第24話 移りゆくもの
やがて無事に子どもが産まれた、薄紫の髪に金色の目をした女の子だ。
「これって……」
金の目は魔力が高い証と言われている。
今は無いその色に、ミューズは懐かしさを覚えた。
「懐かしいな、学生の頃はこの色をしていたよな」
金と青でとても綺麗であったのを覚えている。
魔女との契約で魔力を半分渡した時にその色も失われた。
髪は伸びたが、魔力は戻らない。
(本当は全てだったのに、あれは魔女の優しさだったのかしら)
初乳も飲み、ほっとひと安心だ。
安堵と疲労で眠気が強くなってくる。
腹部の痛みはなかなか引かないが、赤ちゃんが大人しい内に少し休みたい。
「少し休んでもいい? 眠くなってしまったわ」
「産まれるまで、長かったからな。何かあれば声をかけるから」
そう言って頭を撫でられた。
「ありがとう、ミューズ。可愛い我が子に会わせてくれて」
ティタンの目に涙が浮かんでいるのを見て、ミューズも涙が出る。
最初自分はこの子を一人で産み、育てる予定だった。
それなのにこうして一緒に涙を流すほど喜んでくれている人が側にいてくれるなんて。
とても幸せだ。
そしてこの人から、この幸せを奪わなくて良かったと心から感謝をする。
「ありがとう、私を選んでくれて」
ごめんなさいとはもう言わない。
産まれた子が胸を張って生きられるように頑張らなくては。
二人の幸せな雰囲気に思わずライカの口から愚痴が溢れる。
「俺も結婚してぇ」
「あたしもー」
チェルシーもラブラブな主達を見て、心底羨ましくなった。
「そもそも地位も名誉も捨ててお互いを想うなんて普通出来ねぇよ。ハードル高いわ」
ティタンの行動力は毎回度を越している。
子どもの頃に一人で魔獣の出る森に行ったり、隣国の王女との婚約を破棄したり、王族としての地位も捨てたりと思いきりが良すぎる。
魔女との取引で長年仕えた自分達すら捨てられそうになったし。
「ミューズ様も一途過ぎて、真似は出来ないわね。思い込むととんでもない方向にいってしまうし」
大好きな主だけれど、せめて相談の一つはしてほしかった。
そうすればすれ違いも起きなかっただろうし、あんな捨て身な計画も立てさせなかったのに。
結論から言えば、真似出来ない。
「「普通の恋愛がしたい」」
「二人共息が合うですね、お互いを意識してるですか?」
マオのからかいに二人は真顔になる。
「それはない」「あたしも」
間違ってもこいつではない。
「ではチェルシー、ルドはどうです?」
二人のやり取りを見て寂しそうにしていたルドを勧めてみる。
途端にチェルシーの反応は変わった。
「ライカよりはいいけど、でもそんな言い方じゃあルドに失礼でしょ」
あからさまに赤くなるチェルシーと対照に、ライカは青褪める。
「待てよ、俺はチェルシーが義姉になるなんて嫌だぞ」
「こういうのは本人達の気持ちなのです。ライカは静かにしてるです」
三人はルドの様子を見た。
「俺はチェルシーの事はとても家庭的で、主思いのいい子だと思ってますよ」
注目され、少し照れくさそうにそういうルドにチェルシーはますます赤くなった。
「ルドだって真面目で優しくて、凄く主思いの良い人だわ」
お互いを褒めることの何と難しいことか。
(ティタン様ごめんなさい!)
こんな無茶ぶりを自分はしたのかと、滅茶苦茶申し訳なく思った。
「そう言われると嬉しいです、ありがとうチェルシー」
照れ笑いをするルドにますます釘付けになる。
「すまん、外に行くわ」
甘い空気に耐えられず、ライカは外へと出る。
「ぼくも出るですよ」
甘々な人達を室内に残し、マオも外に出た。
まだ少し風は冷たいが、花々が芽吹く季節だ。
あちこちで色づいた植物を見かける。
「ここでの景色もあと半年か……」
次の冬が来るまでには移動する予定だ。
日にちが経つのはあっという間だ。
この分ではすぐに準備しないと次の冬もまたすぐに来てしまうだろう。
「寂しくなるですね」
ティタンとミューズにはまだ知らせていない。
アドガルム王家とスフォリア公爵家との連絡は従者達しかしていないし、余計な事はまだ主たちに伝えるものではないと考えていた。
ひと時の自由時間だ。
貴族というしがらみからは逃げられない。
アドガルムの王太子、エリックがそれを良しとしなかった。
「悪い方向に行かなければいいけどな」
「命が取られないだけありがたいのです」
マオはそう言って空を見上げる。
どこまでも続きそうな青空が広がる、ここまでの自然は王城では見られなかった。
「監視もなく、ただ廃嫡する、なんてことは普通はあり得ない。王族の血を引く者や子どもを野放しにするなんて絶対に許されない」
血筋の正統性を保つために普通であればそのままにはしない。
いくらエリックが弟思いとはいえ、こうして他国にいることを許すとは何かを考えているとしか思えない。
「お前の兄貴に聞けないのか?」
エリックの側近の二コラはマオの兄だ。
そのつてで何かわからないかという事らしいが。
「あの狂信者が、エリック様に無断でぼくに思惑を話すとは思えないのです」
二コラは崇拝するかの如く盲目的にエリックに従っている。
命を脅かす程切羽詰まったものでなければ、けして情報を漏らさないだろう。
「その時まで待つしかないか」
結局国の命令に従うしかなくて、嫌になる。
だがティタン達の為と言われたら逆らえない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます