つよつよ安城さん

 お姉ちゃんは、今日買ってきた変な服を着せて、ソファの前に立たせた。

 ソファには安城さんとお姉ちゃんが座っていて、カメラを構えていた。


「やだ。ちょっと、どこまで恋させれば気が済むのよぉ」


 パシャ。パシャ。


 お姉ちゃんが蕩けそうな顔で、シャッターを切り続ける。

 一方で、安城さんは表情こそボーっとしているが、「視線ください」と、しっかり要求はしてくるのだ。


「これ、すごい服ですね。背中の裂け目が大きすぎて、背中とお尻が丸見えです。なんていう服なんですか?」

だったかしら」

「あら。だとしたら、ランは殺されますね」


 不覚にも、ボクは今の一言に食いついてしまった。

 別に処女が好きって理由じゃない。


「え、安城さん、経験ないんですか?」

「あるわけがないでしょう。ランの性癖を知っていれば、なおさらですよ」


 そういえば、元は女の人が好きだったとか言っていた。

 何だかんだ言って、ボクは安城さんのことを少しくらいは知るようになっていた。


「でも、その」


 風俗で働いていた、というのが引っかかる。


「あぁ、風俗ですか? 風俗はお口でサービスするヤツですよ。口が専門なので、本番はないです。要求されたら、断ってましたし。気持ち悪い」


 サラッと毒を吐いた。

 そこで、ボクはピンときた。


「ねえ。もしかして、お姉ちゃん、……知ってたの?」


 そう。

 お姉ちゃんは、ずっと前から『淫売』という悪口を浴びせていた。


「当たり前でしょ。雇う人間の事を知らない雇用主なんていないわ」

「正確には、ケイ様の親御様ですけどね」


 ただの悪口ではなかったのだ。

 適当に吐いた暴言ではなく、過去の事を知っているからこその悪口。

 ずっと、気づかなかったボクは、何だか騙された気分だった。


「安城は、テクニックはあるらしいけど。この調子だから、客が付かなかったんですって」

「ええ。キミオ様のお粗末なものを口でさせて頂いて、家政婦として働くことを認められました」

「ええっ!?」


 今度はお姉ちゃんが驚いていた。


「証拠の映像は持ってますので。お見せしましょうか?」


 どうりで、強気なわけだ。

 雇用主の弱みを安城さんは、すでに握っていたのだ。

 しかも、ちゃんと仕事はするから、シズカおばさんの信頼も得ている。


「ゆ、油断できないなぁ」


 想像以上に、ある意味やり手だった。

 話を聞いたお姉ちゃんは、険しい顔を浮かべる。

 だけど、シャッターを下ろす指は止まらない。


「あなた。それ、口外してないでしょうね」

してません」

「しないで」

「…………」

「するな、って言ってるの」


 お姉ちゃんが胸倉を掴み、黙る安城さんをぐらぐら揺らす。


「ランを不当に解雇しなければ、そうですね。墓場まで持っていきます」


 捨てるつもりは、サラサラないようだ。


「パパったら。あの、大馬鹿! バイアグラ飲まないとママの相手だってできないのに。……はっ。ちょっと待って。もしかして、あなた、それで薬の場所を……」


 安城さんは無言でピースをした。


「最悪よ!」


 ボクは二人の様子を見て、家庭崩壊しない事を祈った。

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