帰宅

 楽しい時間は、あっという間に終わってしまう。

 名残惜しい気持ちはあるが、ずっとホテルと海を行き来していたので、疲れてしまった。


 心地の良い疲れが残ったまま帰宅。


 カリンさんの事は、安城さんが送っていくそうで、先にボクとお姉ちゃん達が降ろされたのだ。


 たぶん、親子水入らずに話せるよう、気を遣ったのだろう。


 安城さんは確かに変な事をしてくるし、おかしな一面がある。

 でも、ここぞという時の気遣いは、やはり長年藤野家に勤めた家政婦なだけはある。


 さすがであった。


「なによぉ。まだ、遊び足りないわ」

「遊ぶだけでなく、勉強もしなさい」

「はいはい」

「ちょっと、ケイ。はい、は一回でしょう」

「はーいーっ!」

「……もうっ!」


 二人は喧嘩しながら家の中に入っていく。


 ボクは家の前に立ち、その背中を眺めた。


「いつか、……もっと親子になれる日が来るのかな」


 ボクも、あの間に自然な形で入れる日がくるのだろうか。

 この家で、ボクが一番したいことは、本物以上の家族になることだった。


「レン! ボーっとしてないで、早く入りなさいよ!」

「あ、うん!」


 お姉ちゃんに呼ばれ、中に入った。


「ただいま!」


 靴を脱ぎ、棚に入れる。

 やっと帰ってきた、我が家だった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る