新春!ドキドキ☆ふるさと味探訪

戯男

第29058493672回 ほっこり優しい岩煮込み

「みなさま。明けましておめでとうございます。郷土料理研究家の松谷です」

「アナウンサーのパセリ川です」

「毎年恒例『ドキドキ☆ふるさと味探訪』の時間です。早いもので、今回で29058493672回となりました」

「今年って西暦何年でしたっけ?」

「これまでいろんな土地の郷土料理をいただいてきましたが、今回頂戴するのはハルイ県名物の岩煮込み。ええ、ご記憶の方もおられると思います。実はこの料理は以前に一度、24482546432回でもご紹介したことがあるんです」

「45億回前のことを憶えてる人がいるんでしょうか」

「あれからずいぶんご無沙汰してしまいましたが、聞いた話では料理技術の発展に伴って岩煮込みもかなり洗練されたとか。一体どんな味になっているのでしょう。想像もつきません」

「その時点でふるさともクソもないですけど」

「今日、岩煮込みを振る舞ってくださるのはこの方。B-35市にお住まいの拳骨山ウメコさんです」

「よろしくお願いします」

「ほほひふほへはいひはふ」

「え?なんですか?」

「ウメコさんは先日、アライグマとのケンカに負けて入れ歯を奪われたということで、今日は歯のない状態でお届けしています」

「そんなことで大丈夫なんでしょうか」

「はひほほふひゃはへふはふほほふほ」

「はい?なんです?」

「私は何年もこの料理を作ってきたんだからそのくらいなんでもない——と仰っていますね」

「なるほど。心強い」

「局アナ風情が知った風な口をきいてると殺すぞ——とも」

「あ?やんのかババア?」

「では材料です。まずおいしそうな岩を四十キロほど」

「あ、やっぱり岩って本当に岩なんですね。面倒臭そうだったんでスルーしてたんですけど」

「食べごたえを重視する方は大ぶりなまま。しっかり煮たい方は砕いておくと良いでしょう。でもあまり細かくしてはいけませんよ。砂利煮になっちゃますからね。ハッハッハ」

「何が面白いんですか?」

「ふぁっふぁっふぁ」

「なるほどね」

「ではこの岩を、半分に切ったドラム缶に詰めます。なるべく隙間が出来ないようにギッチリ詰めましょう」

「うーん。とても料理している光景には見えないですね」

「ふふへほ」

「拳骨山さんが何か言っていますよ」

「岩が詰まったドラム缶を見ると正月だという感じがする——とのことです」

「なるほど。私は基礎工事かなって気がしますけどね」

「ふへほ」

「よそもんが調子こきくさってからに、ええ加減にしとかな殺すぞ——と」

「何かさっきからこのババア私にだけ当たりきつくないですか?」

「さて、ではこの岩を煮込んでいきましょう。水、醤油、酒、味醂、そして砂糖をあわせた出汁を加えます」

「急に普通ですね」

「ほふ」

「この素朴な味付けだからこそ岩本来の滋味が引き立つのだ——とのことです」

「そんな長々喋ってたんですね。私には二音しか聞こえなかったんですが」

「お前みたいな徳の低い豚にこの味はわからんかもしれんが、まあ食わすだけは食わしてやるからそんな物欲しそうな顔をしなくてもいい——とのことです」

「あれ?拳骨山さん何も言ってなくなかったです?」

「では次です」

「お前……」

「ドラム缶を火にかけます。かすかに鍋肌近くが泡立つようなとろ火でじっくり……そうですね。少なくとも一週間は煮込んでください」

「一週間ですか。長いですね」

「まあ岩を食おうってんですからね。そのくらいは」

「そう考えると短いくらいですね」

「はい。そしてここにすでに煮込み終わった鍋があります。こちらは念入りに十日前から煮込み続けたもので、……どうですか。いい匂いがするでしょう」

「ふふひ」

「ババアがまたなんか鳴きましたよ」

「ほっときましょう」

「個人的には構いませんが……」

「ご覧下さい。十日煮込んだおかげで岩が……ホラこんなに」

「わあ本当。箸で切れそうなくらい柔らかいですね。ショウガの匂いも……って生姜なんて入れてませんよね?てかこれ豚バラですよね?てかこれ豚の角煮ですよね?」

「いやあ。つくづく料理というのは魔法ですよね」

「そういうレベルじゃないでしょ。さすがに無理ありますよ」

「ひふ」

「何だお前?私の故郷の伝統料理に文句をつける気か?死にたいのか?と言っていますね」

「言ってないですよね?」

「この地方ではこれを中華饅頭のような生地に挟んで食べるのが伝統なんですよね」

「だからそれ角煮バーガーでしょ」

「あと一回でもその臭い口を開いたらお前の家族もろとも皆殺しにするぞコラ、って言ってますね。拳骨山さんが」

「まあとりあえず撮影が終わったらこのババアはしばきますね。あとお前もな」

「岩煮はお子さんたちにも大人気。ぜひ皆様もご家庭でお作りになってみてはいかがでしょうか」

「そういや結局このババア全然料理してませんけど何しに来たんですか?」

「ふほひい。はひほ」

「ハッハッハ、またまたそんな。ウメコさんってばおっかしいなあ」

「言っときますけど拾いませんからね。私もう早く帰りたいんで」

「あのね、こないだウメコさんの娘さんが……」

「それでは皆様、また来年」

「隣の室井さんの屋根裏にね……」

「ふほほ」



  〜ドキドキ☆ふるさと味探訪〜

      ——終——

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