第11話 知らない子
家に帰るとキッチンの方から良い匂いがした。
今日の夕飯は魚らしい。
「ただいま~」
「あ、瑛ちゃんおかえり」
姉は今日も俺より早い帰宅だが、大学をサボったわけではないと思う。
うちは姉と二人で暮らしているため、食事はどちらかが毎日担当している。
基本的には帰りが早い姉がやってくれることが多いが、俺も一応家事スキルは身につけているため、その辺抜かりない。
二人で助け合っているのだ。
ともあれ、今日は姉がアジを焼いてくれていた。
味噌汁も用意するようだ。
「ねーちゃん、女の子と遊びに行く時ってどんな格好すればいいのかな」
制服をハンガーにかけて着替えながら聞くと、キッチンで菜箸を落とす音が聞こえた。
「どうしたの?」
「え、瑛ちゃん、女の子と遊びに行くの?」
「まぁ、そんなとこ」
まだ正確にどこに行くか、何日に行くかは定まっていないが、遊びに行くのはほぼ確定事項だ。
生まれてこの方彼女なんてできた事のない俺は、それなりに心の準備をしておきたい。
と、俺の質問に姉は慌てて近づいてくる。
「か、彼女できたの?」
「いや、友達だよ」
「高校入ってまだ少しじゃん。瑛ちゃんどうしたの」
「ちょっと、若干失礼だよねーちゃん」
「いや、だって瑛ちゃんだよ? 可愛いけど女っ気の欠片も感じられなかった弟が女の子とデートって……」
「デートは言い過ぎ! 別にただ遊びに行くだけだから」
流石にデートと言うのは違う気がする。
もっとも、向こうは満更でもないかもしれないが。
なんか俺、結構好かれてるんだよな……。
そんな事を考えていると、姉は真面目に俺の全身をじろじろ見る。
「私も彼氏とかいないし、偉そうなことは言えないけど、まず汚い靴を履くのはやめなさいよ? あと寝癖も直して、できればセットした方が良いかも」
「そ、そこまでしたらガチ過ぎて引かれない?」
「あんたその子にカッコいいって思われたくないの?」
「それは……」
「じゃあちゃんとしなさい。どのみち高校生なんだからセットくらい変じゃないよ」
「そ、そうかな?」
となるとワックスとか買いに行かないとな。
いや、その前に美容院か?
なんだか大掛かりになってきた。
「服は可愛いの持ってたよね。高校入る時に一緒に買いに行ったやつ」
「……まぁ、ねーちゃんが選んだ服だし大丈夫か」
「現役女子大生のセンスに任せなさい」
堂々と胸を叩く姉に俺は小さく拍手する。
俺の姉、櫻田由羽は普通に可愛い。
俺とは違って陰キャってわけでもないし、センスは結構参考になりそうだ。
一応まだ十八歳で、高校生と言ってもギリギリ通用する気がする。
と、ふと俺は確かめておきたいことを思い出した。
「ねーちゃん」
「どうしたの?」
「あのさ、この前俺の事を凛々しいとかカッコいいとか言ってたけど、今の俺……どう?」
先程千陽ちゃんにしたのと同じ、キスのバフ効果を確かめる質問だ。
俺の問いに姉は真面目な顔で考える。
そして数秒して。
「今はあんまりかも」
「そっか」
「なんか不思議なんだよね。日によって凄く印象が違って見えるっていうか。たまに超カッコよく見えるんだよ。ってこれは姉贔屓か」
「はは、ど、どうだろう」
詳しく聞かなくてもわかる典型的なバフ効果の影響に俺は苦笑する。
やっぱり、どうも今の俺はつなちゃんとのキスの効果が薄れてきているらしい。
あ、だから叶衣さんにも嫌われたままなのだろうか。
やっぱりサキュバスにサポートしてもらわないと、俺は非モテなままなようだ。
まぁ当たり前だよな。
「ねーちゃん色々ありがと」
「私は泣きそうだよ。あの瑛ちゃんが彼女なんて……」
「だから違うって」
「ちなみにどんな子?」
「可愛いよ。野球部のマネージャーしてる一年生」
「えー、めっちゃいいじゃん。ほんと、瑛ちゃんがどんどん知らない子になっちゃうみたいで寂しいよ~」
「そんなことないよ」
寂しいと言いつつニヤニヤしている姉に俺も笑う。
俺達、いつも思うけど本当に姉弟仲が良いよな。
千陽ちゃんと遊びに行く日、上手くいく事を願おう。
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