堤さん

お姉ちゃんの意外な行動

 お手洗い場で洗ったパンツが洗濯機の中でグルグル回っていた。


「お気になさらず」

「高校生になって、お漏らしは恥ずかしいです」


 今日はお出かけ当日なのに、出発前からお漏らしのパンツを洗うという、何とも言えないスタートを切った。


 けど、おかしなことに、濡れていたのはパンツだけ。

 てっきり、シーツや安城さんの寝巻まで汚したのではないか、とハラハラしたが、そんな事はなかった。


「ここはランに任せて。レン様はお出かけの準備を」

「あ、そうだ」


 時刻を見ると、午前11時。

 バスが来るのは11時30分。

 町の方に着いて、12時23分の予定だったので、今の内に準備をしてしまおうと立ち上がった。


「レン様」


 廊下を歩いていると、呼び止められた。


「他に、体調が優れないとか。体の調子はいかがですか?」

「え、大丈夫だけど」

「……ふふ。そうですか」


 何だか、安城さんは機嫌が良いみたいで、見たこともない笑顔を浮かべた。

 熱に浮かされたような顔でいて、肌の艶がいい。

 普段通りの所作が、今日はいつもより色っぽく感じてしまい、目が合うとボクまで顔が熱くなってくる。


 安城さんは後にして、ボクは自室に戻った。


 自室では予め用意しておいたカバンが部屋の隅にあり、サイフとスマホを忘れずに、ポケットへ入れる。


「ご機嫌じゃない」


 窓からは、お姉ちゃんが入ってきた。

 あれだけ安城さんに怒られたっていうのに、性懲りもなく、窓からの侵入は控えるどころか、止める気配がない。


「お出かけ、するから」

「……お金は、持ってるの?」


 お姉ちゃんが腕を組んで、聞いてきた。

 つまらないものを見るように、窓際に寄りかかって、ボクの返答を待っている。


「も、持ってる」

「いくら?」

「……3、千円だけど」


 お小遣いは、基本貰えない。

 ほしいものがあれば、安城さんに言って買ってもらうからだ。

 予め、シズカおばさんからお金を頂いているらしく、足りなければ追加で安城さんに振り込む手はずとなっている。


 その内のほんの一部を貰ったに過ぎない。


 金額を聞いたお姉ちゃんは鼻で笑った。


「子供じゃあるまいし」


 ため息を吐いて、お姉ちゃんが近づいてくる。

 叩かれるのかな、と思いきや、意外な行動に出てきた。


「はい。


 目の前のお札を見た途端、ボクは思考がストップした。

 お金とお姉ちゃんを交互に見つめ、首を傾げる。


「デートでしょう。いいじゃない。楽しんできなさいよ」

「り、利息とか、とられたり……」

「はした金で利息取るほど、生活に困ってないわ。弟が他所で恥を掻くだなんて、そっちの方が嫌よ」


 ぐい、と乱暴に渡してくる。

 恐る恐る、お金を受け取り、サイフにしまった。


「あ、……ありがと」


 苦手なお姉ちゃんにお礼を言うのは、ちょっと変な気分だった。


「ふふん。もっと、感謝なさい」

「うんっ!」

「……調子が良いんだから」


 ぐにっ。

 頬を抓られ、グリグリとこね回される。

 でも、怒ってるわけではないみたいだ。


 口端が上がっていて、お姉ちゃんらしい笑顔を浮かべていた。

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