51話 スーパー銭湯

 十二月二十三日。プリシラたちは予定通り近くにあるFランクダンジョンに来ていた。軽く走って体を動かすのとスキル練習が目的である。先にスキルの練習法を説明した。といってもまずはレベルを上げることが先決なため使うだけである。


 エヴァとフェイリンはスキルツリーの1、2段階目のレベルが高いためMPの制御練習になった。といっても基本的には使用するMPを増やしたり減らしたりの練習なのでスキルを撃つだけとなる。慣れて来ればMP使用量を細かくする練習になっていく。


 説明と練習も全員一通り終わったため軽くダンジョン内を走って体を動かすことにした。だがここで問題が発生した。プリシラ、遥、エヴァ、フェイリンは元々体力がある。桜だけがただの一般人だった。ジョブレベルが4まで上がっているが体験ツアーで上げたもので探索者活動はしていない。そしてよく運動をするというわけでもなかった。


 むしろ引き篭もって漫画を読んだりアニメを見たりするのが好きなのでそういったこととは無縁だった。学校の体育の授業くらいでしか体を動かしていなかったのだ。


 そんな桜が四人についていけるわけがなかった。しかも地面が整ったグラウンドなどではなくダンジョンの草原である。


「はひー…はひー…はひー」


「………想定外」


「体力づくりから始めないといけませんわネ」


 プリシラからすれば少し走っただけで桜は息切れして動けなくなったという印象だ。だが桜は必死に頑張っていたのだ。迷惑をかけないようにと必死になってついて行ったのだが元々の体力が違いすぎた。むしろ引き篭もりな桜としてはかなり頑張ったほうである。


 ステータスに体力があるがあれは防御力的な意味合いだと研究でわかっている。


「むしろよく付いてきたほうアル。サクラは一般人ネ」


「そうよね。立てる?」


「はひー…はひー……なん……とか…はひー」


 遥の手を借りてなんとか立ち上がる桜。だがその足は生まれたての子鹿のようであった。


「無理しなくて良いわ。座って休みましょう。プリシラはまだ走るんでしょ? 私がついてるから行って来ればいいわ。ここのダンジョンの魔物ならなんともないし」


「……そうさせてもらう。エヴァ、フェイリン。さっきより速度を上げる」


「望むところですワ!」


「体力には自信あるネ!」


 遥と桜を置いて三人は走って行った。


「ゆっくり体力作りしていきましょう。焦らなくて良いわ」


「はいぃ~~………」


 桜は地面に横になりながら返事した。約30分後に三人が戻ってきた。


「………ふうっ…意外と粘る」


「はあっはあっはあっ……なんとか…はあっはあっ……食らいつきましたワ」


「はあっはあっ……もう無理ネ」


 プリシラは二人をバテさせようとしたが二人がなかなかバテなかった。だが限界は近かったようで遥の元に戻ってきた時にはもう限界だった。今は膝に手をついて肩で呼吸している。


「お疲れ様。もう帰るの?」


「……二人の呼吸が整ったら帰ろうと思う」


「はあっはあっ……帰ってシャワーを浴びたいですワ」


「皆そうよね。でもあのペントハウスがいくら広くてもお風呂は二つなのよね」


「はあっ…はあっ…じゃあスーパー…はあっ…はあっ…銭湯行くアル」


「スーパー銭湯ですか?」


「はあっ…はあっ…来る途中…はあっ…はあっ…あったネ」


「いいわね。皆で行きましょう。真田さんに連絡して着替え持ってきてもらいましょうか」


「………よくわからないけど任せる」


 マンションとダンジョンの間にあったスーパー銭湯。ダンジョンの近くにはよくあったりする。探索者達は何日もダンジョンに潜っていることもあって出てきてすぐに風呂で汗を流したいと思う者は多い。ダンジョン近くのスーパー銭湯は探索者達にはとても人気があった。


 フェイリンは以前のパーティメンバーとよく行っていたため馴染みがあった。


 ダンジョンを出てスーパー銭湯へとやってきた一行。受付の女性がプリシラを見て焦っていたが構わず受付する。フェイリンが慣れた様子で五人分の手続きを受付で済ませてロッカーの鍵と、バスタオルとフェイスタオルと館内着が入ったトートバッグを四人に渡した。


「これがロッカーの鍵アル。無くしちゃダメヨ」


「………ロッカー?」


「行けばわかるネ。付いてくるアル」


 フェイリンに言われるがままに付いていくプリシラ。その後をエヴァがキョロキョロしながら付いていく。この中でプリシラとエヴァの二人はスーパー銭湯は初めてである。


 女子更衣室に着き鍵にある番号のロッカーへと向かうと番号を一つ空けた番号だったようで五人並んでいる。


「この鍵にある番号のロッカーが自分のロッカーになるね。ここに荷物と服を入れるネ」


「ここで服を脱いで浴場に行くのよ」


「……防犯は大丈夫ですノ?」


「日本は治安がいいから大丈夫ネ」


「………一応このロッカー? の中に結界を張っていく」


「プリシラの結界なら問題ないわね。私の探索者カードもお願いするわ。貴重品はプリシラの結界に入れて貰えばいいわね」


 治安が良いとはいえ知らない二人からすると不安になるようで気にしているがプリシラが結界を使うことで解決した。プリシラの服は地球にはない付与がされているため値段にするととんでもない額になることだろう。いわば異世界技術の結晶とも言える。なのでプリシラは結界で服を守ることにした。


「タオル持っていくヨー。鍵は手首に巻くネ」


「プリシラ。こうやって巻くのよ」


「……サクラ。教えてくださイ」


「は~い」


 全員が服を脱いでロッカーの鍵を閉めてバンドの付いた鍵をそれぞれ巻いて浴室へと向かう。


「ここから先がお風呂になるネ。でもその前にこれを読むアル! 大事なことアル!」


 フェイリンが指差した先には浴場における注意事項が大きく書かれた看板があった。かけ湯をしたり場所取りをしないなどの注意事項が書かれている。


「なるほど。多くの方が入浴されるのでこういったルールが決められてますのネ。私は入浴の際には髪をまとめないといけませんわネ」


「………誰もが使うのなら規則は必要。合理的」


「そういうことアル。ここはお金を払った人皆が使う場所ネ。自分の家のお風呂じゃないアル。だから自分だけが良ければ良いなんてもっての外ヨ」


「フェイリンは日本人じゃないのに日本人よりルール守ってそうね」


「たまに変なのいるヨ。そういうわけで入るネ~」


 フェイリンが浴場の引き戸を開けて入っていく。四人も続いて浴場に入った。エヴァは馴染みがないのか驚いて声を上げている。


「OH! これがジャパニーズ銭湯ですのネ! サクラ。さっそく体を洗いにいきまショウ!」


「走っちゃダメですよ~」


 エヴァと桜が洗い場に率先して向かった。プリシラ達も向かう。


「プリシラのいた国じゃこういう公衆浴場ってあったの?」


「……民の間ではあったらしいけど、私は知らない」


「そういえば王女だったわね。忘れてたわ」


「……そのまま忘れてていい」


「そうするわー」


 五人とも洗い場で髪と体を洗い終えて浴槽へと向かった。エヴァがハイテンションなため桜が押さえている。


「たくさん浴槽があってどのお風呂から入ろうか悩みますワ!」


「せっかくなんで全部回りましょ~。まずはここから入りましょ~」


 桜に言われた通りの浴槽に入りその後も二人は順番に入っていく。打たせ湯を見つけて二人で滝行などをして楽しんでいる。


「プリシラはエヴァみたいにはしゃいだりしないわね」


「……気持ちはわかる。でも私はゆっくりしたい。こんな広いお風呂は初めてだからとても満喫している。今度はあっちのお風呂に入りたい」


「プリシラはのんびり楽しむタイプね。私もそういうタイプだからゆっくりしましょう」


「ワタシサウナ行きたいアル。行って来ていいアル?」


「いいわよ。プリシラは私が見てるから」


「じゃあ整ってくるアル~」


 フェイリンがサウナに行った後は炭酸泉や寝湯、ジェットバスの風呂などを二人で楽しんだ。途中でエヴァと桜も合流して四人で壺湯に入った。狭い壺湯に二人で入ったりして楽しんていると体が熱ったので四人で休憩所のような所で水を飲みながら雑談している。


「ここ楽しいですワ! 今後も通わせて貰いますワ!」


「………ダンジョンから出て来たらここに来よう」


「大きい所だとは思ってたけど、こんなにお風呂の種類があるなんて思わなかったわ」


「月別で男湯と女湯が入れ替わるみたいですよ~。来月はまた違うお風呂が楽しめるみたいです」


 四人で雑談しているとフェイリンと楓がやってきた。楓も着替えをロッカーに置いて入ってきた。


「ここにいたアルか。そろそろ上がるネ?」


「お着替えは持ってきてますけどぉ~私はもうちょっと楽しみたいのでここにいますねぇ~。館内着で寛いでてくださいねぇ~。あ、下着だけは渡しにいきますよぉ~」


「そうね。そろそろ上がろうかしら。今日は十分楽しんだし、近くだからすぐ来れるものね」


 全員が了承し上がることになった。


 戻る途中に遥が他の女性客が転びそうになってきたのを受け止めた。その際に滑って転びそうになったがプリシラが結界で受け止めた。柔らかくする事も出来るようでフワッと受け止めていた。


「大丈夫ですか?」


「は…はい! 大丈夫です。ありがとうございます!」


「あの……そろそろ離れて?」


「す…すいません!」


 おっぱいに手と顔が当たっていたが不可抗力だろう。女性は一礼して洗い場に歩いて行った。


「皆転んだしなかったネ? 気をつけないとダメヨ」


「ここには通わせて貰いますから気をつけないといけませんわネ」


 エヴァとフェイリンが歩いていく中プリシラは結界を解き遥の前にいた。


「どうしたの?」


「……………」


 無言で遥のおっぱいを揉むプリシラ。何故今揉まれるのか遥は問いかける。


「何で揉むのよ」


「……これは私の」


「私のよ!」


 プリシラが独占欲を出したが遥は拒否。最後に軽く揉めて五人のスーパー銭湯入浴は終わった。

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