第20話 告白の重さ
学校を抜け出してすぐ、俺は駅に向かった。
つなちゃんとの待ち合わせ場所だ。
ただ、午前中に制服でほっつき歩いているという事で、若干周りの目が気になる。
一応上着は脱いでいるが、それでも高校生だとバレるだろう。
補導されないか心配だ。
とかなんとか考えながら駅で待っていると、ほどなくして待ち人が到着した。
もうすっかり見慣れたロングスカート姿だ。
「へーい、不良少年」
「こ、こんにちは」
「まだ午前だよ~? 早退にしても早いね」
「まぁ、無断なんですけど」
「ほんと不良だよ。あはは」
笑うつなちゃんはそのまま俺の手を取る。
「え?」
「行こっか」
「ど、どこに? つなちゃんの家?」
「もー、何期待してんの?」
「い、いや、そういうわけじゃ」
えっちと言われて慌てる俺。
ただ単に行く場所に見当がつかなかったから言っただけだ。
女の子に告白された直後に、別の女の子とえっちなことをしようと思っていたわけではない。
断じて。
「別に私の家が近いから待ち合わせを駅にしたわけじゃないよ」
「そ、そうなの?」
「うん。ちょっと遠出しない? 時間あるし。プチ旅行的な」
今の俺にとっては夢みたいな提案だった。
だけど、俺は学生だ。
「あの、お金ないのでそれは……」
「大丈夫。出してあげる。お姉さんに甘えなさい」
「え?」
「電車賃くらいだろうし大丈夫だって。一応バイトもしてるんだよ? あ、えっちなやつじゃなくて健全な仕事ね」
そう言ってつなちゃんは俺の手を握って歩き出す。
若干強引だけど、俺は付いて行った。
「絶対今度返します」
「あはは、いいって。なんか困ったら瑛大君のお姉ちゃんに請求するから」
「ね、ねーちゃんごめん」
「なにそれ。瑛大君おもしろ」
二人で相変わらずよくわからない会話をしながら、俺達は電車に乗り込んだ。
◇
「瑛大君、落ち着いてるね」
「え、あ」
空いた電車に乗り込んだ後、ぼーっと外を眺めていると、つなちゃんに言われた。
「……自分でも不思議です」
「誰かと話せて安心?」
「そんな感じかもしれません。絶対俺より千陽ちゃんの方が辛いはずなのに、情けないですけど」
「そんなことないよ。ってかさ、私おすすめのお店あるからそこでご飯食べよ? おなかすいたでしょ」
「はい」
さっき動いた後だからな。
朝食もそんなに食べていなかったため、空腹だ。
俺の返答につなちゃんは頭を撫でてくる。
「あ、頭?」
「なんか可愛かったから。嫌?」
「全然大丈夫です。でも、誰かに見られたら」
「別に姉弟かカップルにしか見えないから大丈夫。って、恋愛に悩んでる最中の男の子にすることでもないか」
つなちゃんはそう言って俺の頭から手を放す。
若干苦笑されたため、俺も似たような顔で返した。
少し寂しく思ったのはここだけの話だ。
というか、なんだかこの距離感とシチュエーション、初めて会った時の事を思い出すな。
あの時は振られて絶望していたが、今回は違う。
告白されて動揺している。
勿論嬉しいし、飛び跳ねて喜びたいところだけど、自分の気持ちに向き合いたかった。
「つなちゃん」
「どしたの?」
「俺、つなちゃんに会わなかったらどうなってたんだろう」
俺はつなちゃんとの出会いで変わった。
女子に優しくされるようになったし、千陽ちゃんと仲良くなれたし、叶衣さんとだって何故かちょっと話せるようになった。
だけど、全部つなちゃんのキスのおかげだ。
俺自体に魅力があったわけではない。
「別に、あんまり変わらないんじゃない?」
「え?」
俺の言葉に、つなちゃんは言った。
「瑛大君ってさ、前に叶衣さんって子に告白したわけでしょ?」
「あ、はい」
「どんな感じだった? 何かの効果で強要されるようなもの?」
「あ」
「違うよね」
告白って、物凄く勇気がいるんだ。
特に俺なんか望み薄だとは思っていたし、その日は朝からずっと吐きそうだったのを覚えている。
軽い気持ちでできるようなものじゃないのだ。
「キスの効果って、あくまで雰囲気だからさ。きっかけなわけ」
「きっかけ?」
「第一印象で『良い感じかも』って思わせやすくなるくらいで、別にサキュバスとキスしたからと言って、その状態で劇的に告白されまくるわけじゃないんだよ」
「え、そうなんですか……?」
「だから、その子だって君の良さに気付いて告白してくれたんだよ。だから、私がいなくたって、あんまり変わらないと思うよ。遅かれ早かれ、多分その子は瑛大君に恋してた」
つなちゃんの珍しく真面目な言葉に、俺も納得した。
確かにその通りだ。
告白の重さを、俺は誰より理解しているのだから。
千陽ちゃんの言葉を『キスの効果』で済ませるのは、あまりに彼女に失礼だよな。
「でも急な告白だったって聞くし、流石に昨日のディープは激しすぎちゃったかな。ごめん」
「いや、滅茶苦茶気持ち良かったです」
「なにそれ。ちょっと照れる」
「あ、その、謝らないでくださいって意味で」
言ってから俺も顔から火が出そうになった。
何を言ってるんだよ。
と、つなちゃんはそんな俺に微笑みかける。
「瑛大君」
「はい」
「乗り過ごしちゃった」
「あ」
俺達は話に夢中なり、目的地を過ぎてしまったらしい。
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