19世紀の異端科学者はかく語る:The Pleasures of Life 1.2

しんの(C.Clarté)

第一部 The Pleasures of Life

PREFACE 序文

 スクールやカレッジの式典に出席して、何度かスピーチしたことがある。

 このような集まりで、証書・免状または記念品・メダルを授与する幸運に恵まれた人は、これから人生を歩む生徒たちに、私たちが享受している特権と祝福と、過去の経験から得られた助言と励ましのメッセージを贈ることを期待されている。


 若いころの私は、どちらかというと憂鬱になりがちだった。


 かつての私が慰められた考え方や引用が他の人にも役に立つかもしれないと願って、本書にその一部を再掲する。それぞれの事例に固有の内容は省略し、後から思いついたことは自由に変更、追加している。


 言うまでもないが、私たちが享受できるすべての幸福の源泉に言及したわけではない。

 校正を読み返すと、いくつかの文章が独断的すぎる気がする。

 そのあたりの事情はご勘弁願いたい。


ケント州ダウン村ハイエルムスにて

一八八七年一月



***



天の目が訪れるすべての場所は、賢者にとって港であり、幸せな隠れ家である。

——シェイクスピア


ある人は、空が澄んでいて全体が明るく見えるときに、広い青空に小さな影が一点でも見えただけで不満をつぶやく。その一方で、一筋の光(神の慈悲の一筋)が夜の闇を彩るだけで感謝の愛で満たされる人もいる。


宮殿の中で、不満とプライドを抱えて、なぜ人生はこんなにつまらないのか、なぜ良いことが何もないのかと尋ねる心がある。その一方で、粗末なあばら家の中で、「疲れを知らない愛」が彼らを援助するために、どれほど豊かな幸福を準備しているかに感嘆する心がある。

——トレンチ




◇ ◇ ◇




【本作について】


隣家に引っ越してきたダーウィンに愛され、科学者でありながら銀行経営者でもある、風変わりな准男爵サー・ジョン・ラボックの著書『The Pleasures of Life』を翻訳しました。


日本では無名も同然ですが、1887年の初版から二年で13版、三年で20版増刷。

英語圏では今も発行され、愛されている名著のひとつです。


なお、准男爵(baronet)とは、イングランドが戦費調達のために創設・販売した世襲称号のこと。男爵より下で、ナイトより上の階級です。

いわゆる「金で買った爵位」「名ばかりの貴族」で、階級は貴族ではなく平民扱い。敬称はサー(Sir)で、ロード(Lord)とは呼ばれません。準男爵とも。




タイトルの「異端」は穏やかな言い方ではありませんが、本文中で「I am heretical enough(私は十分に異端だ)」と自称しているところから採用しました。


原著は1887年初版、著者のジョン・ラボック卿は1913年5月28日死没につき、著作権保護期間である「初版発行年および著者の死去から70年」以上経過しています。




【追記・2023年5月16日】

電子書籍化につき、第一部の本文を削除しました。


第二部は続刊をリリースするまで(するのかな?)カクヨムで掲載します。

後日、訳者主観の「感想・解説ページ」を投稿する予定です。


なお、電子書籍版のタイトルは、『十九世紀の異端科学者はかく語る ダーウィンの愛弟子ラボックの思想と哲学 -The Pleasures of Life-』になります。


訳者序文として、「チャールズ・ダーウィンと愛弟子ジョン・ラボックの師弟関係」を書き下ろしています。



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