一つになる

 夕暮れの自室。

 すっかり空はオレンジ色に染まって、日が傾いてた。


「ここがレンくんの部屋かぁ」


 夕飯を食べ終え、カリンさんを部屋に連れてきた。

 三カ所からは、ボク達の姿がモニターに映っているだろう。


 カリンさんは、ベッドの脇にあるテーブル下に荷物を置く。

 それから、部屋を見渡して、色々なところに目を向けていた。


「んー、……えっちな本とか、あったりして」


 ここでアクシデントが起きた。

 カリンさんがクローゼットを開けたのだ。


「ちょっ!」


 段ボールの上に置かれたビデオカメラ。

 ボクは「あ~あ」という気持ちで、顔を手で隠した。


「んん? カメラぁ?」


 カリンさんがキョロキョロと部屋の中を見回す。

 次に、壁際に設置したラックを見た。

 そこに飾ってある、観葉植物。


 草を指で分け、すぐにもう一台を見つけてしまう。


「へえ。レンく~ん。これ、どういうことかなぁ?」

「それは、……その」


 もう一台は見つかっていないが、時間の問題だろう。

 まさか、こんなに鋭いとは思わなかった。


 カメラのレンズをこっちに向け、近寄ってくるカリンさん。


「撮りたかったの?」


 答えようがないので、ボクは黙っていた。

 カリンさんは、ニコニコと笑った。


「レンくん、男の子だもんね。そっか、そっか」

「ちが、ほんと、そういうつもりじゃ……」

「わたしが撮ってあげるよ」


 肩を押されて、ボクはベッドに倒れた。

 カリンさんはパーカーのチャックを下ろし、上着を脱ぐ。


「で、この映像は、わたしがもらっちゃう」

「か、カリンさん。待って」


 カリンさんはショートパンツを脱いで、下着姿になった。

 それから、カメラを枕元に置いて、ボクの体を起こしてくる。


「はい。ばんざーいっ」


 上着をあっという間に脱がされ、肌と肌が密着した。

 お姉ちゃんより一回り小さい、胸の膨らみが肘に当たる。

 汗ばんだ香りと一緒に、爽やかな香りが鼻についた。


 このままだと、倒れてしまう。


「お腹いっぱいになったもんね」

「……カリンさん。こういうのは」

「別に。恋人同士がセックスするのは、普通の事だよ」

「でも……」

「レンくんは、わたしが嫌い?」


 小首を傾げて、カリンさんが笑う。


「好き、だよ」

「なら、しよっか」


 ブラを脱ごうとしたので、ボクは手を差しだした。


「ま、待って。実は、さ」

「む?」


 正直に話すしかない。

 だって、胸やアソコを見てしまったら、すぐに顔が熱くなってしまう。

 倒れたら、カリンさんだって気まずいだろう。


「ボク、……女の人の裸見ちゃうと、鼻血が止まらなくて」

「え?」

「……倒れちゃうん、だよね」


 お互いに沈黙が流れた。

 分かっている。


 普通は、お互いに興奮し合って、添い遂げるんだろうけど。

 ボクはどうしても、女の人の裸が見慣れず、上がってしまうのだ。


 お姉ちゃんのアソコを見て、頭が真っ白になった感覚を今でも覚えている。


「恥ずかしい、ってこと?」

「う、うん」


 幻滅しただろうか。

 不安で、胸がドキドキしていた。


 ボクがそういうと、カリンさんは「ん~」と、首を傾げ、目を瞑る。


「そっか。じゃあ、セックスはお預けだね」

「ご、ごめん。本当に。なんて言ったらいいか」

「いいよ。セックスなんてし」


 そんな事はないと思うけど。


「まあ、実はわたしもさ。ムード作るために、ちょっと焦ってたところがあったから。お相子あいこさまってことで」


 カリンさんがベッドから下りる。

 服を着るのかな、と思ったが、そうではなかった。


 何やら、持ってきたカバンの中を探り、何かを取り出そうとして、ピタリと動きが止まった。


「レンくんさ。本当に、わたしのこと、好き?」

「……うん。好きだよ」

「そっかぁ。わたしもね。レンくんのこと、好きなんだ」


 顔だけで振り向いて、笑顔を見せてきた。


「初めは可愛いから、一目惚れみたいになっちゃったけど。話してると放っておけないっていうか。どこまでも可愛くて。独り占めしたくなったんだよね」

「そう、なんだ」


 面と向かって言われると、照れくさい。


「こんなに誰かと一つになりたい、って思ったのは、初めてなんだ。セックスは気持ち良いけどさ。そっちは、いつだってできるから、あんまりんだよね」


 やがて、取り出したのは小さなケースだった。


「好きだよ。レンくん」

「カリンさん」


 ケースを開けて、中から何かを取り出した。


「レンくんと、一つになりたい」


 指で摘まんで、それを見せてくる。

 持っているのは、針だった。

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