第2話 出世列車は、特別急行でなければならぬ?
・・・ ・・・ ・・・・・・・
「このところバタバタされていたようだが、ようやく、実家に戻れるようじゃな」
「はい。今週末の金曜日に姫路に帰省して、月曜昼の講義に間に合うように岡山に戻る予定です」
「そうかな。実はわしも、姫路で土曜日に連隊のときの仲間と会う。せっかくの機会であるゆえ、金曜日から姫路入りしようと思っておるところじゃ」
「自営業は融通が利くからいいですね。うちも土曜は講義が入っておりませんで、研究室のことだけです。そこはうまいこと休講処置をしましたから、動きは何とでも」
「それは結構だが、さてどの列車に乗るつもりか。教授になって初の里帰りじゃないか。ここは「出世列車」で姫路入りはどうか? よければ、私も同行させていただこう」
「その発想、いただきます!」
そう言って、堀田氏はアイスコーヒーの黒い液体をストローで幾分すすった。
「さて堀田教授、出世列車として何を選ばれる?」
「そりゃあもう特別急行列車でしょう、ここは山陽筋ですから」
「しかし、九州から東京方面の列車は皆、岡山を夜に通るだろう。夜中に突如出世列車と称して故郷に参上というのも、何だか夜逃げして帰ってきたみたいであろうに」
さかのぼること2年前の東海道本線全線電化に合わせたダイヤ改正よりこの方、東京から大阪を深夜に通過して博多まで直行する特別急行列車「あさかぜ」が運転されている。
これが好評を博したこともあり、姉妹列車の「さちかぜ」も程なく運転開始。
しかし、岡山を通過するのはどちらも、深夜から未明の時間帯である。
「さすれば、ポツダム少佐殿、やはり「かもめ」ですかねぇ・・・」
山藤氏は終戦直前に少佐に昇進している。そのため、「ポツダム少佐」と言われている次第。堀田氏が京大院生で陸軍に志願したときに応対した当時、山藤氏はすでに大尉であったため、堀田氏と再開してしばらくの間、元陸軍大尉と名乗っていた。
「ところで学徒兵君、今のあの特別急行列車のあだ名、御存知であるか?」
山藤氏は、このところの鉄道事情について、かねて聞き及んでいる話を披露した。
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