53話 再び渋谷へ
スーパー銭湯を楽しんだ翌日の十二月二十四日。世間はクリスマス一色だがプリシラには関係ない。渋谷のBランクダンジョンに向かうため楓に車を運転してもらい向かっている。
「日本のクリスマスは賑やかですわネ」
「ロンドンはどうだったアル?」
「少し違いますが賑やかですわヨ。所々でイルミネーションが点灯していますワ。当日はそうでもありませんがネ」
エヴァとフェイリンがお国柄のクリスマス事情を話していると渋谷に着いた。
「それじゃあ三十日は渋谷で待機してますので~気をつけて行ってきてくださいねぇ~」
「………大丈夫」
「頼もしい限りですワ」
「先に三人で写真撮らせて欲しいアル。SNSに上げるヨ」
「ああ、そういえば実験するんでしたわネ」
フェイリンがSNSをやっているため今回は実験で写真を上げてみることになっている、これはプリシラの影響力を見るためだ。すでにCMでわかっているが個人のSNSでも確認しようと話があった。フェイリンは動画も投稿し収益を得ているためそちらの予想を立てるためでもある。
スマートフォンでプリシラ、エヴァ、フェイリンの三人が映った写真を撮る。これを今からSNSに上げる。念には念でフェイリンはSNSに投稿してからアプリの通知をオフにした。
三人で車から降りて楓と別れてダンジョンがあるショッピングモールへと向かう。この三人の組み合わせは目立つため注目を集めているがお構いなしに三人は進んでいく。
「まずは買い物ネ。食料と大きめの保存容器、テントは二人用だったけど女三人なら問題ないネ。調理器具とか調味料は確認したから大丈夫アル。一応モバイルバッテリーも買うネ。スマホで地図見れなくなると困るヨ」
「椅子が二つと言ってましたから椅子も買ったほうがいいと思いますワ」
「プリシラ。他にも見て回ってる時に必要なものがあるかもしれないネ。その都度買って良いアル?」
「………別に構わない。自衛隊からマジックバッグも借りたから大丈夫。お金もある」
自衛隊からマジックバッグを借りてきているため荷物は多くても構わない。マジックバッグは普通ならば借りられないがララベルが技術提供するから貸せと言って2、3資料を渡したらすぐにマジックバッグを差し出してきた。ララベルが出したものは基礎中の基礎なので特に問題はない。むしろ元々渡そうと思っていたものだ。ここから地球の技術者たちに発展させてもらおうと考えているのだ。
プリシラたちのいた世界と同じ発展を遂げても面白くないと言うララベルの道楽である。助言はするがそのまま教えることはしない。作って欲しいものがあればその通り作れと指示を出すだけだ。
予定していた物を買い終わりエヴァに装備の確認をフェイリンがする。
「エヴァ。本当に防具はそれでいいネ? ここでそれなりのも売ってるアル」
「ハルカの話を聞いた限り最低限のこれで大丈夫でしょウ」
「確かにあれなら問題ないネ」
エヴァの武器である杖はイギリスにいた時に自前で買った良い物を使っているが防具に関しては日本に来てから最低限の装備を買っただけだった。しかし、遥からプリシラとダンジョンに行った時の話を聞いていたため問題ないと判断した。動きやすいミリタリースタイルにそれなりの革鎧をつけている。元軍人なせいか様になっている。
フェイリンは元々探索者活動をしていたため自前の装備をそのまま使っている。シニョンキャップで髪を纏めているが服はチャイナ服のパンツスタイルである。単純な革鎧と簡単な小手に金属部品のついたブーツだ。それでも中華娘感は否めない。上着だけの長袖チャイナ服を着ているせいかもしれない。
槍だけは大枚叩いてミスリルと魔鉄の合金で作られた良い物を買って使っている。フェイリンがジョブレベルを260にまで上げることができたのはこの槍も関係している。
「それじゃダンジョンの受付行くアル」
受付を済ませてダンジョン前でもう一度探索者証を通しダンジョンに入った。
1階層を歩きながら簡単に確認を行う。
「………昨日の夜も話した通りまずは二人で戦ってもらう。今のフェイリンなら遥より強いしエヴァが援護すれば10階層くらいまでは余裕だと思う」
「ワタシここ来たことあるから大丈夫アル。でも10階層までヨ。それより下層は行ってないネ。11階層から難易度が上がるから注意しないといけないアル」
「ワタクシはここは初めてですので二人を頼りにさせてもらいますわ」
以前来た時は遥がプリシラの軽い援護ありで5階層でキツくなっていた。だがフェイリンは遥よりもステータスが高いため10階層くらいまではエヴァの援護があればいけると予想している。
「体の感覚が変わるのは嫌かもしれませんが、ワタクシのバフはちゃんと受けてくださいね」
「これから練習していくから大丈夫アル」
さらに今回は『聖女』のスキルによるバフがある。約一割ほどステータスが上がるため感覚は大きく変わる。フェイリンは身体強化によって感覚が変わることを嫌って使ってこなかったがプリシラからスキルレベルを上げて使えるようにならないと話にならないと言われているため使う練習をしている。今までは要所だけで一時的に使う使い方をしていたがプリシラに使い方を教わりいろいろと試している。
「………一階層で少し二人の慣らしをして二階層からは最短ルートを通りながら二人に戦ってもらう」
「わかったアル」「わかりましたワ」
一階層は一体ずつゴブリンエリートが出てくるのでエヴァとフェイリンが本気にならなくても余裕で倒せる。そのため一階層はほとんど飛ばして進み二階層へ進む。
二階層につきプリシラが指示を出す。
「………じゃあ二人でやってみて。戦闘中の指示はエヴァが出して」
「ワタクシでいいんですノ?」
「………元々エヴァにはそういう役をやってもらうつもり。前衛にいる私より後ろから全体を見れるエヴァがやるほうがいい」
「わかりましたワ。フェイリンちゃんと指示に従ってくださいネ。初めてですから拙いところはあると思いますがよろしくお願いしますワ」
「大丈夫ネ。遠慮なく指示出して欲しいアル」
軽く打ち合わせしてしばらく進むとゴブリンエリート三体が通路にいた。
「行きますわヨ。真ん中と右はワタクシが足止めしますから、左のをお願いしますワ」
「了解ヨ」
「では、ヘイスト、ライトショット!」
エヴァがフェイリンにバフをかけ魔法を放った。フェイリンはバフを受けて左のゴブリンエリートに真っ直ぐ走り出す。右手で槍を持ち左手は投擲用のナイフを二本持っていた。ナイフを投擲しゴブリンエリートに隙を作る。ゴブリンエリートはナイフを腕で弾くが、弾いた瞬間には目の前にフェイリンの槍が迫っていた。
槍がゴブリンエリートの首を突き刺した。引き抜き真ん中にいたゴブリンに向かい合うと、エヴァの魔法が再びゴブリンエリートを捉えた。その瞬間を逃さずにフェイリンは槍を突き出し一撃で首を突き刺し仕留めた。
「ライトバースト」
もう一匹のゴブリンにはエヴァがゴブリンエリートの急所に魔法を放って倒していた。
「………ん。良い感じ」
「ありがとうございまス。フェイリン。今のはどうでしたか?」
「出来れば三体にスキル撃ってほしいね。隙ができるとやりやすいネ。今のは自分で作ったアル」
「わかりましたワ。五発くらいまで同時に撃てますから五体まではいけそうですわネ。少しずつ合わせていきましょウ」
フェイリンが放った投擲用ナイフとドロップした魔石を回収して先に進む。これ以降も二人は危なげなく順調に倒し続け連携を深めていった。休憩を挟みつつ進んで八階層のセーフエリア近くまできた。
「プリシラ。今日はそろそろ終わりにしましょウ。時間的にはもう夜中ですワ。少し欲張って進みすぎましたワ」
「ワタシも疲れてきたヨ。今日はもう休むネ。近くのセーフエリア行くアル」
「………わかった。私もお腹が空いた」
近くのセーフエリアに移動するとクリスマスイブのせいか、セーフエリアには五人パーティが一組いるだけだった。そのパーティとは反対側にワンタッチ式のテントとテーブルセットを設置し夕食の準備をする。夕食はミリ飯のためお湯で温めるだけなのですぐにできる。
「高いやつ買ったから美味しいアル」
「安いのは美味しくありませんワ。高いので正解ですワ」
「………そうなの?」
「安いやつは不味くはないけど質は落ちるネ。美味しいもの食べた方がやる気出るアル」
「栄養面も考慮されてますワ」
「………そういえば軍でも食事には気を使っていた気がする」
食事事情の雑談をしながら食事をとり軽く反省会をしようとエヴァが言った。だが反省会という風にはならなかった。
「ワタクシ感動しましたワ。前衛がちゃんとこちらに気を配ってくれるなんて嬉しくて嬉しくて堪りませんでしたワ!」
「…普通のことアル。なんでそんなに喜ぶネ?」
「………エヴァは前にいた軍で苦労したらしい」
反省会は以前エヴァがいた軍の部隊の話になった。ほとんどエヴァの愚痴だったがフェイリンも何度かそう言ったことを経験したことがあったため二人で愚痴を言いあっていた。
「お酒が欲しいですわネ!」
「それは我慢しないといけないアル。今日はそろそろ寝るネ」
「………じゃあ結界を張る」
寝ることになったため以前遥と来た時と同じように結界を張るプリシラ。その結界にエヴァが興味を示す。
「これがハルカの言ってた結界ネ。見張り立てなくていいのは楽ネ」
「…ワタクシではこんな結界は張れませんワ。質が違い過ぎます」
「エヴァも結界のスキル持ってたアル。同じスキルの使い手だと違いははっきりわかるネ?」
「ワタクシの結界よりも何段階も上の結界ですわネ。均一で強力。しかも直方体のように綺麗に形造るなんて出来ませんワ」
「………そのうちエヴァも出来るようになる」
寝る前に結界トークになりそうになったがプリシラが率先して水魔法を使って濡れタオルを作り二人に渡してテントに入っていったためそのままテントで寝る流れになった。二人もプリシラに続いてテントに入った。
三人とも体を拭き寝袋に入って寝ようとした時、プリシラが二人を抱き寄せてから押し倒した。
「……ハルカから聞いてはいましたが……これは予想外ですワ」
「贅沢にもワタシたち二人同時に堪能しようとしてるアル。むしろ二人同時は揉みにくいネ」
「………こんな機会はない」
「どうせ何日かダンジョンいるネ。それに普段も一緒に住んでるアル」
フェイリンのツッコミを無視して二人のおっぱいを幸せそうに堪能するプリシラだった。
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