V.A「TWILIGHT DIVA 」ライナーノーツ

鬼澤 ハルカ

V.A「TWILIGHT DIVA」ライナーノーツ

V.A「TWILIGHT DIVA」税込2500円/ITHレコード


1.MY LAST WAR(THE RED HOUSE)

作詞:遠藤 星 作曲:遠藤 月


2.忘れ物はありませんか?(黒野薔薇project)

作詞・作曲:茨木 華


3.ハバナ・ナイト(カリプソハンターズ)

作詞:ジョージ吉富 作・編曲:ケニー竹田


4.HEAVENLY BLUE MOON(まほろばクラン)

作詞:彩羽 作曲:ディアナ 編曲:紫楼


5.DYING SOLDIER(dear John)

作詞:KATSU 作曲:TO-ZI


6.愛と偽りのロンド(ザ・ベルリン)

作詞:高垣 千代 作曲:草壁 八郎


7.薔薇色の殺人鬼(BLOODY NIGHT)

作詞:MARY ROSETTA 作曲:JACKIE R.I.P


8.UNBREAKABLE LOVE(Thanks!)

作詞:二海 璃子 作曲:橘リン


9.Phoenix symphony (ELECTRIC ROMANTIST)

作詞:カリン 作曲:レオナ 編曲:メグ


10.lady in labyrinth(Alternative Sign)

作詞:岸本 正継 作曲:杉田一郎


11.真夜中に吠える(安藤ナイン)

作詞・作曲:dokuro


12. LAST GENERATION(解放区)

作詞・作曲・編曲:YORUNEKO


ーーライナーノーツーーー

20WX年の秋。

ITHレコードの西村さんから「今度ウチで出すコンピレーションアルバムのライナーノーツを書かないか」という電話を貰った際、私は些かの躊躇も見出さなかったわけではなかった。

当時の私がクイーン・ネフテュスのLAレコーディング密着取材に追われていたというスケジュール的な問題もあった。

だが一番の理由は、今回のコンピ盤に参加する面々にあった。

資料に目を通してみれば、老若男女を魅了して止まない気鋭のロックバンド、私のようなオジサン世代の想像を軽く飛び越えるクリエイティビティを発揮するユニット、現代人の孤独にゼロ距離で寄り添い、ネット世代の伝道師として支持される歌い手等と言った見事なちゃんぽん具合だった。

ジャンル的にも何でもありである。

クソッタレな世界に汚される前のまっさらで多様性に満ちた若き音楽達にフラットに向き合い、大衆に言葉を紡ぐという使命が私のような老兵(自分で言ってて悲しくなった)に務まるのだろうか?という不安に襲われたものだ。

だが、送られてきたデモ達を一通り聞いた途端、曲がった背筋を真っすぐに叩き直され、尻を蹴り上げられるような衝撃を感じたのだった。

同時に思い出したのは数十年前、自分が何者にでもなれると信じて疑わず、世界を本気で変えられると思い上がっていた学生時代。

社会や大人、人生そのものへの反抗心を御旗に降り立ったニューヨークはまさに人種のライスボウルで希望も絶望も夢も現実も同じ場所に無秩序に転がっていた。

想像してみて欲しい。築39年のボロアパートの片隅でカート・コバーンの訃報と同時に反逆のファンファーレが打ち消された時の事を。

想像してみて欲しい。新世紀の幕開けと同時に打ち込まれた悲劇のくさびを、ただ呆然とスクリーン越しに眺める事しか出来なかった社会の歯車の青年の姿を。

あれから時は過ぎ、享楽的で思考停止的な安易に消費されるだけのコマーシャル・ミュージックや本質や真実の追求から逃げる見掛け倒しのフェイク・バンドがメディアに蔓延し、大衆はかつてのトム・ヨークの言う「抗生物質漬けのブタ」に堕落させられた。



私自身、表面上では物分かりのいい大人として媚びへつらうのっぺらぼうの仮面に窒息しかけながらもその下で日記をつけるウィンストン・スミスとして過ごすことで何とか凌いできた。


そんな中、インターネットという新たなフォーマットの中に、次世代の芽は育まれつつあった。

動画投稿サイトを中心に素性を隠して活動する才能豊かな若いクリエイター達、旧態依然とした社会に対してNOを突きつけるアーティストの台頭を見る度に私の心はニューヨーク時代のように震えあがった。

記憶に新しい出来事では今作にも参加している弱冠18歳の歌姫、安藤Neinの「キミの歌、ボクの歌」が人気漫画の実写化映画の主題歌となった時、思わず世間に対して「ざまあみろ!」と指さして笑ったものだ。

このコンピはそれらの奇跡による一つの成果である。CDを手に取った同志諸君。君達はラッキーだぜ、ブラザー。


「TWILIGHT DIVA」はITHレコードが「メジャー、インディーズの垣根を取り払い純粋でイイ音楽を作ろう」というコンセプトの元、複数のレコード会社に呼びかけて集められた若手アーティストが参加している。

彼らは皆年若く、現代の閉塞した空気を打ち破らんとするような可能性に満ち満ちている。其々が確固とした音楽的ルーツとスキルを持ち、「イマ」の感性で鋭角的に、あくまでポップに料理している。

頭でっかちで、自己陶酔的に硬直化した泡沫の無価値な自称クリエイターorバンドマンとは雲泥の差だ。

ジャケットを手掛けたのは安藤Neinのアートワークでも知られているDOPPER氏。

夕陽の差し込む荒れ果てた劇場のステージで、真っ赤なドレスを着た「黄昏の歌姫」が剣を片手に返り血を浴びながら歌い、舞う姿は妖艶で神秘的だ。


さて、そんな劇場で繰り広げられる物語を彩る12の楽曲達を簡単に紹介しよう。





1.MY LAST WAR(THE RED HOUSE)

作詞:遠藤 星 作曲:遠藤 月

平均年齢21歳、遠藤兄弟を中心に結成されたポストハードコアバンドの楽曲。

オアシスやブラー、ブラック・フラッグ、マイ・ケミカル・ロマンス等をルーツに持つ彼らのサウンドは、まるでタイトル通り、世界への最終戦争を声高に宣言しているようだ。

遠藤月のノイジーで暴力的なギターから発せられるメランコリックとアバンギャルドな絶望とギターボーカルの遠藤星の歌唱から感じられるポップネスと決意表明、そして希望。

私はそれを私達「オジサン世代」に対する殺意、死刑宣告と感じた。だが嫌な気はせず、寧ろ心地よいくらいだ。

ここに宣誓しよう。我々は彼らの世代を抑圧し、摩耗させた反革命分子として喜んで射殺されると。



2.忘れ物はありませんか?(黒野薔薇project)

作詞・作曲:茨木 華

弱冠19歳の天才クリエイター、茨城華嬢率いる音楽プロジェクトによる楽曲。

彼女は音楽一家で育ち、幼少から音楽教育を叩きこまれてきた。10歳で作曲を始め、高校時代に動画投稿サイトでの活動を始め、一躍時の人となった事は多くの人が知る所だろう。

本作には彼女と親交のある若く優秀なミュージシャンが多数参加し、そのクリアな歌声と共に美しく、優しく、トゲのある世界観を彩っている。

曲中で何度か繰り返される「忘れ物は何ですか?」という優し気な問いかけは茨木がSNSで発言している「聴く人の心に寄り添って抱きしめるような歌を贈りたい」という信条の表れかもしれない。

その歌声とポップでクラシカルなメロディは混迷する時代を生きる人々の心に寄り添い、むくつけき大人達に真実を素朴かつ辛辣に突きつけてくれるだろう。



3.ハバナ・ナイト(カリプソハンターズ)

作詞:ジョージ吉富 作・編曲:ケニー竹田

ベースボーカルのジョージ吉富とサックスのケニー竹田を中心にシアトルで結成された多国籍ブラス・ロックバンドの一曲。

この曲は昨年の初ワールドツアー中にハバナのホテルで竹田の鼻歌から生まれたという。タイトルと言い、曲調こそ違うがゆったりとしたリズムと言い、チャック・ベリーの「ハバナ・ムーン」を連想してニヤリとさせられる。

実際、吉富はシカゴに住んでいた頃にチャックベリーで音楽に目覚めたとのこと。そしてこの曲が単なる焼き直しで終わらずルーツ・ミュージックへの憧れを現代の若い感性でしっかり落とし込んでいるのがまた好印象だ。

「この国もシアトルも、空の色って一緒なんですよ。何にも変わらないんです」と竹田は語る。

彼らが歌うのはマイノリティの孤独、人生の喜び、そして平和への祈りだ。しゃがれた歌声とジョー・ストラマ―の如きパンク・アティチュードは空をも超える。マジョリティ共や差別主義者にだって邪魔できない。




4.HEAVENLY BLUE MOON(まほろばクラン)

作詞:彩羽 作曲:ディアナ 編曲:紫楼

今年待望のメジャーデビューを果たし、音楽シーンの話題を独占した6人組ハイブリッド・ロックバンドの7分超えの大作。

幻のインディーズバンド「アストラル・ライト」の元メンバーであるギターのディアナにベースの倉日ユーキ。

ネットシーンで実力派シンガーソングライターと注目されていたボーカルの彩羽。

異例のヒットとなったインディーズゲーム「sacred romance」の音楽制作に携わった事で知られる現役音大生のTKダイヤ。

老舗ライブハウス「爆裂館」推薦の凄腕ドラマー、KAEDE。

米国のサウンド・エンジニアのボブ・サイクスの息子、紫楼。

この若き6つの才能によってまほろばクランは生まれた。

予てよりディアナ、倉日と親交があった私は今回のコンピ参加、メジャー進出と止まらぬ快進撃に感慨深いものを感じる。

イントロの幽玄なアルペジオとピアノの絡みは一瞬でリスナーを異次元に誘い込み、ブリッジで吠えるディアナのファジーな轟音ギターがおもむろに胸ぐらを掴む。

サビでは彩羽と共に代わる代わる叫ぶ「もう痛くない…でもいたくない…」というフレーズが悲しみと怜悧さを孕んでリスナーに突き刺さる。

そしてギターソロでは紫楼との泣きのツインリードが来たと思えば、彼の超絶技巧の後ろでエフェクティブなプレイという役割分担が為されている。

それを芸術的に昇華しているのは、バンドのリーダーにしてプロデューサーを担う紫楼の手腕だろう。

最新技術を駆使しながらも生のロックらしさを前面に押し出したはティーンエイジャーのみならず、往年のロックのご意見番なご老体どもも黙らせるに違いない。

W0年代を代表すること間違いなしのロックアンセムを生み出し、音楽シーンに革命を巻き起こすだろう彼らの快進撃はどんな有象無象共にも止められない。



5.DYING SOLDIER(dear John)

作詞:KATSU 作曲:TO-ZI

都内で結成された4人組ハードコアバンドの楽曲。

肉を裂く有刺鉄線のようなギター、破砕機のようなドラム、全てを踏み潰す戦車のようなドラム、死にゆく兵士の怒号のようなボーカル…世界の醜悪さをこれでもかと言う程に表現している。同時にそれは「怒り」「自由」「希望」の叫びでもある。

差別反対やラブ&ピースを形だけ歌う3流パンク(それもいい年した)は吐いて捨てる程いるが、メンバー全員が弱冠23歳の彼らの音は計り知れない説得力を持ち、リスナーに最短距離の2分58秒で突き刺さるのだ。

「ぶっ壊せるって信じてます。腐った体制も下らねー常識も」とKATSUは自慢げに語った。その言葉は決してホラではないと私は確信している。

彼らの音楽は、音楽がまだ純粋で消費されるだけの物でなかった頃のトキメキを私に思い出させてくれた。

いつまでもカビだらけのセカイ系にのぼせて冷笑してる奴らはこいつらに横っ面を引っ叩いてもらえ!



6.愛と偽りのロンド(ザ・ベルリン)

作詞:高垣 千代 作曲:草壁 八郎

同人音楽出身のユニットによる楽曲。

同人界隈を中心に活動していた草壁八郎とダンサーとしての顔も持つ高垣千代、二つの才能がぶつかり合って生まれたのがザ・ベルリンだ。

この曲はクラシカルで一歩間違えば時代錯誤なヘビ・メタになってしまいそうな旋律と現代的で無機質かつ重厚なデジタルサウンドの融合が特徴。

動画サイトで投稿されたミュージックビデオが音楽シーンを騒然とさせたのも記憶に新しい。

仮面を付けた操り人形の草壁と高垣が同じ格好、同じ顔のロボット大衆による万雷の拍手に包まれたステージの上で踊り続ける。やがて仮面が壊れ、人が引きちぎれて、大衆が発狂しても、二人は幸福な表情で踊り続ける。

正気なのはどちらなのか?私達もつられてこの世界で踊り続けるのはその答えを探すためなのかもしれない、と二周りも年下の彼らに気付かされたのだった。


7.薔薇色の殺人鬼(BLOODY NIGHT)

作詞:MARY ROSETTA 作曲:JACKIE R.I.P


アングラシーンで人気が急上昇しているゴス・ロックユニットのデビュー曲。

実を言うとユニット名と言いこの楽曲と言い、あまりのコテコテさに失礼ながら当初は吹き出しそうになってしまったのを覚えている。

この21世紀に90年代初頭のヴィジュアル系がやりそうな芸風をここまで徹底して本気(マジ)にやってしまうともはや拍手を贈らざるを得ない。

MARY ROSETTAの暗黒舞踊と20世紀前半のホラー映画を融合させたようなパフォーマンスやバウハウスやピクシーズ等の4AD系のエッセンスを全身で吸収したような歌唱、JACKIE R.I.Pの悪魔じみたサウンドメイキングには本邦の顔だけな薄っぺら・お化粧バンドどもにはない説得力とリアリティを感じた。

楽曲内で使われているインダストリアルな音色は、JACKIEが自ら廃工場に赴いて一から録音したそうだ。

JACKIE曰く「自らの足で探し出し、直に掴み取った音にこそ狂気が宿ると考えています」との事。

いやはや、またしても思わずクスッと来た。いやあ、もうここまで本気だと最高だ。

何重にも重ねられ、緻密に構築されたB.Nサウンドが私達を連れて行くのは天国か、地獄か?



8.UNBREAKABLE LOVE(Thanks!)

作詞:二海 璃子 作曲:橘リン


メンバーが全員幼馴染みのガールズ・トリオバンドの書き下ろし曲。

10代限定ロックフェス「暁光クラッシャー」で審査員特別賞を受賞した経歴を持つ期待の新星だが、その若く愛らしい見た目に騙されることなかれ。

ギター(+シンセ)、ベース、ドラムというシンプルな構成なのだが、そこに同期なんてものは一切なし。それでいて高度な演奏にも隙がない。

初期のDREAM THEATERはメタリカmeetsラッシュとされていたが、彼女達は言うなればクリームmeetsラッシュだ。

「UNBREKABLE LOVE」はテクニカルでありながらマニアックになることは無く、あくまでちょっとブルージーでテクニカルだけのパワー・ポップ。

あどけない爽やかさの中に仄かに狂気じみた側面、これもまた刺激的なはずだ。余談だが、クリームやラッシュと言った彼女らのルーツは、ネットサーフィンをしていた時に己で見出したとのこと。男に影響されたとか、親に刷り込まれたとかそう言うものではない事実に私のようなオジサンは好感を覚えてしまうのであった。


9.Phoenix symphony (ELECTRIC ROMANTIST)

作詞:カリン 作曲:レオナ 編曲:メグ


今年の春結成したばかりの無名の新人5人組バンドの楽曲。

サウンド的にはHELLOWEENやEUROPE等の華やかなリし80年代のヘビ・メタが中心だが、メンバーのバラバラな嗜好(ジャズ、プログレ、ブルース、アニソン等)がサウンドを彩っているとまあ言えなくもない。

しかし特筆すべきは、かのザ・ミュールに短期間だが在籍した過去を持つ19歳のボーカル、カリンの圧倒的歌唱力だろう。

「Phoenix Symphony」は粗削りながらも疾走感溢れるスピードメタルナンバーでカリンのハイトーンとメロディアスなギターが特徴。

楽曲そのものの質とメロディセンスは逸品だが、全体的に粗削りで発展途上なのが勿体ない気もする。

天才的ボーカルのカリンやセッション経験豊富(らしい)ベーシスト、ピアノの英才教育を仕込まれたというキーボーティストと他メンバーの経験差と実力差に隔たりがあるし「不死鳥交響曲」なんてベタベタなタイトルもカッコつけてて地に足が付いていない感じもする。

自意識と詰め込むための世界観とメタファーの過剰の肥大化は自らを押し潰してしまうだろう。

ただ伸び代とセンスはまあまああるので、今後の成長に期待したい所である。

個人的にまほろばクランのように揺るがない自身と実力を持って暗闇の荒野でも毅然と立つ姿になった彼らが見てみたくもある。

まあ、頑張れ。


10.lady in labyrinth(Alternative Sign)

作詞:岸本 正継 作曲:杉田一郎

大学の音楽サークルで結成された4人組バンドの楽曲。結成2年で若手バンドの憧れ、チェンバーからミニアルバムをリリース。更に2年後にメジャーデビューし、今最も熱いバンドの一つだろう。

彼らの最大の特徴は、音楽性に対する貪欲さである。ロックのみならずパンク、グランジ、テクノ、ヘビ・メタ、ジャズ、果ては歌謡曲まで吸収し独自の音楽性を確立している。

本曲はギターの杉田が学生時代に作って没にした曲を引っ張り出し、新たに構築、アレンジし直したという。

杉田曰く「ずっと黒歴史にしてたんですけど、結成5年近く経って自分達の音楽にもやっと自信を持ててきたんで。あの頃の初期衝動とか未熟さを認めてあげたかったんですよ」との事。

ボーカルの岸本はこう語る。「最初は反対でしたね。お前今更昔の黒歴史掘り返すか?って。でも杉田の持ってきたプリプロ聴いてこれはやらねば確信しました。今ならライブの打ち上げで歌詞朗読してもいいです(笑)」

最近のAlternative Signの曲と比べるとストレートで青臭い部分も多いが、ギターソロもたっぷりで森中敏明のベースもグルーヴィだし野口葉造のドラミングもタイトだ。岸本の憂いを帯びつつも本能に訴えかけるボーカルも一貫している。

一歩間違えばカビ臭いヘビ・メタになってしまいそうな危うさもありつつ、現代にも通じる親しみやすさを残したギリギリのスリリングさもまた印象的だ。

やり場のない苛立ちと生きづらさを抱える若者達には、是非とも都内の殺伐としたライブハウスにいる自分を想像しながらこの曲をフルボリュームで楽しんでもらいたい。


11.真夜中に吠える(安藤Nein)

作詞・作曲:dokuro


ネットシーンで絶大な人気を誇る弱冠18歳の女子高生シンガーの代表曲。

巧みに表情を変えるパワフルな歌声とラウドなサウンド、挑発的な歌詞は老若男女に衝撃を与え、社会現象にまで発展した。

彼女は元々動画投稿サイトで「歌ってみた」系を中心に2年ほど活動していたのだが、サウンドクリエイターのdokuro氏に提供された本曲が発表されて人気が爆発。MVの再生回数は700万回再生を突破している。

私がラプチャー・レコードに勤める知人から教えられてこの曲を知った当時、これは売れるとぼんやりと確信だけはしていたが、彼女の若さと実力に圧倒され、同時にこう言った曲が社会的に認知され支持を受けている事実を不思議に思ったりしたものだ。

数年前ならば「ネットミュージックはオタク向けのアングラな音楽」とか「こんなのが流行ると世も末だ」と我々の世代の大人達は眉をしかめたものだ。

しかし今や時代も変わり、こう言ったネットミュージックの存在が身近で当たり前になったデジタルネイティブな若者達も増え、中高生の早熟なDTM作曲家も珍しくないという。当然と言えば当然の現象かもしれない。

そう、彼女は新時代の到来を高らかに宣言しているのだ。

民衆を導く自由の女神のように拳を掲げ、社会や大人達に向かって中指を立てて挑戦していく。

その軌跡を、私達もしっかり追っていこうではないか。



12.LAST GENERATION(解放区)

作詞・作曲・編曲:YORUNEKO


この素晴らしきコンピレーション・アルバムのラストを飾るのはボーカルのNeonとコンポーザーのYORUNEKOによるネット発の新時代音楽ユニットの手掛ける本曲。

このアルバムのために書き下ろされたというまっさらな新曲で、合唱パートでは本アルバムに参加した全てのミュージシャンが参加している。

私が本作の件を西村さんから持ち込まれたのはまさにこの曲が収録される1週間前だった。

翌週の金曜日、ちょうどLAから一時帰国した私はスタジオへ赴いてレコーディングに立ち会わせてもらったが、現場は和気あいあいとしており、どのミュージシャンも分け隔てなく気さくに交流していたのがとても印象的だった。

「やっぱりアルバムのラストを飾るなら、舞台のカーテンコールみたいにしたかったんですよ。上手く事が運ぶのかは不安でしたけど(笑)」とYORUNEKOは語る。

その日はdear John、ザ・ベルリン、Thanks!のメンバーがコーラスを録る日で何ともミスマッチな取り合わせだったが、何事もなく収録は終わった。Thanks!の3人にKATSUがやたら絡まれて照れ臭そうにしていたのも印象的。

因みにELECTRIC ROMANTISTのメンバーもこの日参加する予定だったが、ITHレコードスタッフのミスで収録日どころか参加のオファーすら知らされておらず、後日別に収録したというこぼれ話もある。メンバーの半分は内心かなりお冠の様子だったそうで、私は思わず爆笑したのはここだけの話。

別の日に会ったジョージ吉富は「俺らが見たい世界ってこう言う感じなんじゃいかなあ」とぼそっと呟いた。


「夢なんかじゃない 僕らの未来」

「最後の時代が終わる 新しい世界が始まるよ」

「歌おう 僕らのままで 変わろう 君のままで」

~LAST GENERATION1番コーラスパートより~


私は思わずハッとした。

この曲のコーラスは「統一感」はあるが「統制感」はない。

年齢も性別もジャンルも方向性もバラバラなメンバーだが、皆が共通した想いを各々なりに表現しているのだ。

この空の下、皆同じだが皆違う。

そうした不屈の精神が集まり、普遍的な想いを歌った時、世界は美しくなるに違いない。差別、困窮、環境、不況、抑圧…社会の歪みの犠牲になっている無数の人々が自意識を持ち、声を上げて歌い続ける事で壁は崩れ、世界が解放される…。

そんな情景を思い描く事が出来た。


レコーディングの全工程が終了した時、私が思い浮かべたのは「今日は革命前夜だ」と言うとりとめのない言葉だけだった。




以上が「TWILIGHT DIVA」に収録された12曲である。

ロック、ハードコア、アニソン系、ボサノバ、スカ、ヘビ・メタ、etc…様々な音楽がメジャー、インディーズ混合で集められたこのアルバムはさながら一つのオムニバス小説のようだ。

繰り返すがそれぞれが若く、唯一無二の才能の持ち主で将来有望なアーティストばかりである。

世の中にコンピレーションアルバムは数え切れないほど存在するが、本作はまさしくその金字塔と言えるだろう。

混迷を極める現代。

ここに集った12の才能が新時代の音楽シーンを、いや世界そのものを変革し、リードしていくであろうという予感に私は高揚感を隠せない。

Show must go on.

あなたがこのアルバムを聴き終えても、黄昏の歌姫のショーは続いて行くのだ。


20WX年 X月X日

田端 陽一郎(音楽評論家)



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V.A「TWILIGHT DIVA 」ライナーノーツ 鬼澤 ハルカ @zaza_sorrowpain

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