第5話 ばら寿司とともに、食堂車の前の特別二等車へ。
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「先日注文した堀田です。ばら寿司、12人分お願いします」
岡山駅前にある寿司あずま。16時過ぎで、客はそういない。
堀田教授はこの日のために、岡山名物「ばら寿司」を注文していたのである。
寿司12箱の入った袋と鞄を持ち、彼は喫茶店に入った。
すでに先客が来ている。
「堀田君、遂に出世払を完済できるな。切符はきちんと確保できたぞ。ほら!」
山藤氏は、堀田氏より運賃と特急料金分を預かり、2人分の切符を購入していた。
「ありがとうございます。これでしっかり、確保できました」
「で、ちゃんと、「返し寿司」になるよう、頼んだのか?」
「もちろんですよ。これで皆さんにもお喜びいただけます。何と申しましても、石村君はお母さまをお連れで、京都から姫路の拙宅にお越しくださるとのことですから」
数年前の実質初対面の時からかねて石村氏のことは聞かされていた山藤氏だが、これまで会ったことはない。ただ、堀田氏は山藤氏のことを手紙を通して先方には伝えている。
そのため、双方とも、まったく知らない存在というわけではない。
「おい、洒落にならんぞ。正に出世払の返済の現場を見るのか、私は?」
「ええ、山藤ポツダム少佐殿は、歴史の証人となられるのであります!」
「堀田学徒兵君の弁はいささか余計な言葉が入っておるが、よかろう!」
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上りホームに、「かもめ」のヘッドマークを付けた最新鋭機関車C62型の牽引する特別急行列車が、定刻通りに博多からやってきた。
彼らは、食堂車のすぐ後ろの車両に乗込んだ。
ここは、特別二等車。
食堂車は、すぐ隣。夕食時間帯にかかっているようで、いささか列車内には行き来がある。特にこの車両の後ろ何両かの客が、たびたび行き来する地である。食堂車に近い分、通り抜ける客はいささかならず増える。
一等展望車が最後尾にあるのは、何も景色を見せることだけではない。
二等や三等の客の通り抜けや立入をさせないための措置でもあるのだ。
東海道からやってきた最新鋭機関車C62の牽引するこの特別急行列車は、岡山を定刻に出発。
程なく、旭川の鉄橋を超えた。
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