.

[2] Not from passion itself.

[3] Pope.

[4] Wordsworth.

[5] Browne.

[6] Malory, Morte d’ Arthur.

[7] I avail myself of Dr. Jowett’s translation.

[8] Burns.

[9] Malory, Morte d’ Arthur.

[10] Symonds.

[11] Scott.

[12] Scott.

[13] Trench.

[14] Lovelace.

[15] Moore.

[16] Tennyson.

[17] Wordsworth.

[18] Bondi. Tr. by Glassfors.

[19] Tennyson.

[20] Swinburne.

[21] Southey.

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