甘いバニラのふわふわ様

ふわふわ

第1話

 永遠少女のあなたへ

 廃屋の敷地内に自転車。

 タイヤの駆動が伝わりし、かっこいいはずの宇宙ステーションは、錆びた猫じゃらしに、松ぼっくりが引っかかっているようだと、背の高い銀縁メガネの、黄緑色のいでたちで、蛙の王子様が申されました。

 あなたを見つめる、蛙の王子様が、一言二言お声をかけておられまする。

 蛙の王子様しか、オーディエンスはおられませぬ。

 永遠少女のあなたは、あなたを下支えする服たちを、丁寧に身に纏ってくださいました。

 服たちを、介添えしてくださる方がいらっしゃりませんでしたから、ジャンパースカートとパニエは、あなたが見えないところを、ふわふわ、ふわふわと、出来る範囲で直しておりました。

 このくらいで準備OKと、あなたは思いました。

 錆びた猫じゃらしのステージに、スポットライトを浴びて、凛とした、永遠少女のあなたがおられました。

 蛙の王子様は、既にいらっしゃいませんでしたが、錆びた猫じゃらしのステージの、天井ガラスから、素敵な大きな王子様とお姫様が、あなたを覗いておりました。

 王子様が、いったいどなたであったのか、あなたが分かってしまっても、開演ブザーは鳴りましたので、いろいろな永遠少女のお話を、時には一生懸命に、バレエダンサーのように、あなたは踊りも交えて、ご披露してくださいました。

 あなたの公演が終わる頃には、錆びた猫じゃらしのステージは、美しい猫じゃらしのステージに変わっておりました。

 王子様とお姫様は、途中でご退席なされておりましたが、松ぼっくりが「ブラボー」と声をかけてみました。

 ころりん、ふわりんと、松ぼっくりが、「あなたは甘いバニラのふわふわ様」と言いながら、錆びていない、美しい猫じゃらしのステージに、引っかかっておりました。

 あなたはパニエとジャンパースカートの脇を、ちょこんとつまんで、ありがとうのポーズをお作りになられました。

 松ぼっくりに気がつく方などは、ずっとずっとおりませんから、松ぼっくりには、大層な驚きでありました。

 あなたは松ぼっくりを助けようと、引っ張り上げました。

 松ぼっくりは、簡単にバラバラになりましたが、最後に誰かとお話しできて、嬉しそうでありました。

 あなたが松ぼっくりを気にしていると、「お気にされまするな、もう壊れる予定でありましたから」と松ぼっくりは言いました。

 永遠少女のあなたは、ジャンパースカートの上に松ぼっくりの破片を集めて、樹液の粘りを利用して、一つ一つくっつけていきました。

 あなたは「間違えていたら、ごめんなさい」と申されました。

 時間がかかりましたから、いろんなお話をしたり、お昼寝をしたり楽しみながら、あなたは永遠少女のお力の『4次元の理』を、少しづつ開放なさりながら、こつこつ、こつこつと、松ぼっくりを直してやりました。

 松ぼっくりの、最後のピースをはめ込みますると、松ぼっくりは、形だけは殿方様になれました。

 永遠少女のあなた様は、創造主にお近づきになるための練習を、宇宙のシャンバラでなさったようでありました。

 あなたは松ぼっくりに、温かい恋の重力を、少しだけ感じてもおりました。

 永遠少女のあなた様の、甲斐甲斐しいご様子に、松ぼっくりはドキドキしておりました。

 松ぼっくりの身体の全部が、心臓になるくらいに、とても幸せな時を過ごしました。

 天井ガラスから覗いていた、王子様とお姫様がステージにご登場なされました。

 あなたは松ぼっくりに「とても素敵なステージですわね」と申されました。

 あなたは天井ガラスの上から、美しいステージを覗いておられました。

 あなたは何故かバニラの香りや、宇宙の夢をご覧になられました。

 すぐに夢から覚めて、観客席の松ぼっくりを見下ろすと、泣いているのが見えました。

 あなた様のお美しいお舟が観客席で、閑雅なお姿のままお眠りになっておりました。

 とても自由な、少しだけ透明でキラキラの永遠少女のあなたが、天井ガラスの上におられまする。

 あなたは松ぼっくりに「ありがとう、ありがとう、ありがとう」と天井ガラスの上から叫んでおられました。

 ほんの僅かでも聴こえるならと、下支えする服たちも、精一杯に叫んでみましたけれど、松ぼっくりには、届かない声になりました。

 永遠少女のあなたの大粒の涙は、ステージをワックスがけして、更に美しい涙のステージに変えました。


 いつかまた逢えることを、お二人とも信じているようにも見えました。

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