【完結】氷の騎士団長の飼い慣らし方〜婚約破棄されたら憧れのイケボ騎士団長様と魔法の首輪で繋がって溺愛されました〜
景華
第1章
いきなり修羅場です
「フェリシア・グラスバート!! お前との婚約を破棄する!!」
近年、他国のとある実話から成った物語の影響により、【真実の愛】という名の大義名分を掲げた婚約破棄が流行りとなって、そんな茶番劇が繰り返されてきた。
そして私も例に漏れず、今現在、その騒動の渦中にいる。
自分たちに酔っていたいだけの、なんて安っぽいドラマなのかしら。
お決まりのセリフほどつまらないものなんてないのに。
そう思いながら、どこか他人事のように私は目の前の男、ラッセル・ディラン伯爵令息を見ていた。あと数ヶ月後には私たちは結婚するはずだったのだけれど……いいわ。仕方ない。
でもね──
せめて服を着てから言え──!!
──ここはディラン伯爵家の、私が結婚後に使う部屋。
私は今夜、城で行われる私たちの学院卒業パーティに行くために、いつまでも迎えにこないラッセルのお屋敷に来ていた。そして使用人がラッセルを呼びに彼の部屋に行く間、私は結婚後に使う予定の部屋にいるから、と言ってここへ来てみたら、開けてびっくり。
だって、私たちが使うはずのベッドの上では、全裸の私の婚約者と、同じく全裸の女性が絡み合っていたのだから。
「……ラッセル、あなた……何をしているの? そこ、私たちが結婚後に使うベッドよね?」
至って冷静を装い問い詰めた私に、彼はその一糸纏わぬ姿のままで、冒頭の言葉を私に放った──。
なんて理不尽なんだろう。
「前々から気に入らなかったんだ。整った顔をしてはいるが、愛想のない冷めた目。隙もなければ可愛げもない。頭の良さを鼻にかけて、いつも俺を見下していたんだろう!! それに比べて彼女は、俺のことを全て理解してくれ、支えようとしてくれる。彼女こそ、俺の【真実の愛】の相手なんだ!!」
ビシッ!! と全裸で私に向けて指を差す。
何も最初から冷めた目をしていたわけではない。
うまくやっていこうと、自分なりに努力していたわ。
それに、最初はお互いにうまくやっていたはずだったのだ。
だけど学院に入学してからかしら、私たちの関係性が少しずつ変わってしまったのは。婚約者であるラッセルは、私に対して少しずつ態度を硬化させていった。
それにしても、【真実の愛】だとかなんとかいう相手の女。
よく見ればこのピンク色の髪……私の友人のロザリーじゃない!?
何やっちゃってんのよ!?
私が未だラッセルにしがみついたままの、友人だったはずの女に視線を向け目を細めると、彼女はビクリと身体を揺らし、さらに強くラッセルへと抱きついた。
まるで私が悪者かのように、庇護欲をそそる潤んだ瞳でラッセルを見上げ縋る彼女に、言いようのない嫌悪感が湧き上がる。
──あぁ、そう言うこと。
最近やけに学園で、“ラッセルといる時に”一緒に行動したがると思ったら、この2人、そういう仲だったのね。
そのことに気づいた瞬間、すん……と私の顔から表情が抜けていった。
そして──。
「キャァァァァ!!」
「っ!?」
私の高く通る叫び声が、屋敷の中を木霊する。
自慢じゃないけど声量には自信があるのよ。
そして間を置くことなく、それを聞きつけた使用人達やディラン伯爵夫妻が何事かと集まってきた。
「フェ、フェリシア嬢!? 一体何が──っ!!」
彼の父であるディラン伯爵が、私にすぐさま駆け寄り、その惨状を目にすると、言葉を失ったまま立ち尽くしてしまった。伯爵夫人も口元に手をやったままフルフルと震えているし、使用人たちもざわざわと騒ぎ始め、まさに修羅場だ。ざまぁ。
「ち、ちがっ、これは……父上……!!」
さっきまでの威勢はどこへやら、伯爵や夫人、使用人たちに痴態を晒したラッセルは顔から色を無くし、どうにか弁解をしようとするも、言葉を絡ませて続かない様子。
ピッタリとラッセルにくっついたままだったロザリーは、ベッドの上のシーツを掻き抱いて、真っ赤な顔をして身体を隠し始めた。どうやら羞恥心、あったらしい。
「言い訳はいい。……フェリシア嬢、不快なものをお見せしてしまい、申し訳ない」
私に頭を下げるディラン伯爵だけれど、この人に謝られたところでもう後戻りはできないし、やり直せるわけがない。
穏便に済まされる前に、言っておかなければ。
「伯爵、私、たった今婚約を破棄すると宣言されました。早急に手続きをしたいと思うので、両親を呼んでいただけますか?」
「い、いや、しかし、それは後日こちらから伺って……」
「いいえ。すぐに。お願いします」
確かに、問題を起こした側が出向くのがマナーでしょうけれど、後日では遅い。
その日の問題、その日のうちに。
ダラダラと先延ばしにしてしまうのはよろしくないわ。
私の語気を強めた言い方にディラン伯爵は肩を落とすと、メイドにグラスバート伯爵家へと遣いを送るように指示を出した。
……卒業パーティ、間に合うかしら?
──後書き──
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