毒舌アサシン娘にもてあそばれますっ!?

うさぎむら

第1話天使のような女の子……?


「ここが冒険者ギルド……かな?」


 堂々たる佇まいの建物を前にして、メモを手にした少女が一人。

 キョロキョロと辺りを見渡してはメモをじっくりと眺める。いかにも田舎者ですよという雰囲気を醸し出していた。

 そもそも冒険者ギルドは大きな町であればどこにでもある。分かりやすいようにどの町でも建物の形も統一されているため、知らない=田舎者という認識が一般的である。


 ただ、この少女の雰囲気は少し違っていた。

 透き通るように白く長い髪に、天使のように整った顔。風が吹けば倒れるような華奢ななで肩に、レイピアのような細腕。身にまとう服は象徴的な赤いリボンとブレザー、チェック柄のスカート。ここ神都ラグナブルグではよく見かける服装。

 そう、聖アナスタシア女学院の制服だったのだ。

 王族や貴族が通う女学院で一般庶民は通うことができない、俗に言う高嶺の花というやつである。

 つまり少女は田舎者などではなく、箱入り娘なのだと推理することができた。


 そんな子が日中に街中を闊歩しようものなら当然注目の的となる。

 しかも一級の美少女ともなれば、もはやトラブルメーカーともいえよう。

 現に今、少女は2人の男たちに目を付けられていた。

 今しかないというタイミングで声をかけられる。


「ねえねえお嬢さん、俺達とお茶でも飲まない?」

「ギルドなんか入らないでそこの裏路地にいこうよ」


 強引に体をよせギルドから遠ざけようと押し迫る。

 普通の女の子ならこの迫力に逃げ出すか、そのまま押し切られるかどっちかになっただろう。しかし少女はそのどちらでもなかった。


「あ、やっぱりここがギルドで良かったんですね。せっかくのお誘いなんですけれど|ここ(ギルド)に用事があるのでごめんなさい」


 ぺこりと申し訳なさそうに会釈をしながら断った。無自覚か真面目か、あるいは只々天然なのか。純白な少女だと確信した男たちは思わず笑みがこぼれる。


「ははっ! 実は俺達、冒険者やっててさ! いろいろと教えてあげるから向こうで話そうぜ?」

「依頼なら裏口から入った方がいいんだぜ」


 常識人であれば絶対に騙されないような嘘を息をするようにはき、少女の背中を押すように誘導していく。

 真面目な少女は、「あ、そうなんですね」と笑顔で答えると、押されるがまま裏路地へと歩みを進めた。

 細い裏路地。そこは人一人が通れるほどの道。

 前と後ろに挟まれるようにして足を踏み入れた。

 しばらく細い裏路地を歩いていくと、前を歩いていた男が急に立ち止まった。


「さて……そろそろいいか」

「ふはは、ちょろいもんだ」


 急に態度を一変する男たち。

 通せんぼをするように壁に手をつき、いきり顔で少女を見下ろす。

 男たちの身長は180セクトほど。それに引きかえ少女の身長は154セクトしかない。上から見下ろされる圧力は半端ではない。


「これほどの上玉なら高く売れそうだな……しかも初物ならば倍の値がつくぞ」

「へへへ、もしくは薬漬けもいいかもなそれなら俺達も楽しめるだろ」

「馬鹿か。お前と違って俺はロリコンじゃねえんだ。こんなんじゃおったちもしねえんだよ!」

「こんな可愛い子なんてそうそういないぜ? 数年間飼ってればお前好みにもなるだろ」


 頭上で行われる下衆(げす)な会話。はっきりいって耳を塞いでいたいほどだ。

 思わず少女は、「はぁ」とため息をつく。


「何ため息ついてんだ? 殴られてえのか! あぁ!?」


 男がそう言えば大抵の女は縮こまってしまい、ごめんなさいと謝ってきた。

 だから今回もそうなると思っていた。

 だが、少女は予想外の反応をする。


「本当にバカなんですね……最初っから後を付けられてるのは気付いていたんですよ? 田舎者を演じたらほいほい釣られちゃって──ぷぷぷ」


 男たちは何を言われてるのか一瞬分からなかった。

 さっきまで清楚が服をきて歩いてますっていう感じだった少女が何故か男たちをあざ笑っているからだ。

 男たちは目をごしごしとこする。

 少女の顔は可愛いままである。本当にその口から発した言葉なのか疑わずにはいられなかった。


「お前が言ったのか?」

「……はあ? 脳だけじゃなく耳まで腐ってるんですか? そこまでくると笑えないですよ」


 うん、やっぱり少女が言ってた。

 この可愛い顔のまま汚い言葉を喋っている。

 そうと分かると男たちは表情を強張らせた。


「おいおい、俺達にそんな生意気な態度を取っていいと思ってるのか?」

「ちょっと痛い目に合わせないと分からないみたいだな……へへへ」

「そうだな……こんな口答えをするやつは従順にしてから売り飛ばさないとな」


 男たちはそう言うと少女に掴みかかろうとした。

 ──だが。


「へ?」

「あれ?」


 掴みかかろうとしていた腕が無くなっている。

 それどころか少女さえも目の前から消えていた。

 

「え、なにが──」

「うわー手も汚いですね。 ちゃんと手洗ってるんですか?」


 上から声がした。

 男たちは上を見上げると、両壁に足をつっかえ棒のようにして支えながら立っている少女がいた。

 スカートの中が丸見えとなっているのだが、そんなことよりも信じたくない事実が男たちの視線を釘付けにした。


 男たちの腕が切り取られていて、それを少女が汚いものを摘まむようにして持っていたのだ。


 したたり落ちる血が地面にぺちょぺちょと血だまりを作る。


「あああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!!!!」

「五月蠅いですね。私も要らないのでこれ返します」


 乱雑に投げられた腕が男たちの顔面を直撃する。

 

「さて、どう料理してあげましょうか? 目をくりぬくのもいいし、耳をはぎ取ってもいいですね」

「あああああああぁぁぁっぁぁぁぁ助けてくれぇぇぇぇぇ!!!」

「ひいいぃぃぃぃぃぃぃぃ!! すみませんでしたぁぁぁぁぁ!!!」


 男たちは寄り添ってぶるぶると震える。

 少女はニコッと笑う。


「土下座してティアちゃんごめんなさいって言ってください」

「へっ!?」

「え?」


 男たちは何のことだか一瞬わからなかった。


「やらないなら死んでもらいますけど?」

「わかりました土下座しますぅぅぅぅ!!!」

「今すぐやりますうぅぅぅっぅ!!!」


 その場で額を地面に強打し、思い切り土下座をする男たち。


「「ティアちゃんごめんなさいぃぃぃぃぃ!!!」」


 気持ちいいほどハモる男たち。

 少女は両足を壁から外し、すっと猫のように静かに着地した。

 そして男たちの頭に足を乗せ、グイグイと踏みつける。


「うふふふ、やっぱりこの瞬間は最高ですね」


 しばらく踏みつけて楽しむ少女。

 踏みつけすぎて男の髪の毛はボロボロと抜けている。


「でもごめんなさい。あなた達みたいなゴミは私たちにとって邪魔だから殺せって言われてるんですよね」


 パッと足を放す少女。


「ひいぃぃぃっぃい!!!!」

「た、助けてくれぇぇぇぇ!!!」


 狭い裏路地を二人して慌てて逃げようとしていたため、絡まり合い転倒する。

 次の瞬間、スカートがふわっと浮くようになびくと一閃。空気を切り裂くような突風が流れる。

 刹那、少女の位置が表通り付近まで移動した。

 後ろでは男たちの首がころんと転がる。

 ナイフを一振りし血痕を落とすと、手慣れた手つきで足のチョーカーベルトにナイフを戻した。


「はぁ~いい仕事しました」


 清々しい笑顔を見せると、少女は表通りに戻っていった。

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